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「あぁん、断るなんて酷いわ。……でも、しつけがいがありそうですわ…。あぁ…お城が鞭打ち禁止でなければ…!もちろん、痛くもないし、跡も残しませんわ!はぁ…!」

「聞いてよ、ミーシャ!僕も逸材を見つけたんだ!あの子!」

「ん?…まぁ、美しい女性ですわね」

「そうでしょ!あの子が元侍女長やミリーを僕達の所に送り込んでくれた子だよ!」

「まぁ!それは確かにミシェラスにとっては逸材ですわね!」


 聞きたくもない会話を繰り広げている二人に、ヴォルフは思わず顔を引きつらせる。
 盛り上がっているミシェラス達にベルグが呆れた視線を向けて口を開いた。


「おいおい、手がつけられねぇな。ミーシャは名乗ってもいねぇだろ」

「ベルグ、言葉遣いがなっていませんわよ」


 先程の興奮したような声から一転して、ミーシャは冷たい声と視線をベルグに向けた。しかも、いつの間にか取り出した扇子で、手を叩いて威圧している。
 しかし、ヴォルフに視線を移すと、こほんと小さく咳払いをしてにっこりと笑みを受けベた。 


「でも、まぁ。確かに名乗っていませんわね。…私はミシェラスの双子の姉でミーシャ=ダンデルシアと申します」


 思いもよらない名前が聞こえ、ヴォルフは驚いた表情を浮かべた。まさか、あの有名なダンデルシア家の者とは思わなかった。
 あの使用人の墓場などと呼ばれるダンデルシア家の令嬢と令息がコレとは、いろんな意味で大丈夫だろうか。そんな風に考えて、ヴォルフは長いため息をついた。それと同時に、隣りにいたレフィーナからも疲れたような長いため息が聞こえてくる。

 もうさっさとレフィーナと共にこの場を去りたいのだが、扉の前にミシェラス達がいるので近づきたくない。


「さぁ、騎士の方!私と共に帰りましょう!」

「君も僕と一緒に帰ろう!」


 ミシェラスとミーシャが双子らしくそっくりの笑みを浮かべて、ヴォルフとレフィーナに手を差し伸べる。それに対してヴォルフは考えるよりも早く声を出した。


「「お断りします!」」


 全く同じタイミングでレフィーナもまた、否定の言葉を紡いでいた。必死に拒否するヴォルフ達に同情したのか、ベルグが口を挟む。


「はぁー…、お二人さん。怖ーい王妃サマに城で好き勝手に勧誘するな、って言われてるだろ」


 その一言で、嬉々とした笑みを浮かべていた二人の表情が凍りつく。そして、ミシェラスとミーシャは顔を見合わせ、顔をひきつらせながら口を開いた。


「き、今日は無理そうね」

「そ、そうだね」


 あの王妃にはさすがにこの二人でも逆らえないらしい。どうにか逃れられそうでヴォルフはレフィーナと顔を見合わせて、深いため息をついた。
 そんな二人の迷惑そうな雰囲気など気にもしていないミシェラス達が、また満面の笑みを浮かべる。


「でも、いつでも待っていますわ!騎士の方!」

「僕も君に足蹴にされるのを、心待にしているよ!」

「では、私達はこれで失礼しますわ!」


 ミシェラスとミーシャが部屋から出ていく。もう二度と会いたくはないし、レフィーナにも会わせたくない。
 ダンデルシア家が城から遠い国境付近にあってよかったと心から思う。よっぽど顔を合わせる機会はないはずだ。


「……俺、なんであんなのが好きなんだ…」


 ふと、げっそりとした様子でベルグが小さく呟いた声が聞こえた。それからすぐにベルグがレフィーナに視線を向ける。


「…レフィーナ、もう俺はあんたを口説く元気もないから安心しろ…」

「は、はぁ…」

「それと、元侍女長は今や屋敷で一番性格がいいオバさんになっているし、頭の軽いお嬢サマも意気消沈しつつも意外と真面目に働いてるぞ。だから、そっちも安心しろ」

「え?」

「まぁ、もう会うこともねぇだろうがな。あー、そうそう、副騎士団長サマ。レフィーナの事、ちゃんと守ってやれよー。横からかっさらわれないようにな」


 レフィーナと話していたベルグが不意に、こちらに話を振ってきた。その内容にヴォルフは眉間に皺を寄せる。


「……お前に言われるまでもない。それと、お前も監視下に置かれている事を忘れるな」

「…へいへい。んじゃあな」


 ベルグを睨み付けると、彼は肩をすくめる。そして、ひらひらと手を振りながら、部屋を去って行った。それを見送り、ヴォルフは体から力を抜く。
 少しの間の出来事だったにも関わらず、騎士の仕事より疲れた気がする。


「何だか…嵐に遭遇したような感じね…」

「…あぁ、そうだな…」


 同じように疲れた様子のレフィーナに話しかけられて、ヴォルフは頷いた。それからヴォルフは気持ちを入れ替えるようにそっと息をつく。
 予定外の事が起こったが、これからが大切なのだ。隠し持ったものにそっと触れて、ヴォルフはレフィーナに声をかける。


「…レフィーナ、まだ家族に会うまで時間はあるか?」

「え?…えーと、まだ大丈夫よ」

「…気分転換に庭でも散歩しないか?」


 ヴォルフの提案にレフィーナはすぐに頷く。一気に緊張がおそってくるが、それをなんとか悟られないように抑え込む。そして、レフィーナの手を取って、ヴォルフは薔薇園へと向かったのだった。
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