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■第1章 突然の異世界サバイバル!
002 ブーンズ誕生!
しおりを挟む一度手元の画面を確認すると『achievement:達成』の文字がポップアップで表示されていた。
「まさか、うそだろ……」
「ぎっ、銀ちゃ……」
その声に視線を向けると、いつの間にかキャラクターが美怜のそばに近寄っていて、美怜が硬直したまま小刻みに震えていた。
「み、みれちゃん、大丈夫! そのキャラクターは攻撃力はなくて、ゲームで言うところの魔法元素みたいな存在だから!」
「へ……、……?」
慌てて叫んで美怜の隣に駆け寄った。美怜にも見えるようにタブレットを掲げると、いつ間にかPortfolio:作品集の画面に切り替わっていた。キャラクターの名前や説明書きが書けるスペースが自動で表示され、たった今、銀河が言った言葉がそのままそこに音声認識されて文字表記されていた。
美怜がこわごわとキャラクターと画面と銀河を見る。
「ぎ、銀ちゃんが、この白いの、出したの……?」
「そ、そうみたいだ……。試しでギブバースっていうコマンドを選択したら、こいつが出てきた……」
「なんて……いうの?」
「え?」
「名前……」
美怜に言われて頭を巡らせた。このキャラクターはなにかを想定して書いたというよりかは、常に銀河の中にあったイメージが、手の赴くままに形になったようなものだった。それにも拘わらず、銀河には直観があった。
「イコ」【※6】
そういうと、ポートフォリオの名前の枠に、『イコ』と表示され、新たにポップアップが表示され、ピロンッと通知音が鳴った。
「ブーンズに名前をつけました! レベルが上がりました。BPが上がりました。LPが上がりました。DPが上がりました」
「ブ、ブーンズ……?」
「銀ちゃん、これなに、ゲーム? これも銀ちゃんが作ったの?」
「い、いや……」
混乱しながらも、イコが恐ろしいものではないとわかった美怜が、そうっと人差し指でツンツンし始めた。
「イコ……。は、はじめまして、私は小南美怜だよ……」
「……」
「……あれ、しゃべれないの?」
そう言われて銀河はまた画面に目を落とした。
(イコはいわゆるファンタジーにおける元素とかマナみたいなもの。それがまとまって形を成した物なんだ。高い知能はなく、ただふわふわと存在するだけで、できることといったら少し空気を温かくできたり涼しくできたりするくらい。大きくなるまでは喋れない。というか、大きくなっても人の声を真似するだけで、言葉の意味は理解しないんだ……)
驚いた。今思ったことが、そのまま説明書きに表示されていった。
「す、すごい……。このタブレット、僕が思ったことをリアルタイムでそのまま表示してる……」
「え……っ?」
「このキャラクター、ずっと好きで書いてたんだけど、仕事としては使い道がなくて……。でも僕の中ではキャラ立ちしていて、といっても、ただふわふわしてそこにいるだけで、なんの役にも立たないキャラクターなんだけど……」
「そうなんだ、怖い子じゃなくてよかった……。でも、どうして突然こんなことができるようになったの?」
「このGBってアプリのせいみたいだ……」
「あれっ、Gre……グレイテストブーンズ? アプリの名前が変わってる。ロゴマークのGBは一緒だけど……」
「うん、ぼくもさっき気が付いた」
どういうことだろう。摩訶不思議が連続して起こりすぎて、もはやお腹いっぱいだ。ふたりのそばではさっきからずっとイコがとぼけた顔でふわふわと揺れている。それを見つめながら銀河は思った。……都合が良すぎるかもしれない。でも、ひとつの仮説が頭に思い浮かんでいた。
「みれちゃん……、もしかするとの話をしてもいいかな……」
「うん……」
「僕たち、今地球じゃないんじゃないかな……」
「えっ……。あ、うん……」
美怜の瞳が動揺して大きく揺れたが、不安を抑え込むようにうなづいた。
「気が付いたら、突然見たことのない場所にいて、体が若返っていたりする話、聞いたことあるんだ……」
「あっ! う、宇宙人に改造されて、別の惑星に連れて来られたの……かな……?」
「そうかもしれない。けど、これって僕がよく読んでるラノベの展開によく似てるんだ」
「ラノベ……って、ライトノベル?」
「うん。僕たち、この世界に勇者として召喚されたんじゃ……」
「え、勇者……? ってゲームの……?」
「ゆ、勇者じゃなくても! さ、最近はそういう話がたくさんあるんだよ……」
「う~ん……。でもそれって、作り話だよね……?」
突拍子もない話というのは分かっている。もしかするとの想像が正しいとしても、わからないことが多すぎる。落ち着いて検証するべきだろう。銀河と美怜は互いに向き合ってそこへ座った。イコがそのそばから離れず、プカプカとただ浮いている……。
