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私のユニコーン(3)
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あんなに素晴らしい作品が!? 他に買い手がつかないの!?
お兄様によると、もはやあれだけの多くの銀を使った細工物の支払いをできる貴族は限られていて、それほどまでに銀が高騰しているのだという。
――ああ、だけど!
「どうにかならないの、お兄様?」
「そんな金はうちには逆立ちしたってないよ」
「他の貴族に頼めない?」
「我が伯爵家の立場を知っているだろう? 私たちがお願いした程度ではどうにもならないよ」
「そんな、そんな! お兄様、お願い、戻って!」
「――えっ?」
通りをぐるりと回って工房へ戻った。
私は礼儀もそこそこにニコロさんにお願いした。
「ニコロさん、どうか作品を溶かさないで!」
「お嬢ちゃん、まさかそれをいいに戻ってきたのかい?」
「銀が高騰しているってさっきお兄様に聞いたの。でも、こんな素晴らしいユニコーンや魚を溶かして他のものに作り変えてしまうなんて絶対にだめですわ! お願いだから、溶かさないと約束して」
「……お嬢ちゃんの気持ちは嬉しいが、しかし、わしたちも食っていかねばならん。
金に換えられないのなら、これらはもうただの銀の塊でしかないんだよ」
「いいえ、違う! でしたら、私が買うわ!
今はお金がないけれど、私働いて必ず支払います。だから、それまでこのままにしてくださらない?」
ニコロさんが女将さんや職人さんたちと困ったように顔を見合わせた。
お兄様が眉を高く上げる。
「ミラ、お前は社交界へ出たらよい殿方と巡り合って結婚するのだよ。
いくら素晴らしいからって、銀細工のために働くなんて、父上も母上もお許しになるわけが……」
「これは芸術ですわ! 他の職人のつくる工芸品とは違うの。
これを溶かしてしまったら、メゾシニシスタ国は名宝を失うも同然ですわ。
これでも私それなりに優秀なんですの。あと四年か五年もすれば、どこかのお屋敷の女家庭教師か話し相手の仕事につけると思いますの。
そうすればお給金がいただけます。それをこのユニコーンの購入費用に充てますわ!」
「気持ちはわかるけど、ミラ、それは無理だよ……。例え働くことができても、家庭教師や話し相手の給金では何年かかるか……」
「でしたら、国王陛下に直接お願いしては……!?」
お兄様が無言で首を横に振った。
そんな……。
サーフォネス家だったら、きっとユニコーンも魚も買えたのに……。
でも、これがプレモロジータ家の現実なのだわ……。
ユニコーンの目を見ると、まるで訴えて来るかのように光っている。
まるで泣いているみたい。
ああ、あの子が溶かされてしまうなんて……。
そのとき、ニコロさん大きくやれやれとばかりに首を振った。
「まあ、落ち着きな、お嬢ちゃん。奥に入るといい。茶でも淹れよう」
工房の奥のテーブルに着くと、ニコラさんが人払いをした。
なんとか説得できないか、私は言葉を探す。
ニコラさんがお茶を飲んで、そのカップを置いたとき、私はすかさず口を開いた。
でも、先に話し出したのはニコラさんのほうだった。
「他所もんの伯爵には話すつもりはなかった……。だが、お嬢ちゃん、あんたを見て気が変わったよ」
「じゃあ、ユニコーンたちは溶かさないでくれるのですね?」
「ふっ、お嬢ちゃん、そんなにあれが気にいってくれたのか」
「はい、今夜あの子の夢を見るんじゃないかと思っていたのです」
「そうかい、うれしいねぇ。そこまでいってもらったら、職人冥利に尽きるってもんだ。
プレモロジータ伯爵の若旦那さんよ。あんたに教えてやるよ、銀山のありかを」
――銀山? なんの話?
見上げると、お兄様が目を丸くしていた。
お兄様によると、もはやあれだけの多くの銀を使った細工物の支払いをできる貴族は限られていて、それほどまでに銀が高騰しているのだという。
――ああ、だけど!
「どうにかならないの、お兄様?」
「そんな金はうちには逆立ちしたってないよ」
「他の貴族に頼めない?」
「我が伯爵家の立場を知っているだろう? 私たちがお願いした程度ではどうにもならないよ」
「そんな、そんな! お兄様、お願い、戻って!」
「――えっ?」
通りをぐるりと回って工房へ戻った。
私は礼儀もそこそこにニコロさんにお願いした。
「ニコロさん、どうか作品を溶かさないで!」
「お嬢ちゃん、まさかそれをいいに戻ってきたのかい?」
「銀が高騰しているってさっきお兄様に聞いたの。でも、こんな素晴らしいユニコーンや魚を溶かして他のものに作り変えてしまうなんて絶対にだめですわ! お願いだから、溶かさないと約束して」
「……お嬢ちゃんの気持ちは嬉しいが、しかし、わしたちも食っていかねばならん。
金に換えられないのなら、これらはもうただの銀の塊でしかないんだよ」
「いいえ、違う! でしたら、私が買うわ!
今はお金がないけれど、私働いて必ず支払います。だから、それまでこのままにしてくださらない?」
ニコロさんが女将さんや職人さんたちと困ったように顔を見合わせた。
お兄様が眉を高く上げる。
「ミラ、お前は社交界へ出たらよい殿方と巡り合って結婚するのだよ。
いくら素晴らしいからって、銀細工のために働くなんて、父上も母上もお許しになるわけが……」
「これは芸術ですわ! 他の職人のつくる工芸品とは違うの。
これを溶かしてしまったら、メゾシニシスタ国は名宝を失うも同然ですわ。
これでも私それなりに優秀なんですの。あと四年か五年もすれば、どこかのお屋敷の女家庭教師か話し相手の仕事につけると思いますの。
そうすればお給金がいただけます。それをこのユニコーンの購入費用に充てますわ!」
「気持ちはわかるけど、ミラ、それは無理だよ……。例え働くことができても、家庭教師や話し相手の給金では何年かかるか……」
「でしたら、国王陛下に直接お願いしては……!?」
お兄様が無言で首を横に振った。
そんな……。
サーフォネス家だったら、きっとユニコーンも魚も買えたのに……。
でも、これがプレモロジータ家の現実なのだわ……。
ユニコーンの目を見ると、まるで訴えて来るかのように光っている。
まるで泣いているみたい。
ああ、あの子が溶かされてしまうなんて……。
そのとき、ニコロさん大きくやれやれとばかりに首を振った。
「まあ、落ち着きな、お嬢ちゃん。奥に入るといい。茶でも淹れよう」
工房の奥のテーブルに着くと、ニコラさんが人払いをした。
なんとか説得できないか、私は言葉を探す。
ニコラさんがお茶を飲んで、そのカップを置いたとき、私はすかさず口を開いた。
でも、先に話し出したのはニコラさんのほうだった。
「他所もんの伯爵には話すつもりはなかった……。だが、お嬢ちゃん、あんたを見て気が変わったよ」
「じゃあ、ユニコーンたちは溶かさないでくれるのですね?」
「ふっ、お嬢ちゃん、そんなにあれが気にいってくれたのか」
「はい、今夜あの子の夢を見るんじゃないかと思っていたのです」
「そうかい、うれしいねぇ。そこまでいってもらったら、職人冥利に尽きるってもんだ。
プレモロジータ伯爵の若旦那さんよ。あんたに教えてやるよ、銀山のありかを」
――銀山? なんの話?
見上げると、お兄様が目を丸くしていた。
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