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第二章 黄金の魔術師編
EP45 影武者
しおりを挟む「一体、いつから気付いてたんだ?」
シンは笑いながら聞いた。
「君がナイトハンターを倒した時、首に刺さった杭が不自然な方向から刺さっていた。
あれは上から刺したんじゃなく、キックと同時に首に埋め込んだんだろ?
それをするには、空中に杭が足と平行な向きに浮いてる必要が有る。それで、少し不思議に思ったんだ。」
シンはヒューッと、上げ調子の口笛を吹いてから言った。
「嘘だろ、そんなことで気づいたのか!」
シンは呆れ顔で笑っている。
「いや、確信に足る証拠を得たのは、君の部屋に入った時だ。
あの時、君の机の上に置いてあったノートの片方は、明らかに一般人のノートじゃ無く、何かしらの学問の領域に達してた。
それで思い出したんだ。黄金使いは銀行員。経済学部を出た人間が、計算を異世界の素人に任せる訳ないってね。」
清也自身も、妙な勘の鋭さに呆れている。
「あの影武者には、色々と世話になったんだ。特に転生したての頃はな。
それなりの給料は渡していたが、まさか殺されるとは・・・。」
シンは少し沈んだ顔で言う。
それに対して、清也は悔しそうな顔を浮かべ、厳しい現実を告げた。
「シン・・・これは僕の勘なんだけど、ラドックスはまだ生きてる。
それに、奴は間違いなく魔王と繋がりがある。彼の仇を討つためにも、僕たちと来てくれないか?」
「元からそのつもりだったさ、それにお前だけじゃ花ちゃんを守るには頼りないしな!」
シンは早くも、いつものお調子者に戻っていた。
「ねぇ、二人ともこれからどうするの?ラドックスを追う?」
花が駆け寄ってくる。息を切らしてはいるが、怪我はしていない。
「いや、奴を追っても僕らじゃ勝てないと思う。
二人には本当に感謝してるけど、さっきのは運が良かっただけだ・・・。」
清也は申し訳なさそうに俯いた。
「そんな顔すんなって!誰も落胆なんてしちゃいないさ!」
「そうよ、まだまだ私たちは強くなれる。そう思ってポジティブに行きましょう!」
シンと花は醜態を晒した清也を励ますが、彼を覆う無力感は取り払われない。
「二人ともありがとう。
これからについてだけど、エレーナ様と君を仲間にしたら天界で会う約束をしたんだ。
まずは、その約束を果たさないと。」
深呼吸し、冷静さを取り戻す。瞳の色も元の緑色に戻っていた。
「あぁっ!約束、完全に忘れてた!」
花は頭を抱えて声を上げた。
「でも、女神様に会うのはいいが、どうやったら天界って行けるんだ?」
シンは、二人なら当然知っているという調子で聞いた。
「えぇと・・・分からん!」
清也は正直に答えた。独特のユーモアが戻り始めている。
「嘘だろ・・・。」
「まぁ、なんとかな・・・うわぁっ!!??」
そこまで言うと、空中に巨大なワームホールが開き、突如として発生した竜巻に巻き上げられ、清也たちは中へと吸い込まれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
目が覚めると、そこは見覚えのある場所。初めて天界で目覚めた場所だった。約2ヶ月前から何も変わっていない。
鳥は歌うようにさえずり、虹色の水が流れ、木々は爽やかに揺れている。
「うわっ・・・重い!」
清也は、倒れている自分の上に乗っかる何かを払い除けた。それは、目を覚ましていない花だったーー。
(聞かれなくて良かったぁぁぁぁッッッッ・・・!)
清也は胸を撫で下ろした。
「うぐ・・・中々に荒っぽい移動方法だな・・・電車に轢かれるよりはマシだけど・・・。」
シンも目を覚ましたようだ。頭を押さえている。
「二人でトラックに轢かれて、仲良死の方がマシよ・・・。」
清也は花の発言によって、電車に轢かれたのがシンの死因なのだと気付いた。
「とりあえずエレーナ様に合わないと・・・。」
立ち上がった清也は手を出して、花が立つのを手伝おうとしたが、その手を握ったのはシンだった。
「そういえば、エレーナ様も中々の美人だよな!いや、女神ならあれが普通なのか?
そうだとしても美人か・・・歴代の女神様の肖像画と比較して、いや・・・。」
シンはどうでもいい事に考えを巡らせ始めた。
すると、後ろから聞き慣れた声がした。
「”300は余裕で超えている”私を美人・・・嬉しい事を言ってくれるではないか!」
振り向くとエレーナが、優しく微笑みながら立っていた。
一呼吸置いて、エレーナは真面目な顔になり、清也たちに語りかけた。
「さてと・・・これからの話をしよう。まずは場所を玉座に移すとするか。」
エレーナがそう言うと、視界がぐわんと歪んだ。
瞬きをした次の瞬間、立っている場所は玉座の間へと変化していた。
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