67 / 97
67
しおりを挟む
「誓い……?」
「はい。…レフィーナの事を必ず幸せにすると、レイ殿下に誓います」
ヴォルフから告げられた言葉に、レイは瞬きを繰り返す。振られてしまった自分を笑いに来たのでも、レフィーナと付き合えたと自慢しに来たのでもない。
兄であるフィーリアンや、レフィーナでさえ一時的な子供の感情だと思っているのに、自分が勝手にライバル扱いしたこの男だけは、レイの気持ちの本気さを汲んでくれていた。
「……ふふっ…」
頭を下げていたヴォルフは、上から降ってきた笑い声に顔を上げる。
泣いていたレイはどこか悔しそうな、でも、スッキリしたような笑みを浮かべていた。
「ずるいなぁ…。真っ直ぐで、誠実で…レフィーナが選んだのも分かるな…」
「レイ殿下…」
「……いいよ。レフィーナは譲ってあげる」
目尻に浮かんでいた涙をレイは拭う。どことなく大人びた表情をレイは浮かべながら、片膝をついたままのヴォルフの顔の前に小指を立てた手を差し出した。
「約束だよ?レフィーナの事、絶対に幸せにしてあげてね」
「…はい、必ず」
ヴォルフはレイの小さな小指に自身の小指を絡めた。
必ず幸せにしよう。…レフィーナが許してくれるのなら、その先の未来までも。
レイはヴォルフの返事に満足そうな笑みを浮かべた。
「あーぁ、せっかく僕を見てくれる人を見つけたと思ったのになぁ…」
残念そうにレイが呟く。ヴォルフはそんなレイにふっと口元を緩めた。そして、立ち上がると後ろを振り返る。
バルコニーの入り口から一人の少女がこちらを伺っていて、ヴォルフと目が合うとびくりと肩を跳ねさせた。
「そんな事はないようですよ、レイ殿下」
ヴォルフの言葉にレイはヴォルフの視線をたどり、驚いたようにその漆黒の瞳を瞬かせた。そこにいた少女は今日自分がエスコートした…婚約者のリアだった。
ヴォルフは一度レイの方へ向き合うと、頭を下げる。
「…私はレフィーナの元へと戻ります。…レイ殿下、貴方を見てくれている人は、きっとレフィーナだけではありませんよ」
「えっ?」
「それでは、私はこれで失礼いたします」
言葉の意味を測りかねているレイに微かに笑いかけ、ヴォルフはその場を後にする。そうすれば、ヴォルフと入れ替わるように、ヴォルフの横を先程の少女がかけていった。
会場に入る前に一度レイ達の方を振り返れば、わんわんと泣きじゃくる少女を泣き止ませようとするレイの姿が見えた。きっとレイも気づくだろう。自分は一人ではなく、側にいてくれる…側にいたいと思ってくれている人がいるのだと。
ヴォルフはレイ達から視線を外すと、今度こそバルコニーを後にし、眩しい会場へと足を踏み入れたのだった。
◇
何度か令嬢に話しかけられそうになるのを上手くかわして、ようやくレフィーナの姿を見つけたヴォルフは声をかける。
「…レフィーナ」
「ヴォルフ様…」
「どうした、顔色が悪いぞ」
どこか安堵したように、ヴォルフの名を呼んだレフィーナの顔色は悪い。それを見たヴォルフは心配するように顔を覗き込んだ。
どこかで休ませたほうがいいだろうと、瞬時に判断する。
「歩けるか?」
「はい…」
「人の少ない所に行って少し休むぞ」
「ありがとうございます」
レフィーナの手を支えるようにぎゅっと握り、ヴォルフは殆ど人がいない壁際まで連れていく。
「あの、ヴォルフ様…」
「着いたな。ほら、ここに座れ」
「あ、あの」
「ちょっと待っていろ、水を貰ってくる」
レフィーナが何度か口を開くのが分かったが、まずは休むことが大切だと思い、レフィーナの話を後回しにして、ヴォルフは水を取りに行く。
テーブルからよく冷えた水の入ったグラスを取り、こぼさない程度に急ぎながらレフィーナの元まで戻る。
そして、どこかぼんやりとした様子のレフィーナに、水の入ったグラスを差し出した。
「あっ…」
「ほら、飲め」
「ありがとう、ございます」
「久しぶりの舞踏会で疲れたんだろう」
冷たい水を一口飲んで、レフィーナはほっと息を吐き出す。そんなレフィーナの頬をするりと労るように撫で、ヴォルフは優しく微笑む。ドロシーのおかげで随分と軽減されたとはいえ、注目を浴びているのは辛かったのだろう。
ふと、レフィーナが何か言いたそうに口を開くが、結局何も言わずに口を閉じた。その様子にヴォルフが首を傾げれば、レフィーナは誤魔化すように笑って、口を開く。
「…レイ殿下のご様子はどうでしたか?」
「心配しなくていい。殿下は…立派な男だからな」
