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第二章 黄金の魔術師編
EP47 天空の本棚
しおりを挟む清也は勇者についての本を読み終わると、ちょうど他の二人も読み終わったようだった。
「勇者について一応、調べ終わったんだけど、二人は何について調べたの?」
清也は先に二人に質問した。
「私は回復魔法についての本を読んだわ。
どうやら水晶の杖っていう杖が世界のどこかにあって、その杖があればかなり強力な回復魔法を生み出せるらしいわ。」
「俺はごく普通に昨今の経済について読んでた。なんだかんだで、見てて面白いからな。」
シンが意外に博識で二人は少し驚いた。
「シンって、大学どこ出てる・・・?」
清也は恐る恐る聞いた。
「自慢になるけど、慶田大学の経済学部出てるよ。」
シンは顔色を変えずに言った。
「大学入学?」
清也は興味深々だ。
「ああ、うん。高校は受けなかった。なかなか馴染めなくて大変だったよ。」
少し悔し気に言った。
「大入生は優秀だからなぁ・・・。みんな妬んでるんだよ。幼稚園入学なんて・・・。」
清也はこれ以上は言わないことにした。幼馴染の級友の成績は、よく知っている。
しかしこれを、一番の馬鹿が言うべきではないと思ったからだ。
「あれ?清也って慶田大学なの?」
花も不思議そうに聞いた。
「裏口だよ・・・。大学何て、休みすぎて学部さえ覚えてないもん。」
清也は後ろめたそうに言った。二人に軽蔑されても仕方ないと思ったからだ。
「でも清也の良いところは学歴じゃないでしょ?
学歴を鼻にかけてる訳でも無いんだし、そんなに気を落とさなくてもいいと思うわよ。」
花は少しも気にしていないようだ。
「そうだぜ、この世界に大学自体存在しないしな!会社も無いし最高だぜ!」
シンもあまりに気にしていない。
むしろ、何処か晴れやかな顔をしている。
「そうだね、変な話してごめん!
僕はエレーナ様と2人で話したい事があるから、2人はまだここに居ていいよ。」
清也はそう言って、逃げるように空間から出て行った。
~~~~~~~~~~
清也は玉座の間に戻るまでの廊下で、立ち止まって再びあの絵を見た。
冷静に見れば落書き以外の何者でも無い。背景を見るに、画用紙に書かれてすらいない。ノートのような神に、殴り書かれているようだ。
「馬鹿らしい・・・。」
清也は小さく呟くと歩き始めた。
玉座の間に着き、扉を開けるとエレーナはまだ部屋の中に居た。
疲れているのか、座ったまま眠っている。
「も、もう無理よ・・・あなた・・・。もう眠たいの・・・♡」
エレーナは寝言を呟いている。
(食事の夢でも見てるのかなあ?起こしたら、天罰かもしれないな・・・。)
清也は、自分に稲妻が落ちる様子を想像して身震いした。
(まぁ、近付くだけならいっか。)
清也はそう思い、音を立てないようにゆっくりと歩いて行った。
すると、エレーナは突然目を開けて大きく伸びをした。
「あれ?其方だけか?」
エレーナは不思議そうにしている。
「2人はまだあの図書館にいます。部屋というには不思議な空間ですね。」
清也はそれとなく聞いてみた。
「あの図書館は天空の本棚と言ってな、ありとあらゆる世界で起こった出来事が全て記録されている。
私と其方がここで今、会話している内容もリアルタイムで記録されているぞ。凄いだろう?」
エレーナは少し自慢げに言った。
人間にそんな事を自慢したって仕方ない、というツッコミはしないことにした。
清也はそれを聞いて、一つの質問をしてみることにした。
「天空の本棚には、廊下に飾ってある絵についても載っているのですか?」
清也は遠慮がちに聞いた。
「最後の一枚を除いてはな・・・。其方が知りたいのはあの絵についてだろう?」
エレーナはすべてを見透かしていた。
どうやら、エレーナもあの絵に対して思うところがあるようだ。
「あの絵は、”お前が元の世界で死んだ日”、具体的には西暦2021年の5月21日に突然あの場所に現れたんだ。作者の名前にも心当たりはないし、描くことを頼んだ覚えもない。
外そうと思ったのだが、呪いのような物が掛かっているせいで動かせなくてな・・・。」
エレーナは不思議そうに首をかしげている。
「変なこと聞いてすみません!そういえば、僕が死んだ後の世界はどうなりましたか?」
清也は女神と呼ばれるほどの存在に、”分からない”と言わせるのは失礼な気がして、話題を変えた。
「至って平和だ。悪の秘密結社のテロも、世界大戦も起こってはいない。
ウイルスの蔓延もだいぶ収まり、オリンピックとやらも予定通り開催されるようだぞ。」
エレーナは微笑みながら答えた。
