90 / 97
90
しおりを挟む
「あぁん、断るなんて酷いわ。……でも、しつけがいがありそうですわ…。あぁ…お城が鞭打ち禁止でなければ…!もちろん、痛くもないし、跡も残しませんわ!はぁ…!」
「聞いてよ、ミーシャ!僕も逸材を見つけたんだ!あの子!」
「ん?…まぁ、美しい女性ですわね」
「そうでしょ!あの子が元侍女長やミリーを僕達の所に送り込んでくれた子だよ!」
「まぁ!それは確かにミシェラスにとっては逸材ですわね!」
聞きたくもない会話を繰り広げている二人に、ヴォルフは思わず顔を引きつらせる。
盛り上がっているミシェラス達にベルグが呆れた視線を向けて口を開いた。
「おいおい、手がつけられねぇな。ミーシャは名乗ってもいねぇだろ」
「ベルグ、言葉遣いがなっていませんわよ」
先程の興奮したような声から一転して、ミーシャは冷たい声と視線をベルグに向けた。しかも、いつの間にか取り出した扇子で、手を叩いて威圧している。
しかし、ヴォルフに視線を移すと、こほんと小さく咳払いをしてにっこりと笑みを受けベた。
「でも、まぁ。確かに名乗っていませんわね。…私はミシェラスの双子の姉でミーシャ=ダンデルシアと申します」
思いもよらない名前が聞こえ、ヴォルフは驚いた表情を浮かべた。まさか、あの有名なダンデルシア家の者とは思わなかった。
あの使用人の墓場などと呼ばれるダンデルシア家の令嬢と令息がコレとは、いろんな意味で大丈夫だろうか。そんな風に考えて、ヴォルフは長いため息をついた。それと同時に、隣りにいたレフィーナからも疲れたような長いため息が聞こえてくる。
もうさっさとレフィーナと共にこの場を去りたいのだが、扉の前にミシェラス達がいるので近づきたくない。
「さぁ、騎士の方!私と共に帰りましょう!」
「君も僕と一緒に帰ろう!」
ミシェラスとミーシャが双子らしくそっくりの笑みを浮かべて、ヴォルフとレフィーナに手を差し伸べる。それに対してヴォルフは考えるよりも早く声を出した。
「「お断りします!」」
全く同じタイミングでレフィーナもまた、否定の言葉を紡いでいた。必死に拒否するヴォルフ達に同情したのか、ベルグが口を挟む。
「はぁー…、お二人さん。怖ーい王妃サマに城で好き勝手に勧誘するな、って言われてるだろ」
その一言で、嬉々とした笑みを浮かべていた二人の表情が凍りつく。そして、ミシェラスとミーシャは顔を見合わせ、顔をひきつらせながら口を開いた。
「き、今日は無理そうね」
「そ、そうだね」
あの王妃にはさすがにこの二人でも逆らえないらしい。どうにか逃れられそうでヴォルフはレフィーナと顔を見合わせて、深いため息をついた。
そんな二人の迷惑そうな雰囲気など気にもしていないミシェラス達が、また満面の笑みを浮かべる。
「でも、いつでも待っていますわ!騎士の方!」
「僕も君に足蹴にされるのを、心待にしているよ!」
「では、私達はこれで失礼しますわ!」
ミシェラスとミーシャが部屋から出ていく。もう二度と会いたくはないし、レフィーナにも会わせたくない。
ダンデルシア家が城から遠い国境付近にあってよかったと心から思う。よっぽど顔を合わせる機会はないはずだ。
「……俺、なんであんなのが好きなんだ…」
ふと、げっそりとした様子でベルグが小さく呟いた声が聞こえた。それからすぐにベルグがレフィーナに視線を向ける。
「…レフィーナ、もう俺はあんたを口説く元気もないから安心しろ…」
「は、はぁ…」
「それと、元侍女長は今や屋敷で一番性格がいいオバさんになっているし、頭の軽いお嬢サマも意気消沈しつつも意外と真面目に働いてるぞ。だから、そっちも安心しろ」
「え?」
「まぁ、もう会うこともねぇだろうがな。あー、そうそう、副騎士団長サマ。レフィーナの事、ちゃんと守ってやれよー。横からかっさらわれないようにな」
レフィーナと話していたベルグが不意に、こちらに話を振ってきた。その内容にヴォルフは眉間に皺を寄せる。
「……お前に言われるまでもない。それと、お前も監視下に置かれている事を忘れるな」
「…へいへい。んじゃあな」
ベルグを睨み付けると、彼は肩を竦める。そして、ひらひらと手を振りながら、部屋を去って行った。それを見送り、ヴォルフは体から力を抜く。
