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■第1章 突然の異世界サバイバル!

011 うっ、海だ~っ!

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 次の日、銀河と美怜はブーンズのみんなと海へ向かう途中にいた。道なき道を行くのは骨が折れる。とはいえ少しずつ歩くのにも慣れてきて、呼吸の仕方や休憩の取り方なんかも要領がわかるようになってきた。目印の叶結びも七回作ったところで銀河も完璧にマスターした。

「あっ、みれちゃん! 潮の匂いがする!」
「あ……本当だ!」

 風の中に海の匂いと微かな波の音を見つけてふたりは明るい顔を見合わせる。ブーンズのみんなも嬉しそうに声を上げた。丈の長い草を分けて匂いの濃くなる方へ進んでいくと、視界がパッと開けた。

「うっ、海だ……っ!」
「わあ……!」

 とはいえ浜辺にはまだ遠い、森の終わりは崖の上だった。どうやらユリタンがアジを取ってくれたのはこの崖からのようだ。だが、視線の先に広がる水平線と青い空がなんともすがすがしい。これまでうっそうとした森の中にいたから余計に気持ちよく感じる。ただ、海には舟や釣り人などは全くなかった。

「う~ん、結構岩場の斜面がきついね。どこから浜に降りるんだろう……」
「そうだね……」

 そのときヒシャラが、くいくいっと美怜の袖を引いた。

「どうしたの、ヒシャラ……。うん、うん……」
「あ……、そうか、ヒシャラはここまでか……」

 ヒシャラのおかげもあって、無事に森を抜けられた。ここでヒシャラを大蛇に戻してあげるという約束だ。納得はしていたけれど、銀河は心の内はひどく残念な気持ちでいっぱいだ。釣りを通じてせっかくヒシャラと心が通じ始めてきたばかりだというのに。

「ヒシャラ、今までありがと……」
「銀ちゃん、なんか、ヒシャラがアジを釣りたいんだって」
「えっ?」
「早く下まで降りようって言ってるんだけど」
「え……えっ……、で、でも」

 ヒシャラはフンスフンスと鼻を鳴らして、岩場の下をギラギラ見つめている。美怜がにこっと笑った。

「ヒシャラの気が済むまで一緒にいようよ」
「う、うん……!」

 うれしい驚きだったが、ヒシャラが今の体を楽しんでくれているうちはヒシャラはヒシャラのままだ。特別に大事にしてきたデザインが具現化したヒシャラがまだそこにいてくれることがうれしくて、銀河は気持ちが上がった。

「よしっ、じゃあ浜に下りれる道を探そう!」
「じゃあ、ここを起点に手分けして探してみる?」
「そうだね。じゃあ、斥候作戦をしよう」
「せっこう作戦?」
「うん、探索のときに万が一迷子になったときのために、事前に決めごとをしておくんだ」

 銀河の言う斥候作戦はこうだった。探索した道にこれまでと同じように叶結びの目印、そして危険個所には吉祥結びをつけていく。万が一迷ってしまったときには、最後の目印を付けた地点まで戻って待機、休憩をする。探す方は声を上げながら目印を探して歩きまわる。【※41】

「うん、わかった! じゃあ、吉祥結びはまだ覚えてないと思うから、いくつか作って渡しておくね」
「ありがとう! じゃあ、僕はタンズをつれていくから、みれちゃんはヒシャラと一緒に行って」
「ありがとう……、だけど、銀ちゃん大丈夫?」
「うん、僕の力でもレベル1のモンスターは倒せるってわかってるから」
「うん、わかった! じゃあどれくらいまで探索する? 地形にもよると思うけど、私たちの歩幅だと大体二千五百歩で一.五キロメートルくらいだよ。足場は良くないだろうから時間にしたら四十分か五十分くらいはかかるかも」
「え……!? すごいね、みれちゃん、なんでそんなことがわかるの?」
「うん、建築って建物だけじゃなくて空間のことも大事だから。私たち今身長が大体百三十センチくらいでしょ? そうすると……」

 美怜がいうことには、身長の約四割くらいの長さが歩幅となり、およそ六十センチメートル。二千五百歩歩けば一.五キロになるという計算だ。小学生の脚で徒歩の時速は大体三キロ弱くらい。平坦な道なら三十分程度で歩くことができる。ただ、足場が悪いとそうもいかない。だが完璧に正確とはいかなくても、参考にすべき指標にはなる。【※42】