泣くことをやめ、好きな人の幸せを願える…そんな立派な一人の男だ。レフィーナは可愛らしいレイからは立派な男というイメージが出来ないのか、緋色の瞳を瞬かせている。
「立派な男…?」
「あぁ。だから、大丈夫だ」
安心させるようにしっかりと頷けば、レフィーナは安堵したように小さく息を吐き出した。
ヴォルフはそんなレフィーナを見ながら、ふと明日の事を考える。
明日は二人共休みで、レフィーナの誕生日だ。
「…明日は一緒にいられるな」
「はい」
「楽しみだな」
ヴォルフは愛おしそうな視線をレフィーナに向ける。そうすれば、レフィーナがはっとしたような表情を浮かべ、やがて口を開いた。
「はい。…レフィーナの事を必ず幸せにすると、レイ殿下に誓います」
ヴォルフから告げられた言葉に、レイは瞬きを繰り返す。振られてしまった自分を笑いに来たのでも、レフィーナと付き合えたと自慢しに来たのでもない。
兄であるフィーリアンや、レフィーナでさえ一時的な子供の感情だと思っているのに、自分が勝手にライバル扱いしたこの男だけは、レイの気持ちの本気さを汲んでくれていた。
「……ふふっ…」
頭を下げていたヴォルフは、上から降ってきた笑い声に顔を上げる。
泣いていたレイはどこか悔しそうな、でも、スッキリしたような笑みを浮かべていた。
「ずるいなぁ…。真っ直ぐで、誠実で…レフィーナが選んだのも分かるな…」
「レイ殿下…」
「……いいよ。レフィーナは譲ってあげる」
目尻に浮かんでいた涙をレイは拭う。どことなく大人びた表情をレイは浮かべながら、片膝をついたままのヴォルフの顔の前に小指を立てた手を差し出した。
「約束だよ?レフィーナの事、絶対に幸せにしてあげてね」
「…はい、必ず」
ヴォルフはレイの小さな小指に自身の小指を絡めた。
必ず幸せにしよう。…レフィーナが許してくれるのなら、その先の未来までも。
レイはヴォルフの返事に満足そうな笑みを浮かべた。
「あーぁ、せっかく僕を見てくれる人を見つけたと思ったのになぁ…」
残念そうにレイが呟く。ヴォルフはそんなレイにふっと口元を緩めた。そして、立ち上がると後ろを振り返る。
バルコニーの入り口から一人の少女がこちらを伺っていて、ヴォルフと目が合うとびくりと肩を跳ねさせた。
「そんな事はないようですよ、レイ殿下」
ヴォルフの言葉にレイはヴォルフの視線をたどり、驚いたようにその漆黒の瞳を瞬かせた。そこにいた少女は今日自分がエスコートした…婚約者のリアだった。
ヴォルフは一度レイの方へ向き合うと、頭を下げる。
「…私はレフィーナの元へと戻ります。…レイ殿下、貴方を見てくれている人は、きっとレフィーナだけではありませんよ」
「えっ?」
「それでは、私はこれで失礼いたします」
言葉の意味を測りかねているレイに微かに笑いかけ、ヴォルフはその場を後にする。そうすれば、ヴォルフと入れ替わるように、ヴォルフの横を先程の少女がかけていった。
会場に入る前に一度レイ達の方を振り返れば、わんわんと泣きじゃくる少女を泣き止ませようとするレイの姿が見えた。きっとレイも気づくだろう。自分は一人ではなく、側にいてくれる…側にいたいと思ってくれている人がいるのだと。
ヴォルフはレイ達から視線を外すと、今度こそバルコニーを後にし、眩しい会場へと足を踏み入れたのだった。
◇
何度か令嬢に話しかけられそうになるのを上手くかわして、ようやくレフィーナの姿を見つけたヴォルフは声をかける。
「…レフィーナ」
「ヴォルフ様…」
「どうした、顔色が悪いぞ」
どこか安堵したように、ヴォルフの名を呼んだレフィーナの顔色は悪い。それを見たヴォルフは心配するように顔を覗き込んだ。
どこかで休ませたほうがいいだろうと、瞬時に判断する。
「歩けるか?」
「はい…」
「人の少ない所に行って少し休むぞ」
「ありがとうございます」
レフィーナの手を支えるようにぎゅっと握り、ヴォルフは殆ど人がいない壁際まで連れていく。
「あの、ヴォルフ様…」
「着いたな。ほら、ここに座れ」
「あ、あの」
「ちょっと待っていろ、水を貰ってくる」
レフィーナが何度か口を開くのが分かったが、まずは休むことが大切だと思い、レフィーナの話を後回しにして、ヴォルフは水を取りに行く。
テーブルからよく冷えた水の入ったグラスを取り、こぼさない程度に急ぎながらレフィーナの元まで戻る。
そして、どこかぼんやりとした様子のレフィーナに、水の入ったグラスを差し出した。
