上 下
32 / 33
■第2章 冒険者の町の冒険者ギルド!

101 ここが冒険者ギルド

しおりを挟む

「離してっ、はなしてよぅっ!」

 ならず者の仲間らしき狼男のような人種の脇に、荷物のように抱えられた美怜は、そのままエンファの町の門を潜り抜けていた。町に入ると列をなしていた人々と同じように、様々な人種や職業の人が入り乱れている。石畳に、井戸、立ち並ぶ商店。人々の明るい色の服、鮮やかで新鮮そうな野菜、漂うパンの香り。経済的にも住環境的にもかなり安定した町に見えた。それなのに、今美怜たちが受けているこの不条理は一体なんなのだろう。パニックになるのを必死で抑えて、逃れようと手足をばたつかせたが、狼男の腕はびくともしない。

(銀ちゃん、お願い、お願だから、生きていて……!)

 銀河のことを思うと涙が溢れて止まらない。まるでヤクザか戦国映画みたいな一場面。目の前で見た今も信じたくない。受け入れることが怖くて、頭のどこかが考えることを放棄したがっている。これが夢で、今すぐ目が覚めればいいのにと。

(だめ、だめ……っ、気を失っちゃダメ、意識をしっかり持って! 銀ちゃんの無事を確かめるまでは……っ)

「ぐふーっ、お前は俺の言うことが正しいと、ひとこといえばいい」
「くくっ……」
「キキッ……。それだけ言えばすぐに帰してやるさ」

 小太り、三白眼、痩せ男の声だ。この襲来の意図は銀河の予想通りに思われた。賞金を受け取るとために、彼らは美怜になんらかの嘘の証言をさせようというのだろう。こちらが力の弱い子どもで、ギルドに所属していない立場の弱い者だとわかっていてのこの強行。悪質で卑劣極まりないが、絶望的なまでに美怜には逆らう力がない。

「勝手に話しかけるな」

 美怜を担ぐ灰青色の狼男が三人に向かって言った。

「ああ、わかってるよ……。お前こそ、そいつをちゃんと捕まえておけよ」
「お前たちの命令を聞くつもりはない。俺はただギルマスの指示に従っているだけだ」

 仰ぎ見ると灰青狼の片目に傷跡がある。その声は低く、そっけなかったが、どこか芯のある響きに感じた。さっきの会話、どうも仲間とはいいきれない空気感だった。もしかすると、ギルドの中にも弱き者を助け悪を滅する正義をその胸に抱く人もいるのかもしれない。

(そ、そうよ……。流されちゃダメ、なにもしないうちにあきらめちゃダメ……)

 震える拳で自分の頬をつたう涙をぬぐった。
 大股で闊歩する男たちの一団は大きな建物の前にたどり着いた。担がれた格好でも、微かに見えた看板。そこにはクレアの見せてくれた紙に書かれていたものと同じと思われる文字の羅列と、盾をかたどったような図形が見えた。そのまま建物に入ると、銀行のように受付カウンターがいくつもあって、その空間には順番を待つ冒険者たちが各々好いたように待っていた。彼らの腰や肩にはもれなく剣や斧や弓があり、丈夫な革ブーツやグローブ、甲冑や籠手のような防具を身に着けていた。

 建物の構造はほぼ木造。ウェスタン映画さながらの造りと粗雑さだった。壁には手配書や依頼書のようなものが無数に張り出され、買取されたらしき薬草や魔石か山と入った木箱が奥へと運びこまれていく。灯り採りの小さめ窓がいくつかあったが、どれも薄汚れていて曇っており、掃除もされていない。そのせいなのかどうか、カウンターには明かりのついたランプが灯っていた。

(こ、ここが……冒険者ギルド……)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...