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レフィーナと共に訪れた庭は人の気配がなく、とても静かだった。
明るい月光に照らされる赤や白の薔薇は、昼間とはまた違った顔を見せている。そんな庭を見渡したレフィーナがそっと口を開いた。
「昼間に見ても綺麗だけど、夜は月明かりで幻想的になって綺麗ね」
「ああ、そうだな」
「ふふっ、なんだか疲れが癒されるわ」
レフィーナの言葉にヴォルフは頷く。
騎士として多忙な一日だったし、ダンデルシア家の令嬢達に出会って違う意味でも疲れた。だが、レフィーナとこうして一緒にいるだけで、その疲れも癒えていく。
ヴォルフは隣を歩く恋人にそっと視線を移す。レフィーナは緋色の瞳を和らげて、薔薇を愛でていた。
彼女を愛する気持ちがゆっくりと胸を満たし、ヴォルフはゆっくりと声をかける。
「レフィーナ」
「ん?」
真剣な表情で見つめれば、彼女もまたじっと見つめ返してきた。
どことなく緊張したような様子のレフィーナに、ふっと口元を緩めて優しい笑みを浮かべる。
そして、レフィーナの前にすっと跪き、彼女の左手を手に取った。
「…レフィーナ。俺はお前を愛している」
「ヴォ…ルフ…?」
「俺の妻になって、ずっと側にいてほしい。レフィーナ、俺と結婚してくれ」
そう告げて、ヴォルフはレフィーナの左薬指に用意していた指輪を通した。鍛冶屋に依頼して作った指輪はぴったりと薬指に収まり、美しい輝きを放っている。
視線を指から顔へ移すと、レフィーナは驚いたように緋色の瞳を見開いて、こちらを見つめていた。
優しく微笑んだままヴォルフは返事を待つ。すると、レフィーナが瞳を潤ませながら、震える唇で言葉を紡いだ。
「……はい…喜んで…!」
レフィーナの言葉にヴォルフの心臓が喜びで跳ね、全身に甘い痺れが駆け巡る。
その感情に突き動かされるように立ち上がり、レフィーナを強く抱きしめた。
こんなにも満たされた瞬間が今まであっただろうか。
背に触れた手の感触に、不覚にも泣きそうになって、ヴォルフは深く息を吐き出す。そして、やっとの思いで言葉を紡ぐ。
「ありがとう、レフィーナ。…必ず幸せにする」
「えぇ…。…二人で、幸せになろう…」
少し体を離し、額同士を合わせれば、レフィーナが幸せそうな微笑みを浮かべる。おそらく自分も同じような表情を浮かべていることだろう。
そっとレフィーナの唇に自身の唇を近づけると、彼女が恥ずかしそうに瞳を閉じる。ヴォルフは優しく触れるだけのキスをした。
それから、少し名残惜しく思いながらも、レフィーナを抱き締めていた腕をほどく。
「レフィーナ。この後、俺もついて行っていいか?きちんとご家族に挨拶をしたい」
レフィーナにいい返事をもらえたら、そうしようと決めていた。それを伝えると、レフィーナが頷く。
「ええ、勿論よ」
「…じゃあ、行くか」
ヴォルフはレフィーナの左手に触れ、繋ぎ合わせる。お互いに顔を見合わせて笑みを浮かべた二人は、レフィーナの家族のもとへと向かったのだった。
◇
レフィーナの家族であるアイフェルリア公爵家の面々がいる応接室の前まで来ると、ヴォルフは隣に視線を移した。緊張した面持ちのレフィーナに気遣うように声をかける。
「レフィーナ、大丈夫か?」
「え、ええ…。やっぱり、少し緊張するわね」
レフィーナが扉をノックしようと手を上げたが、中々踏ん切りがつかないのか、そのまま止まってしまう。
前世である雪乃の事が整理できるまでは、アイフェルリア公爵家の家族は他人だと思っていたと言っていた。改めて家族として会うのは緊張するのだろう。
とはいえ、このままでは一向に前に進めない。ヴォルフはレフィーナの背を後押しするように名を呼ぶ。
「レフィーナ」
「分かっているわ。ただ、なんと言うか…改めてこうして会うと恥ずかしいのよ」
そう言ってレフィーナは何やら考え込んでしまった。ヴォルフはそんな彼女の頭にぽんと手を乗せて励ます。
「そんなに考えなくても大丈夫だろ。…雪乃からしたら突然出来た家族かもしれないが、親からしたら赤子の時から大切にしてきた家族なんだ。…どんなに下手な言葉だって、どんなに上手く伝えられなくたって…きっと、許してくれる」
「ヴォルフ…」
「それに、今はレフィーナとして、今の家族を大切にしたいと思っているんだろう?」
「……そうね。私の言葉でちゃんと伝えればいいのよね」
「あぁ、そうだ」
大きく頷けば、レフィーナはどうやら気持ちが落ち着いたようだ。小さく息を吸い込む音が聞こえ、彼女が自身の左手の指輪に触れる。それを見たヴォルフが優しい笑みを浮かべていると、レフィーナが扉をノックした。
「レフィーナです」
「……入れ」
中から返事があって、レフィーナが扉を開ける前にこちらを見る。笑みを浮かべたままでいれば、彼女もまた笑みを浮かべた。そして、レフィーナはゆっくりと扉を開け、中に入る。
ヴォルフは呼ばれるまで外で待機することになっているので、静かにその背を見送った。