「あっ…」
「ほら、飲め」
「ありがとう、ございます」
「久しぶりの舞踏会で疲れたんだろう」
冷たい水を一口飲んで、レフィーナはほっと息を吐き出す。そんなレフィーナの頬をするりと労るように撫で、ヴォルフは優しく微笑む。ドロシーのおかげで随分と軽減されたとはいえ、注目を浴びているのは辛かったのだろう。
ふと、レフィーナが何か言いたそうに口を開くが、結局何も言わずに口を閉じた。その様子にヴォルフが首を傾げれば、レフィーナは誤魔化すように笑って、口を開く。
「…レイ殿下のご様子はどうでしたか?」
「心配しなくていい。殿下は…立派な男だからな」
泣くことをやめ、好きな人の幸せを願える…そんな立派な一人の男だ。レフィーナは可愛らしいレイからは立派な男というイメージが出来ないのか、緋色の瞳を瞬かせている。
「立派な男…?」
「あぁ。だから、大丈夫だ」
安心させるようにしっかりと頷けば、レフィーナは安堵したように小さく息を吐き出した。
ヴォルフはそんなレフィーナを見ながら、ふと明日の事を考える。
明日は二人共休みで、レフィーナの誕生日だ。
「…明日は一緒にいられるな」
「はい」
「楽しみだな」
ヴォルフは愛おしそうな視線をレフィーナに向ける。そうすれば、レフィーナがはっとしたような表情を浮かべ、やがて口を開いた。
0
お気に入りに追加
2,624
あなたにおすすめの小説
友達の肩書き
菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。
私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。
どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。
「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」
近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。
まったく心当たりのない理由で婚約破棄されるのはいいのですが、私は『精霊のいとし子』ですよ……?【カイン王子視点】
空月
恋愛
精霊信仰の盛んなクレセント王国。
身に覚えのない罪状をつらつらと挙げ連ねられて、第一王子に婚約破棄された『精霊のいとし子』アリシア・デ・メルシスは、第二王子であるカイン王子に求婚された。
そこに至るまでのカイン王子の話。
『まったく心当たりのない理由で婚約破棄されるのはいいのですが、私は『精霊のいとし子』ですよ……?』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/368147631/886540222)のカイン王子視点です。
+ + + + + +
この話の本編と続編(書き下ろし)を収録予定(この別視点は入れるか迷い中)の同人誌(短編集)発行予定です。
購入希望アンケートをとっているので、ご興味ある方は回答してやってください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScCXESJ67aAygKASKjiLIz3aEvXb0eN9FzwHQuxXavT6uiuwg/viewform?usp=sf_link
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜
まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。
【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。
三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。
目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。
私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
結城芙由奈
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので
結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる