悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「…わしからも詫びよう。すまなかった。…どうか彼女らを許してはもらえないか」


  国王が頭を下げた令嬢達からレオンに視線を移してそう言った。国王の謝罪に、レオンはヴォルフとレフィーナに向き直って口を開く。


「ヴォルフ、レフィーナ。君達が嫌な思いをしたんだ。彼女達を許すか許さないかは君達が決めなよ」

 
 レオンの言葉に、ヴォルフはレフィーナと顔を見合わせた。ヴォルフとしては元々令嬢達に対する興味は薄く、別にどちらでもいいと思っている。だからヴォルフは判断をレフィーナに委ねる事にした。


「俺はレフィーナが許すならそれでいい」

「…これからは下の者を見下すような発言は控えてください。それを約束してくださるのなら、私から罰を求めるような事はありません」


 レフィーナは令嬢達を責めるでも嫌味を言うのでもなく、ただ静かに令嬢達の謝罪を受け入れた。その姿にヴォルフは少しだけ口元を緩める。やはりレフィーナは優しい。

 レフィーナの言葉を聞いて国王がゆっくりと頷き、口を開く。


「…感謝する。…とはいえ、今回の事はお前達の父親には告げておく。これからはプリローダの貴族として恥ずかしくない立ち振舞いをするように」

「……はい」


 令嬢達は全員静かに返事をして、その場から去っていった。その背を見送り、レオンは国王に視線を移す。


「国王陛下、私達はもう国へ帰ります」

「む…そうだったのだな。帰り際に騒ぎを起こして申し訳なかった。ガレン王にも詫びをいれておこう。…さて、わしも見送りくらいしよう」

「ありがとうございます。ドロシー、行こうか」


 レオンは疲れたようにため息をついた後、ドロシーに手を差し出した。ドロシーが手を重ねると、レオン達は国王と共に宿を出ていく。ヴォルフは護衛の騎士達に目配せをして、レオン達についていくように指示を出す。
 少しレフィーナと二人になりたいというヴォルフの気持ちを汲み取ったのか、騎士達は指示にただ黙って頷き去っていく。

 ヴォルフは宿の外に向かおうとするレフィーナの手首を掴んだ。


「ヴォルフ…?」

「…レフィーナ、少しだけ…甘えさせてくれ」


 不思議そうに緋色の瞳を瞬かせるレフィーナに、ヴォルフはかすれた声でそう言って、彼女を正面から抱きしめた。


「俺のせいで嫌な思いをさせて悪かったな…」

「別に…ヴォルフのせいではないわ。ボースハイト伯爵が自身の保身のために身勝手な事をして、それにヴォルフは巻き込まれただけよ。…それに、その、私の両親を許しが出るまで説得して頭を下げるって言ってくれたし…嫌な思いをしただけじゃないわ」

「…ありがとう、レフィーナ」


 レフィーナの言葉に心が軽くなる。それと同時に、この腕の中の温もりを手放したくないと強く思った。
 自分のろくでもない両親を知っても、変わらず心を向けてくれるレフィーナが好きで仕方ない。

 ヴォルフは抱きしめていたレフィーナの体を放すと、レフィーナの左手を掴み、上へ持ち上げる。そして、ヴォルフはレフィーナの左薬指に唇を押し付けた。


「なっ…なに?」


 狼狽うろたえたレフィーナの声に、ヴォルフは唇を押し付けたまま、金色の瞳を細める。
 今はまだ何も用意出来ていない。だから……


「…指輪の代わりだ」

「え?」

「…俺はお前を妻にしたい。本当は…ちゃんと指輪を用意してから伝えるつもりだったんだが…伯爵のせいで予定が狂ったからな。…指輪を用意してもう一度、ちゃんと求婚する。だから、それまでに…答えを考えておいてくれ」


 ヴォルフはふわりと微笑む。アングイスのせいで随分と予定が狂ってしまったが、それでもきちんと自分の気持は伝える事が出来た。
 レフィーナの顔は真っ赤に染まっていて、ヴォルフは嬉しくなる。


「答えなんて…決まってるわ」


 恥ずかしそうに呟いたレフィーナに、ヴォルフはゆっくりと首を横に振った。


「…結婚は一生の事だ。ゆっくりと考えて決めるべきだろう。レフィーナには後悔のない選択をしてもらいたいからな」

「…ヴォルフ…」

「…まぁ、それは建前で…本音はちゃんと格好よくやり直したいだけなんだがな」


 素直な気持ちを口にすると、レフィーナは目を丸くしてから小さく吹き出した。笑い声を上げたレフィーナはしっかりと頷く。


「分かったわ。…ちゃんと考えておく。だから、待ってるわ」

「あぁ、助かる。…そろそろ馬車に行くか。レオン殿下達も待っているだろう」

「…そうね」


 ヴォルフはレフィーナと並んでレオン達の元へ向かい始める。

 隣を歩くレフィーナに一瞬視線を移して、ヴォルフはそっと口元を緩めた。
 レフィーナがこうして隣を歩いてくれるだけで、心が和らぐ。もし、レフィーナという愛しい人がいなければ、ヴォルフはろくでもない父親の存在に傷ついていたかも知れない。

 アングイスの姿を思い出したヴォルフは、同時に母親の事も思い出した。そして、指輪を用意する他に、もう一つやっておくべき事ができたと、ヴォルフは小さく息を吐き出したのだった。
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