「現状を整理しよう……」
「う、うん」
宇宙人の連れ去りなのか、勇者の召喚なのかはわからない。だが現在はっきりしているのは、危険な大蛇が出るの森の中に銀河と美怜が小学生の姿になって存在していて、手元にはいくつかの道具はあるが、水や食料や寝床を確保しなければ、恐らく生き永らえることができないということ。それはこの後ふたりで探しに行くとして、次なる疑問は、銀河のタブレットと突如現れたこのブーンズなる存在だ。
改めて調べてみると、奇妙なことにタブレットのスペックは無限大だった。ストレージ、CPU、RAM、バッテリーなどの表示は、なぜか99999999もしくは∞:無限大。さらに奇妙なのは、GREATEST BOONSというアプリだ。2D・3Dデータを作画・編集するだけでなく、ポートフォリオ機能を使ってキャラクターを簡単に分類整理閲覧することができた。
「うわぁ、ポKモン図鑑みたい!」
「これ……全部にギブバースコマンドがついてる……。僕が描いたキャラクター全部イコみたいに実体化できるってことか……」
「えっ、すごい! これ全部?」
「多分……。このアプリを使って描いたものなら」
「銀ちゃん、やって見せて」
「うん……。ちょっと待って、せっかくなら役立つものを出した方がいいかな……」
そういうと銀河はファイルを開いて、新しいキャラクターを描き始めた。チューリップの花のような愛らしいキャラクターだ。大きな花を頭に乗せた二頭身のキャラクターで下半身はどこか平安時代の衣のように見えなくもない。
「ふふっ、お花みたい」
「これは食べられるものを探してくれるんだ……。チューリップみたいなこの花の中に水を汲んだり、食べ物を入れたりして持って来てくれるんだよ。えっと……名前はそうだな、食べられるもの探すから……といってもまずいものだと困るし……。た……ん……、タンズだ!」
「タンズ?」
「うん! この赤いのは一重咲きだからヒトエタン、横に広いのは王冠咲きだからクラウンタン、百合咲きはユリタン」【※7】
「え~っ、かわいい~っ! チューリップの種類なんてよく知ってるね」
「うん、デザインするときにはいろんな植物や動物を調べるからね。じゃあ、ギブバースしてみるよ……」
「うん!」
コマンドをタップすると同時にまた強い光が瞬いた。
――ピロンッ。
「ブーンズに固有名称をつけました! レベルが上がりました。BPが上がりました。LPが上がりました。DPが上がりました」
音声と共に現れたのは、たった今銀河がデザインした三体のキャラクターだ。いつの間にかこの奇妙な状況に慣れてきたのか、美怜が明るい声を上げた。
「うわぁっ、かわいい! 君がヒトエタン、君がクラウンタン、君はユリタン。はじめまして、私は小南美怜だよ」
「む~」
「む~」
「む~」
「あははっ、返事したぁ!」
喜ぶ美怜を見て驚いたのは三体を作り出した銀河のほうだった。
「み、みれちゃんのコミュニケーション能力って、万能すぎない……?」
「え~? 銀ちゃんがそういうふうにつくってくれたんじゃないの?」
そんなわけない。今思いつき半分で作り出したキャラクターに、そこまでの設定を考えてはいない。とはいえ創造の親としての威厳は保ちたいわけで……。
「え、えっと……。じ、じゃあ、ヒトエタンは安全な水を、クラウンタンは僕らが生で食べられるもの、ユリタンは火を通せば食べられるものを探してくれ!」
「む~」
「む~」
「む~」
三体のブーンズが一斉にそれぞれのものを目指してさらなる森の奥へ向かっていく。
「すごいね、銀ちゃんのいうことわかるんだ! 頭良いね~」
「う、うん、まあね……」
「私も一緒に行ってくる!」
「だっ、だめだよ! またあの大蛇が出てくるかもしれないし」
「あっ、そっか……。タンズは食料確保はしてくれるけど、身を守ってくれるわけじゃないんだね……」
「そ、……そうだよ! 僕たちの身を守ってくれるブーンズを生みだせば……!」
水を得た魚のように銀河の目が生き生きと輝きだした。
(そうだよ、まさにこのアプリ、僕の考えたキャラクターを実現させるなんてうってつけじゃないか……! 僕のアイデア、タカラコマが本物になるぞ!)
クリエイターとしての熱が一気に高まった……!
下記について、イラスト付きの詳細情報がご覧いただけます! ブラウザご利用の場合は、フリースペースにある【※ 脚注 ※】からご覧いただけます。アプリをご利用の場合は、作者マイページに戻って「GREATEST BOONS+」からお楽しみください。
【※6】イコ …… ブーン001
【※7】タンズ …… ブーンズ800
* お知らせ * こちらも公開中! ぜひお楽しみください!
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