明るい月光に照らされる赤や白の薔薇は、昼間とはまた違った顔を見せている。そんな庭を見渡したレフィーナがそっと口を開いた。
「昼間に見ても綺麗だけど、夜は月明かりで幻想的になって綺麗ね」
「ああ、そうだな」
「ふふっ、なんだか疲れが癒されるわ」
レフィーナの言葉にヴォルフは頷く。
騎士として多忙な一日だったし、ダンデルシア家の令嬢達に出会って違う意味でも疲れた。だが、レフィーナとこうして一緒にいるだけで、その疲れも癒えていく。
ヴォルフは隣を歩く恋人にそっと視線を移す。レフィーナは緋色の瞳を和らげて、薔薇を愛でていた。
彼女を愛する気持ちがゆっくりと胸を満たし、ヴォルフはゆっくりと声をかける。
「レフィーナ」
「ん?」
真剣な表情で見つめれば、彼女もまたじっと見つめ返してきた。
どことなく緊張したような様子のレフィーナに、ふっと口元を緩めて優しい笑みを浮かべる。
そして、レフィーナの前にすっと跪き、彼女の左手を手に取った。
「…レフィーナ。俺はお前を愛している」
「ヴォ…ルフ…?」
「俺の妻になって、ずっと側にいてほしい。レフィーナ、俺と結婚してくれ」
そう告げて、ヴォルフはレフィーナの左薬指に用意していた指輪を通した。鍛冶屋に依頼して作った指輪はぴったりと薬指に収まり、美しい輝きを放っている。
視線を指から顔へ移すと、レフィーナは驚いたように緋色の瞳を見開いて、こちらを見つめていた。
優しく微笑んだままヴォルフは返事を待つ。すると、レフィーナが瞳を潤ませながら、震える唇で言葉を紡いだ。
「……はい…喜んで…!」
レフィーナの言葉にヴォルフの心臓が喜びで跳ね、全身に甘い痺れが駆け巡る。
その感情に突き動かされるように立ち上がり、レフィーナを強く抱きしめた。
こんなにも満たされた瞬間が今まであっただろうか。
背に触れた手の感触に、不覚にも泣きそうになって、ヴォルフは深く息を吐き出す。そして、やっとの思いで言葉を紡ぐ。
「ありがとう、レフィーナ。…必ず幸せにする」
「えぇ…。…二人で、幸せになろう…」
少し体を離し、額同士を合わせれば、レフィーナが幸せそうな微笑みを浮かべる。おそらく自分も同じような表情を浮かべていることだろう。
そっとレフィーナの唇に自身の唇を近づけると、彼女が恥ずかしそうに瞳を閉じる。ヴォルフは優しく触れるだけのキスをした。
それから、少し名残惜しく思いながらも、レフィーナを抱き締めていた腕をほどく。
「レフィーナ。この後、俺もついて行っていいか?きちんとご家族に挨拶をしたい」
レフィーナにいい返事をもらえたら、そうしようと決めていた。それを伝えると、レフィーナが頷く。
「ええ、勿論よ」
「…じゃあ、行くか」
ヴォルフはレフィーナの左手に触れ、繋ぎ合わせる。お互いに顔を見合わせて笑みを浮かべた二人は、レフィーナの家族のもとへと向かったのだった。
◇
レフィーナの家族であるアイフェルリア公爵家の面々がいる応接室の前まで来ると、ヴォルフは隣に視線を移した。緊張した面持ちのレフィーナに気遣うように声をかける。
「レフィーナ、大丈夫か?」
「え、ええ…。やっぱり、少し緊張するわね」
レフィーナが扉をノックしようと手を上げたが、中々踏ん切りがつかないのか、そのまま止まってしまう。
前世である雪乃の事が整理できるまでは、アイフェルリア公爵家の家族は他人だと思っていたと言っていた。改めて家族として会うのは緊張するのだろう。
とはいえ、このままでは一向に前に進めない。ヴォルフはレフィーナの背を後押しするように名を呼ぶ。
「レフィーナ」
「分かっているわ。ただ、なんと言うか…改めてこうして会うと恥ずかしいのよ」
そう言ってレフィーナは何やら考え込んでしまった。ヴォルフはそんな彼女の頭にぽんと手を乗せて励ます。
「そんなに考えなくても大丈夫だろ。…雪乃からしたら突然出来た家族かもしれないが、親からしたら赤子の時から大切にしてきた家族なんだ。…どんなに下手な言葉だって、どんなに上手く伝えられなくたって…きっと、許してくれる」
「ヴォルフ…」
「それに、今はレフィーナとして、今の家族を大切にしたいと思っているんだろう?」
「……そうね。私の言葉でちゃんと伝えればいいのよね」
「あぁ、そうだ」
大きく頷けば、レフィーナはどうやら気持ちが落ち着いたようだ。小さく息を吸い込む音が聞こえ、彼女が自身の左手の指輪に触れる。それを見たヴォルフが優しい笑みを浮かべていると、レフィーナが扉をノックした。
「レフィーナです」
「……入れ」
中から返事があって、レフィーナが扉を開ける前にこちらを見る。笑みを浮かべたままでいれば、彼女もまた笑みを浮かべた。そして、レフィーナはゆっくりと扉を開け、中に入る。
ヴォルフは呼ばれるまで外で待機することになっているので、静かにその背を見送った。
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