「そうか……、知らなかった。僕達ここまでどれくらい歩いてきたのかな」
「私が覚えている限りでは、初めて野宿したところから小屋までが七キロ、小屋から川までが五キロ、川からここまでがくらいだと思う十六キロくらいだと思う」
「みれちゃん、か、数えてたの……?」
「うん、なんとなくだけどこれまで歩いてきたところは頭の中にイメージできるよ」

 空間設計に関わる人の空間認知能力というのはなかなかにしてすごい。銀河は自分でもこれまで歩いてきた森の中を頭に思い浮かべてみたが、正直イメージできるのは漠然とした木々、川、岩といった場面だけだった。ランドマークや固有名称のついた駅や道のある町中ならともかく、これといって区別のつかない木ばかりが並んだ景色では、慣れていない人にとっては覚えようがない。しかし美怜は建築模型だけでなく山河を含めたジオラマも仕事や趣味で製作している。だから見たものを頭の中で立体的に描くことが得意なのだろう。銀河にとってはそれだけでもすごいのに、美怜が具体的な距離を把握していたのには驚きしかなかった。

「そういえば、タブレットの簡易レーダーの記録が……。うん、確かに、記録ルートから推測するとそれくらいかもしれない」
「このレーダー、方向以外にも距離や地形も表示してくれるといいのにね、地図アプリみたいに」

 美怜がつぶやいたとき、タブレットから通知音がした。

「カメラをかざすと、通過ルートを記録できます」
「おっ! 新しい機能だ! いうことは、僕の眼鏡でルート記録を常にオンにしておけば」
「リンクを開始します。記録を開始します」
「銀ちゃんの眼鏡すごい! これなら通過してきた場所が見たままに記録に残るんだね!」
「そうみたいだ! よし、じゃあ、僕は時間とおおよその距離がこのガジェットで把握できるから」
「うん、じゃあ私はこれまで通り歩数で測ってみる。ひとまず三キロ地点まで、時間にして二、三時間後くらいにここで待ち合わせでどうかな?」
「うん、いいよ! じゃあ僕はこっち」
「私はあっち。またあとでね」
「うん!」

 ふたりは左右に分かれて周辺の探査に入った。予定していたのは二、三時間だったが、銀河が元の場所に戻ってきたのはおよそ四十分後、美怜が戻ってきたのは一時間後だった。

「あれっ、銀ちゃん、早かったね!」
「うん、実は……」

 銀河がタンズとその他のブーンズを連れていった方向は、進んで間もなく険しい岩に阻まれて、その先に進むことができなかったのだ。美怜はというと、その逆だった。

「二千歩くらい行ったところからなだらかな砂地になってる道を見つけて簡単に下りられたの。それに今夜のねぐらになりそうな洞穴まで見つけちゃった」
「本当!?」
「うん、早速行こうよ!」
「うん、僕たちって運がいいね!」
「フンス、フンス!」
「あははっ、ヒシャラが早く釣りをしたくて興奮してる!」
「ふふっ! じゃあ、また誰が一番大きいの釣れるか」
「競争しよう!」

 美怜の案内で崖の道を進み、岩と岩の間にできた砂の道を下ると浜辺へ出た。思わず銀河も美怜も足のあるブーンズも駆けだした。

「わはぁっ! この砂浜、サンゴだ!」
「広~いっ、きれ~っ!」
「むー!」
「むー!」
「むー!」
「ミー!」
「ニー!」
「フル~!」

 急いで靴と靴下を脱いで波に寄ると、ざああっという心地いい音と共に冷たさと勢いが脚にやってきた。

「ふわぁっ、結構冷たい!」
「本当だ! でも気持ちいい~っ!」

 ヒトエタン、クラウンタン、ユリタンは触手を使って互いに水を掛け合って遊び、マロカゲ、カタサマ、エコロは波の打ち際で白波と追いかけっこをして遊んでいる。イコ、ピッカランテッカラン、マチドリは空中を飛びながら、飛んでくる水しぶきと海風を味わっているようだ。ヒシャラが波に濡れないぎりぎりの場所に立って、また鼻を鳴らしていた。

「フンスフンス!」
「あ、待ってね、今準備するからね」

 一旦はヒシャラに預けた釣り竿だが、針の始末や竿の手入れがヒシャラではまだうまくできず、ヒシャラの分の竿は美怜が預かっているのだ。美怜は二本一緒にしておいた釣竿を外し、整えてから差し出すと、それを取ってヒシャラは風のように釣り場を探しに行ってしまった。

