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第三章 シャノン大海戦編
EP51 警告
しおりを挟むそれぞれ必要な物を買った二人は北に向けて出発した。天気は快晴で、日差しが照りつけている。
「うげ・・・あっつ・・・。」
シンは耐えきれずに言葉に出した。
それにより、更に暑く感じるようになった。
「先の事でも考えましょう・・・。」
花も出発してまだ1時間なのに、既にバテ始めている。
息が荒くなり、首筋が汗で光り始めた。
「北って、流石にアバウトすぎると思うんだよな。なんか目印ないのか?」
シンは無理に笑顔を作って聞いた。
「えぇっと・・・たしか"シャノン"っていう港町があるらしいわ。そこの近海に、アトランティスは沈んでるそうよ。」
「近海ってことは観光とかもあるのか?」
シンは真面目な顔をして聞いた。
海底を観光出来るほどの技術力が、この世界にない。という事実は、今の彼では思い付かなかった。
「どうかしら・・・結構危険な海だって聞いたわ。潮の流れは遅いけど・・・。」
「今日はもう寝るか?言われてみれば、留置場でもまともに寝れてないんだ。普通に寝不足だぜ。」
シンは花を気遣い、まだ正午だがテントを張る提案をした。
「いやいや、まだまだ行けるわよ!」
花は強がっているが、足取りもおかしい上に、顔が赤くなっている。
「完全に熱中症だな。いいから、今日はもう休むぞ。清也にキレられるのは俺だからな!」
シンは、清也が自分を叱責しないと分かっていたが、その名前を出せば花を納得させられるだろうと思った。
「そ、そうよね・・・。」
花はシンの予想通り大人しくなった。
「テントは俺が張るから、お前は木の下にでもいてくれ。」
シンはそう言うと、5分と経たずにテントを設営した。
「ありがとう・・・。」
花は具合が悪そうな表情で感謝すると、倒れ込むようにテントに入って行った。
花が無事にテントに入るのを見届けたシンは、思い出したように強烈な眠気に襲われ、花と同様にテントに入った。
~~~~~~~~~~~~~~~~
目を開けると、シンは不思議な空間にいた。
辺りは水に覆われているのに明るく、呼吸ができる。目の前には苔むした台座と錆びた二つの扉がある。
(ここが・・・アトランティスなのか?)
シンが目を凝らすと、左の扉の近くに人影がある。
「開いたぞ!」
人影は扉を開けると、部屋の中に入ろうとする。
しかし、その時ーー。
「ご苦労だったな。」
シンは自分とは違う者の声が、喉から発せられるのを感じた。そして、槍を握りしめた腕が一人でに振り上がった。
(お、おい!何やってるんだ!やめろ!!)
シンは自分を止めようとしたが、体が言うことを聞かず、手に持った槍は人影を貫いた。
「裏切・・・ったな・・・。」
貫かれた人影は倒れ込んだ。
シンは自分の意識と無関係に、その顔を覗き込む。
倒れ込んだ人影は若い男で、その瞳に光はない。
「秘宝"ミストルテイン"は俺の物だ。悪く思うなよ!」
シンはそう言って、笑いながら部屋に入った。
部屋の中央には巨大な棺のような箱がある。
しかし、部屋に入り数秒が経った時に異変が起こった。
突然入ってきた扉が音を立てて閉まり、天を裂くほどの荘厳で、恐ろしい怒声が聞こえた。
「弱く汚い心よ!暗闇で眠るがいい!!」
天井から何本もの三叉の槍が現れてシンに電撃を放った。
「おわあああああああああああ!!!!!!」
凄まじい激痛と絶叫に合わせるように、シンの意識は途絶えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「うわぁっ!!」
シンは人生で初めて、叫びと共に目を覚ました。
目に入るのは苔むした部屋ではなく、新品のテントの天井だった。
「夢、か・・・。」
シンは、"太古から伝わる言葉"を発した。
「あれは誰かの記憶なのか・・・?
ミストルテイン・・・聞いたことがあるような?」
シンはその響きに覚えがあったが、
エクスカリバーと違い、思い出せなかった。
(喉渇いたな・・・。いま何時だ?)
シンは汗でベタつく腕を掲げ、カンテラで時計を照らし、時間を確認する。
(朝の4時・・・半日以上寝てたのか!)
シンは飛び起きたが、すぐに花を起こさないような忍足に変わった。
(川でも探すか。)
シンがテントのジッパーを開けると、外はまだ暗かった。
しかし、朝日の先端のようなものが見え始め、地平線が紫色に染まっている。
(仕事がないってだけで、早起きはこんなに素晴らしいんだなぁ・・・。)
シンは2ヶ月以上会っていない上司を思い出し、吐き気が込み上げてきた。その顔を、清也と花の顔で打ち消した。
最初に会ってから3週間と経っていないが、シンには二人が10年来の付き合いの様に感じられた。
「そろそろ行くか!」
シンは小さく気合を入れると、ナックルダスターを両手に嵌めて、静まり返った森の中へと分け入った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
川を見つけること、それは薄暗がりの中でも難しくは無かった。
水の流れる音を辿れば良いのだから。
シンは僅か2分で川に辿り着いた。
暗闇でよく見えないが、川の対岸にも四足歩行の何かがいて、水を飲んでいる。
目には映らないが、シンは不思議な気品のようなものを"その水を飲む何か"から感じた。
(一応、少しだけ上流の水にするか。)
動物の唾液から病気になった話を、友人から聞いたことがあったので、念には念を入れることにした。
シンが水を飲み終え、持ってきた水筒を満たすと、ちょうど朝日が昇り、シンのいる川を照らした。
川は想像よりも澄み切っており、濁りを少しも感じないばかりか、川底の石に苔すら生えていない。
シンが顔を上げて立ち上がろうとすると、対岸にいる"もの"が目に入った。
「・・・ッ!?そうか!アレが清也の言ってた・・・。」
シンはその場に立ち尽くした。
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