「父さんは元気ですか・・・?」
恐る恐る聞いた。
妻を既に亡くしている清也の父、吹雪悠王にとって、一人息子は会社以上に大切な存在であった。
清也もそのことを知っていたからこそ、余計に心配になった。
「かなり塞ぎ込んでいるよ。お前が死んだ日のうちに、孤児の少年を跡継ぎとして養子にとらされた。
それでも、心の隙間を埋めるほどじゃないようだ・・・。」
「会いに行くことは・・・無理ですよね。」
清也は回答を自己完結した。
「ああ、転生は与えられる使命の重みをエネルギーにして行われる。
特に生まれた世界に戻るには、膨大なエネルギーが必要なのだ。残念だが・・・。」
「何回も質問して申し訳ないのですが、僕の弟は一体どんな子なんですか?」
清也は純粋な好奇心で聞いた。
「そうだなあ・・・。其方とは別の意味で吹雪の姓が似合う少年だと思うぞ。
其方がどちらかと言えば冷静な性格だとすれば、あの少年は”クール”な感じだな。ちょっと違うかもしれないが・・・。
お前と同じ慶田大学初等部のカリキュラムの元、ぐんぐん能力を上げているようだ。吹雪カンパニーは安泰だな。」
エレーナは満面の笑みを浮かべている。真っ白な八重歯が光を反射し輝いた。
「それは良かった・・・。後は、父さんさえ元気になれば・・・。」
清也の心にエレーナの”どちらかと言えば”という、何気ない言葉が突き刺さった。
それにより、自分よりも吹雪を継ぐのに相応しい人間が居たのだと思い込んだからだ。
「そろそろ他の2人が読み終わったようだが、其方はこれからどうするのだ?」
エレーナは唐突に聞いた。
「修行をしようと思います。
今の力では、これからの戦いに勝てないという事が、実感できたので・・・。」
清也はラドックスの圧倒的な力を思い出して身震いした。
「それに、勇者の伝説にある"琥珀色の瞳"についても調べたいんです。」
清也はこれまでの経験から、その事がラドックスを倒す鍵なのだと分かっていた。
「分かった、頑張るのだぞ。ちなみに当てはあるのか?」
「はい、1人だけ・・・。」
清也の頭に1人の男が浮かんだ。
「2人にテレパシーで聞いたのだが、2人は今後の目的を見つけたようだ。
3人とも地上に戻しても良いか?」
「はい、大丈夫です。場所はソントの町でお願いします。」
「了解した、では健闘を祈る。」
エレーナがそう言うと足元に魔法陣が現れて、清也の意識は渦の中に吸い込まれて行った。
~~~~~~~~~~
清也たちがいなくなり、一人玉座の間に残されたエレーナのもとに、豪華な服を着た若い男がやってきた。
青い長髪を垂らしたその男は、一枚の長い紙を両手に抱えている。
「サフィード、一体どうしたの?
まだ帰れないわ。仕事が終わったのなら、部屋で待っててちょうだい。」
エレーナはいつもの男勝りな口調ではなく、女性的な口調に変わった。
表情も清也たちを前にした時よりも明らかに緩んでいる。
サフィードと呼ばれた男は重苦しい顔をしている。
「エレーナ、勘違いしないでくれ。
そういうつもりで来たわけじゃないんだ。君に伝えたいことがあって来たんだ。」
「用件を聞こうか」
エレーナは急に女神モードの顔に戻った。口調は固くなり、声も幾分か低くなった。
「昨晩とはまるで別人のようだな?あの、高くて可愛い鳴き声・・・♪」
サフィードはそれとなくエレーナをからかった。顔は悪戯っぽく笑っている。
「もう!恥ずかしいこと言わないで・・・///忘れてよ!♡」
エレーナもそのペースに流されている。
「じゃあ、本題に入ろうか。趣味の一環としてあの青年・・・名前は吹雪清也といったか?
まぁ良い、彼の弟になった少年についていろいろと検査してみた。そしたら・・・。」
サフィードは手に持っている長い紙をエレーナに手渡した。
ー吹雪改世(6歳)についての検査結果報告ー
性別・・・男
身長・・・123cm
体重・・・22kg
知能指数・・・190
身体能力・・・94
過激思想度・・・98
カリスマ性・・・95
残忍性・・・・・97
計画実行力・・・93
ー天界情報整理部神位 サフィード・エレクティス ー
一通り目を通したエレーナは不思議そうな顔をして聞いた。
「私には読み方がいまいちわからないのだけど、中々に物騒ね・・・。」
「物騒なんてレベルじゃない!こんな値は前代未聞だ!
同じ世界の住人、どの人物と比較しても異常な値だ!」
サフィードは身震いをして言った。
「あなた、何が言いたいの?」
エレーナは夫を心配している。
「この、吹雪改世という少年は遠く無い未来、何か恐ろしい事を成し遂げる・・・。」
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