「みれちゃん、僕らは先にねぐらの準備をしよう。洞穴って近いの?」
「うん、あそこだよ」

 今降りて来たばかりの崖の斜面に、まさに申し合わせたような岩の割れ目があった。行ってみると、動物の気配もなく、安全に過ごせそうだ。

「満潮のときに沈まないかだけ心配だけど、少し様子を見てよさそうだったらここにしよう」
「うん。今のうちに野営の材料を集めよう。タンズのみんなはいつも通り、水と食料と薬草を集めてくれるかな?」
「むー!」
「むー!」
「むー!」

 野営の準備もかなり手慣れてきた。時間を置いてみる限り、恐らく満ち潮の心配はなさそうだと判断したふたりは、洞穴で寝床を調える。夜になると潮風が冷たくなりそうだから、枝と葉っぱで風よけを作ることにした。流木を集めながら美怜がつぶやく。

「う~ん……? このリュックどこまで入るんだろう……」

 拾った流木を入れてみると、底のないリュックの中に吸い込まれるようにして消えてしまう。出すときは手を入れて思い浮かべるだけで取り出せる。それはいいのだが、この頃美怜はこのリュックについてしばしば疑問に思うことが増えてきた。

「んん……? 今のも大きさが……」
「みれちゃん、どうしたの?」
「あのね、なんか、この底のないリュック、リュックの容量と実際に入る容量がちょっと違う気がして……」
「インベントリだからじゃない?」
「え、どういうこと?」

 美怜が銀河を見ると、さも常識であるかのような銀河が説明した。

「つまり、インベントリの容量は見かけの容量と同じじゃないってこと。さっきも拾った流木、リュックよりも長かったよね?」
「うん、そうなの。だから、変だなぁって思ってたんだけど。取り出すときは元のサイズで出て来るし……。この中、どうなってるんだろう?」
「う~ん、そうだなぁ……。僕にはインベントリのスキルがないからはっきりしたことはいえないけど、インベントリはどこかにある別の広々としたスペースにつながってるんじゃないかな……? そこには入れたものが時系列とか名前順にちゃんと並んでいるんだ。画面に水平線を書いて、焦点を書いて、そこから床と天井を書いて、ずっと手前から、ずっと奥まで、無限に続いてる異空間」
「ずっと手前から、ずっと奥まで……」

 そうつぶやくと、しばらく黙り込んでいた美怜がおもむろに、釣竿を手にした。リュックの入り口から釣り竿の先を入れると、明らかに長くて入るはずのない釣り竿がすいすいとは入っていく。

「あ……、本当に銀ちゃんのいう通りみたい」
「え?」
「この奥、なんか部屋があるみたい」
「えっ、ほんと?」

 銀河がリュックを覗くと、なんの変哲もないリュックの底があるだけだ。

「僕には見えないけど……」
「えっ、あ……。そっか、私が銀ちゃんの眼鏡を使えないみたいに、銀ちゃんにはこのリュックが使えないんだ。でも、私にはずーっと奥まで続いてる部屋が見えるの」
「そうなんだ……! す、すごい……。じゃあ、これからどんなものでも入るんじゃない?」
「うん、そうかも……。Aマゾンの倉庫が百軒あっても大丈夫そう。あ、でもそんなにいれたら重すぎてリュックが背負えないね」
「インベントリは重さもなくなるんだよ」
「えっ! そうなの!?」

 美怜が目を丸くした。そしてまた少し考えるように黙った後、リュックを持ち上げて、あっと言った。

「ほ、本当だ、銀ちゃんのいう通り。さっきは重かったのに、今は全然重くない。なにも入ってないみたいに」
「やっぱり……!」

 銀河は笑顔でうなづいた。今まで読んできたラノベではたいていそういう設定が多いのだ。だが、銀河はふと気になることがあった。美怜はインベントリについて銀河のように事前知識がほぼないがゆえに、銀河がいうことを素直に受け止めている。そして美怜の認識が改まるたびに、インベントリが進化しているように見える……。

「ちょ、ちょっと待てよ……」

 銀河はタブレットをひらいて美怜のステータスを確認した。予想通り美怜のBPが減少している。恐らく、インベントリの機能が発展したからだろう。美怜の認識が変わったことによって、自然とインベントリの能力が広がっていったものと思われる。

(……ということは、僕がみれちゃんに使い方を教えてあげれば、みれちゃんのインベントリはどんどん進化するんじゃないか……?)

