悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「誓い……?」

「はい。…レフィーナの事を必ず幸せにすると、レイ殿下に誓います」


 ヴォルフから告げられた言葉に、レイは瞬きを繰り返す。振られてしまった自分を笑いに来たのでも、レフィーナと付き合えたと自慢しに来たのでもない。
 兄であるフィーリアンや、レフィーナでさえ一時的な子供の感情だと思っているのに、自分が勝手にライバル扱いしたこの男だけは、レイの気持ちの本気さを汲んでくれていた。


「……ふふっ…」


 頭を下げていたヴォルフは、上から降ってきた笑い声に顔を上げる。
 泣いていたレイはどこか悔しそうな、でも、スッキリしたような笑みを浮かべていた。


「ずるいなぁ…。真っ直ぐで、誠実で…レフィーナが選んだのも分かるな…」

「レイ殿下…」

「……いいよ。レフィーナは譲ってあげる」


 目尻に浮かんでいた涙をレイは拭う。どことなく大人びた表情をレイは浮かべながら、片膝をついたままのヴォルフの顔の前に小指を立てた手を差し出した。


「約束だよ?レフィーナの事、絶対に幸せにしてあげてね」

「…はい、必ず」


 ヴォルフはレイの小さな小指に自身の小指を絡めた。
 必ず幸せにしよう。…レフィーナが許してくれるのなら、その先の未来までも。

 レイはヴォルフの返事に満足そうな笑みを浮かべた。


「あーぁ、せっかく僕を見てくれる人を見つけたと思ったのになぁ…」


 残念そうにレイが呟く。ヴォルフはそんなレイにふっと口元を緩めた。そして、立ち上がると後ろを振り返る。
 バルコニーの入り口から一人の少女がこちらを伺っていて、ヴォルフと目が合うとびくりと肩を跳ねさせた。


「そんな事はないようですよ、レイ殿下」


 ヴォルフの言葉にレイはヴォルフの視線をたどり、驚いたようにその漆黒の瞳を瞬かせた。そこにいた少女は今日自分がエスコートした…婚約者のリアだった。

 ヴォルフは一度レイの方へ向き合うと、頭を下げる。


「…私はレフィーナの元へと戻ります。…レイ殿下、貴方を見てくれている人は、きっとレフィーナだけではありませんよ」

「えっ?」

「それでは、私はこれで失礼いたします」


 言葉の意味を測りかねているレイに微かに笑いかけ、ヴォルフはその場を後にする。そうすれば、ヴォルフと入れ替わるように、ヴォルフの横を先程の少女がかけていった。

 会場に入る前に一度レイ達の方を振り返れば、わんわんと泣きじゃくる少女を泣き止ませようとするレイの姿が見えた。きっとレイも気づくだろう。自分は一人ではなく、側にいてくれる…側にいたいと思ってくれている人がいるのだと。

 ヴォルフはレイ達から視線を外すと、今度こそバルコニーを後にし、眩しい会場へと足を踏み入れたのだった。



            ◇



 何度か令嬢に話しかけられそうになるのを上手くかわして、ようやくレフィーナの姿を見つけたヴォルフは声をかける。


「…レフィーナ」

「ヴォルフ様…」

「どうした、顔色が悪いぞ」


 どこか安堵したように、ヴォルフの名を呼んだレフィーナの顔色は悪い。それを見たヴォルフは心配するように顔を覗き込んだ。
 どこかで休ませたほうがいいだろうと、瞬時に判断する。


「歩けるか?」

「はい…」

「人の少ない所に行って少し休むぞ」

「ありがとうございます」


 レフィーナの手を支えるようにぎゅっと握り、ヴォルフは殆ど人がいない壁際まで連れていく。


「あの、ヴォルフ様…」

「着いたな。ほら、ここに座れ」

「あ、あの」

「ちょっと待っていろ、水を貰ってくる」


 レフィーナが何度か口を開くのが分かったが、まずは休むことが大切だと思い、レフィーナの話を後回しにして、ヴォルフは水を取りに行く。
 テーブルからよく冷えた水の入ったグラスを取り、こぼさない程度に急ぎながらレフィーナの元まで戻る。
 そして、どこかぼんやりとした様子のレフィーナに、水の入ったグラスを差し出した。


「あっ…」

「ほら、飲め」

「ありがとう、ございます」

「久しぶりの舞踏会で疲れたんだろう」


 冷たい水を一口飲んで、レフィーナはほっと息を吐き出す。そんなレフィーナの頬をするりと労るように撫で、ヴォルフは優しく微笑む。ドロシーのおかげで随分と軽減されたとはいえ、注目を浴びているのは辛かったのだろう。

 ふと、レフィーナが何か言いたそうに口を開くが、結局何も言わずに口を閉じた。その様子にヴォルフが首を傾げれば、レフィーナは誤魔化すように笑って、口を開く。


「…レイ殿下のご様子はどうでしたか?」

「心配しなくていい。殿下は…立派な男だからな」


 泣くことをやめ、好きな人の幸せを願える…そんな立派な一人の男だ。レフィーナは可愛らしいレイからは立派な男というイメージが出来ないのか、緋色の瞳を瞬かせている。


「立派な男…?」

「あぁ。だから、大丈夫だ」


 安心させるようにしっかりと頷けば、レフィーナは安堵したように小さく息を吐き出した。
 ヴォルフはそんなレフィーナを見ながら、ふと明日の事を考える。
 明日は二人共休みで、レフィーナの誕生日だ。


「…明日は一緒にいられるな」

「はい」

「楽しみだな」


 ヴォルフは愛おしそうな視線をレフィーナに向ける。そうすれば、レフィーナがはっとしたような表情を浮かべ、やがて口を開いた。
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