少しの間の出来事だったにも関わらず、騎士の仕事より疲れた気がする。
「何だか…嵐に遭遇したような感じね…」
「…あぁ、そうだな…」
同じように疲れた様子のレフィーナに話しかけられて、ヴォルフは頷いた。それからヴォルフは気持ちを入れ替えるようにそっと息をつく。
予定外の事が起こったが、これからが大切なのだ。隠し持ったものにそっと触れて、ヴォルフはレフィーナに声をかける。
「…レフィーナ、まだ家族に会うまで時間はあるか?」
「え?…えーと、まだ大丈夫よ」
「…気分転換に庭でも散歩しないか?」
ヴォルフの提案にレフィーナはすぐに頷く。一気に緊張が襲ってくるが、それをなんとか悟られないように抑え込む。そして、レフィーナの手を取って、ヴォルフは薔薇園へと向かったのだった。
「聞いてよ、ミーシャ!僕も逸材を見つけたんだ!あの子!」
「ん?…まぁ、美しい女性ですわね」
「そうでしょ!あの子が元侍女長やミリーを僕達の所に送り込んでくれた子だよ!」
「まぁ!それは確かにミシェラスにとっては逸材ですわね!」
聞きたくもない会話を繰り広げている二人に、ヴォルフは思わず顔を引きつらせる。
盛り上がっているミシェラス達にベルグが呆れた視線を向けて口を開いた。
「おいおい、手がつけられねぇな。ミーシャは名乗ってもいねぇだろ」
「ベルグ、言葉遣いがなっていませんわよ」
先程の興奮したような声から一転して、ミーシャは冷たい声と視線をベルグに向けた。しかも、いつの間にか取り出した扇子で、手を叩いて威圧している。
しかし、ヴォルフに視線を移すと、こほんと小さく咳払いをしてにっこりと笑みを受けベた。
「でも、まぁ。確かに名乗っていませんわね。…私はミシェラスの双子の姉でミーシャ=ダンデルシアと申します」
思いもよらない名前が聞こえ、ヴォルフは驚いた表情を浮かべた。まさか、あの有名なダンデルシア家の者とは思わなかった。
あの使用人の墓場などと呼ばれるダンデルシア家の令嬢と令息がコレとは、いろんな意味で大丈夫だろうか。そんな風に考えて、ヴォルフは長いため息をついた。それと同時に、隣りにいたレフィーナからも疲れたような長いため息が聞こえてくる。
もうさっさとレフィーナと共にこの場を去りたいのだが、扉の前にミシェラス達がいるので近づきたくない。
「さぁ、騎士の方!私と共に帰りましょう!」
「君も僕と一緒に帰ろう!」
ミシェラスとミーシャが双子らしくそっくりの笑みを浮かべて、ヴォルフとレフィーナに手を差し伸べる。それに対してヴォルフは考えるよりも早く声を出した。
「「お断りします!」」
全く同じタイミングでレフィーナもまた、否定の言葉を紡いでいた。必死に拒否するヴォルフ達に同情したのか、ベルグが口を挟む。
「はぁー…、お二人さん。怖ーい王妃サマに城で好き勝手に勧誘するな、って言われてるだろ」
その一言で、嬉々とした笑みを浮かべていた二人の表情が凍りつく。そして、ミシェラスとミーシャは顔を見合わせ、顔をひきつらせながら口を開いた。
「き、今日は無理そうね」
「そ、そうだね」
あの王妃にはさすがにこの二人でも逆らえないらしい。どうにか逃れられそうでヴォルフはレフィーナと顔を見合わせて、深いため息をついた。
そんな二人の迷惑そうな雰囲気など気にもしていないミシェラス達が、また満面の笑みを浮かべる。
「でも、いつでも待っていますわ!騎士の方!」
「僕も君に足蹴にされるのを、心待にしているよ!」
「では、私達はこれで失礼しますわ!」
ミシェラスとミーシャが部屋から出ていく。もう二度と会いたくはないし、レフィーナにも会わせたくない。
ダンデルシア家が城から遠い国境付近にあってよかったと心から思う。よっぽど顔を合わせる機会はないはずだ。
「……俺、なんであんなのが好きなんだ…」
ふと、げっそりとした様子でベルグが小さく呟いた声が聞こえた。それからすぐにベルグがレフィーナに視線を向ける。
「…レフィーナ、もう俺はあんたを口説く元気もないから安心しろ…」
「は、はぁ…」
「それと、元侍女長は今や屋敷で一番性格がいいオバさんになっているし、頭の軽いお嬢サマも意気消沈しつつも意外と真面目に働いてるぞ。だから、そっちも安心しろ」