 見ると美怜が不思議そうにしながらも、次々と薪になりそうな枝や、使い勝手の良さそうな石をリュックに入れている。

「ふわぁ~、こんなに入れても全然軽いよ。インベントリって便利なんだね~。これならアマノジャックマキジャックや他の道具も中に入れた方が軽くなるね」
「みれちゃん、インベントリって、実はもっとすごく便利なんだよ!」
「えっ、これ以上?」
「うん、まだまだすごい力を秘めてるんだ!」
「どんな!?」

 大きな目で興味津々な美怜を見て、銀河は一旦口を閉じた。この様子だと素直な美玲は、銀河がいうことならなんでも信じてしまうだろう。きっと、インベントリが宇宙や海の底にも繋がっていると言ったら、本当にそうなってしまうかもしれない。でも、美怜の持っているBP以上のことをさせれば、美怜はBP切れになってしまう。美怜のレベルに合わせて、徐々に話していった方がいいだろう。

「いろいろあるから思い出して整理したら、また話すね。今は先に寝床を作っちゃおうよ」
「うん! このリュック、地球に戻っても使いたいな~!」
「あはは、だね」

 寝床が整った頃、タンズが戻ってきた。ヒトエタンはいつも通りに清潔な水を。クラウンタンは今まで見たことのないものを花の中に入れていた。

「クラウンタン、これってなに? なんかさやえんどう……グリンピースみたい」
「むー!」
「へーっ、これ野生に生えているマメ科の植物なんだ。あっ、実を取り出すと本当にグリンピースみたい」
「へぇ~、海水でゆでたらおいしそうだなぁ」
「うん、それいいね!」

 最後に戻ってきたユリタンの花の中には、なんとタイが入っていた!

「ユ、ユリタン、すごいな君!!」
「むっむむー!」

 どうだといわんばかりのユリタン。褒められて早速DPとEXPが爆上がりだ。

「うわぁっ、今日はごちそうだね! 銀ちゃんどうする? しょうゆないけどお刺身にする!?」
「それいいね! あっ、あと、スープも作ろうよ!」
「そうだったね!」

 美怜はやる気にみなぎって、早速鯛とハンドッゴを掴んだ。ものづくりと同じくらい料理が得意な美怜は魚だって上手に捌けるのだ。銀河は火起こしを担当し、抵当な大きさの石を火の中で焼いた。この焼くための石というのは、ちょっと注意が必要で、ものによっては焼いている間に破裂して欠片が飛んでくることがある。だから、すべすべとした密度の高い丸い石を選んで、なおかつ枝などの下に置いて注意して焼かなければならないのだ。

「銀ちゃん、こっちの準備はオッケーだよ」
「うん、石も十分焼けたみたいだ」

 美怜は鯛のお刺身を葉っぱのお皿に盛りつけた。そこで残った鯛のあらと、残しておいた身、そしてさやから取り出したグリンピースを深皿に入れ、海水と真水を一:三の割合で注いだ。銀河は焚き火の中からよく焼けた石を枝に挟んでつかみ上げた。

「みれちゃん、危ないから離れてて」
「うんっ」

 銀河が手を伸ばしながら、焼け石を材料の入った深皿の中にそっと落とし入れた。その瞬間、ボゴボゴッと勢いよく沸騰し、水蒸気が上がる。深皿にちょうど二つずつ石を入れて、しばらくたつといい香りが漂ってきた。

「うわぁ~っ!」
「鯛とグリンピースの焼き石スープ、完成だぁ~っ!」

 熱々のスープから石とあらを取り出すと、銀河と美怜は待ちきれないとばかりに急いでスープを口に含んだ。塩味と鯛のうまみが染みわたる~っ!【※43】

「ふわぁ……っ、お、おいしい……っ!」
「うまい……っ! 塩味ちょうどいいよ、みれちゃん!」
「うんっ、グリンピースもぷちっとして美味しいよ」
「んっ、本当だ、塩味だけなのにすごく甘いね!」
「お刺身も食べてみよう」
「うんっ。味付けは海水の塩分だけど……、うん、これもうまっ!」
「鮮度がいいから、美味しいね! あ~っ、ここにビールがあったらなー!」
「ほんとだよ~!」

 久しぶりの料理らしい料理にふたりとも興奮しながら大はしゃぎで食べすすめた。そのとき、離れたところからの刺すような視線に気付いて、銀河と美怜はハッとした。見ると、ヒシャラがギラギラした目でふたりの食卓を見つめていた。

「ヒ、ヒシャラ、帰ってたのか!」
「あ、ごめん、ヒシャラのお皿作ってなくて……。でも鯛のお刺身はヒシャラの分も残してあるよ」

 ヒシャラは海釣りでゆうに二十匹以上のアジや小魚を捕えて食べていたが、ふたりの食べているものを見るとなぜか胃袋が急にぐいぐいとすき間を作り出して、その匂いと新しい味を味わいたくてたまらなくなるのだ。刺身を見たが生で食べる魚はこれまでとさして変わらない。興味があるのは俄然あのスープだ。

「ヒシャラ、スープを食べたいの?」
「よし、じゃあ待ってろ。僕はもう食べ終わるから、焼き石はまだあるしもう一回作ってあげるよ」
「じゃあ私、グリンピースを剥くね」

 ヒシャラのためにふたりが準備をし、新しい材料の入った深皿に銀河が焼け石を落とし込んだ。激しい音としぶき、そして束の間に漂って来るいい匂いに、ヒシャラの鼻が激しく開いたり閉じたりした。石を取り出すと、銀河がスプーンと一緒に差し出した。

「すっごく熱いから、気をつけて食べるんだぞ」
「……」

 皿を受け取ったヒシャラが、湯気の立つスープの表面をらんらんとした目で見つめている。ぶふっ、ぶふっと不器用に息を吹きかけながら冷めるのを待っている。やはり熱いものが苦手のようだ。少しも目をそらさずにスープを監視し続けていたヒシャラが、今だというタイミングを見切ったのか、かぷっと皿に食いついた。

「あっ、ス、スプーンを使って食べるんだよ……!」

 銀河が言ったときにはもう、がぶがぶ、ふうふう、はふはふと言いながら、スープを流し込んでいた。熱さと闘いながらも必死なヒシャラはスプーンまで食べてしまいそうな勢いだ。銀河と美怜で見守っていると、もぐもぐ、ごっくんとしたヒシャラが、いたく満足げな顔つきで皿から顔を出した。

「フンハー……」
「い、一気に食べるなんて、だ、大丈夫か?」
「フンスフンス……!」
「え、もう一杯? でももうお魚がないよ」

 そういうと、ヒシャラが釣り竿を手に取って海の方へ駆けだしていった。どうやら今すぐ釣ってくるつもりらしい。その後ろ姿を見て、銀河と美怜は顔を見合わせて笑った。

「ヒシャラ、気に入ってくれたみたい!」
「大食いなのは知ってたけど、あの食べっぷり! さすが元大蛇だな~!」

 その後、アジを釣ってきたヒシャラのために、もう一度焼き石スープを作ってあげた。

「フンスフンス……!」
「えっ、もう一回!?」
「もう焼けた石がない。また焼くのには時間かかるよ」
「フンスフンス!」
「それにそろそろ寝る準備しないと……」
「プス~……」

 器を手に不服そうなヒシャラを見て、銀河と美怜は同じことを思った。

「みれちゃん」
「うん、もう一回、ううん、何回でもやってあげよう」
「そうだね、ヒシャラの気が済むまで。だって明日には……」

 銀河と美怜はヒシャラが満足するまで、スープを作ると決めてまた石を焼いた。そのあと三杯のスープを平らげて、ようやくヒシャラが丸くなって静かになると、空はすっかり満天の星だった。まぶしいくらいにきらめく光。波の静かな音と、柔らかな潮風、焚き火のゆらめき。他のブーンズのみんなもすっかり身を寄せ合って眠りについていた。洞穴の中はピッカランテッカランのほのかな光で温かく灯されている。このねぐらは安心できそうだし、今日はこのままブーンズをタブレットに戻さずに寝かしておいてもよさそうだ。

「銀ちゃん、いい夜だね……」
「うん……、こんな日がずっと続けばいいな……」

 スピスピと寝息を漏らすヒシャラ。本当に、明日も今日と同じようにヒシャラがそばにいてくれたらいいのに……。



 下記について、イラスト付きの詳細情報がご覧いただけます! ブラウザご利用の場合は、フリースペースにある【※ 脚注 ※】からご覧いただけます。アプリをご利用の場合は、作者マイページに戻って「GREATEST BOONS+」からお楽しみください。
【※41】斥候作戦の方法 …… 情報620
【※42】距離と時間を測る方法 …… 情報620
【※43】鯛とグリンピースの焼石スープ …… 情報401

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