「え?」
「まぁ、もう会うこともねぇだろうがな。あー、そうそう、副騎士団長サマ。レフィーナの事、ちゃんと守ってやれよー。横からかっさらわれないようにな」
レフィーナと話していたベルグが不意に、こちらに話を振ってきた。その内容にヴォルフは眉間に皺を寄せる。
「……お前に言われるまでもない。それと、お前も監視下に置かれている事を忘れるな」
「…へいへい。んじゃあな」
ベルグを睨み付けると、彼は肩を竦める。そして、ひらひらと手を振りながら、部屋を去って行った。それを見送り、ヴォルフは体から力を抜く。
少しの間の出来事だったにも関わらず、騎士の仕事より疲れた気がする。
「何だか…嵐に遭遇したような感じね…」
「…あぁ、そうだな…」
同じように疲れた様子のレフィーナに話しかけられて、ヴォルフは頷いた。それからヴォルフは気持ちを入れ替えるようにそっと息をつく。
予定外の事が起こったが、これからが大切なのだ。隠し持ったものにそっと触れて、ヴォルフはレフィーナに声をかける。
「…レフィーナ、まだ家族に会うまで時間はあるか?」
「え?…えーと、まだ大丈夫よ」
「…気分転換に庭でも散歩しないか?」
ヴォルフの提案にレフィーナはすぐに頷く。一気に緊張が襲ってくるが、それをなんとか悟られないように抑え込む。そして、レフィーナの手を取って、ヴォルフは薔薇園へと向かったのだった。
0
お気に入りに追加
2,624
あなたにおすすめの小説
友達の肩書き
菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。
私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。
どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。
「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」
近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
まったく心当たりのない理由で婚約破棄されるのはいいのですが、私は『精霊のいとし子』ですよ……?【カイン王子視点】
空月
恋愛
精霊信仰の盛んなクレセント王国。
身に覚えのない罪状をつらつらと挙げ連ねられて、第一王子に婚約破棄された『精霊のいとし子』アリシア・デ・メルシスは、第二王子であるカイン王子に求婚された。
そこに至るまでのカイン王子の話。
『まったく心当たりのない理由で婚約破棄されるのはいいのですが、私は『精霊のいとし子』ですよ……?』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/368147631/886540222)のカイン王子視点です。
+ + + + + +
この話の本編と続編(書き下ろし)を収録予定(この別視点は入れるか迷い中)の同人誌(短編集)発行予定です。
購入希望アンケートをとっているので、ご興味ある方は回答してやってください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScCXESJ67aAygKASKjiLIz3aEvXb0eN9FzwHQuxXavT6uiuwg/viewform?usp=sf_link
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜
まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。
【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。
三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。
目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。
私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる