悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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 翌日、ヴォルフは朝早くに起き、簡単な朝食を済ませると、騎士達が待機している部屋で昨日の報告を受けていた。


「では、宿も問題なく、怪我人などもいなかったんだな」

「はい。近隣の住民にも説明されていましたので、混乱もなかったです」

「…そうか」

「報告は以上です」


 報告を終えた騎士は部屋を去っていく。
 ヴォルフが去っていく騎士を見送っていれば、領主が入れ替わるように入ってきた。


「いやぁ、計画を聞いたときにはどうなる事かとヒヤヒヤしましたが、無事に終わって何よりですな」

「ご協力ありがとうございました」

「いやいや、レナシリア殿下のご命令とあれば、従うのは当然の事ですよ」


 そう言って領主は朗らかに笑う。レナシリアは氷の王妃などと呼ばれる事から怖い、というイメージも強いがそうではない。確かに容赦のない所はあるが、何よりも国を、民を思っている。
 ここのように地方の領地の事にも気を配っており、領主のレナシリアへの信頼は厚い。だからこそ、宿を爆破しろなんて過激な事も容認したのだ。


「出発は予定通りですかな?」

「はい」

「そうですか…。もっとゆっくりしていって貰いたい所ですが、仕方ありませんな」


 残念そうに領主はそう言うと立ち去った。どうやら予定通りに出発するのか確認に来たらしい。
 ドロシー達の体調次第ではもう少し滞在することになるかもしれないが、今の所は朝出発する予定だ。
 報告も聞き終えたので、ヴォルフが部屋を出れば、タイミングよくレオンと鉢合わせた。


「やぁ、ヴォルフ。早いね」

「おはようございます。昨日の報告や護衛の指示がありましたので」

「そう」


 笑みを浮かべるレオンだが、何故か威圧感がある。目が全く笑っていない。
 機嫌があまり良くないようだ。


「あ!レオン殿下!おはようございます」

「おはよう。昨日は母の無茶な計画に付き合わせて悪かったね」

「いえ、そんな!」


 たまたま通りかかった騎士にレオンはいつもの穏やかな表情で話す。明らかにヴォルフと話している時とは違う。
 つまり、レオンが不機嫌な原因は自分にあるという事だ。しかし、その原因に思い当たらない。
 昨日の計画の事を黙っていた事かとも思ったが、昨日はそんな様子はなかったので違うだろう。


「それじゃあ、出発の準備を頼むね。あぁ、それと、ヴォルフは出発の前に私達の荷物を運び出してくれるかな」

「はい、承知いたしました」


 結局、原因わからないまま、レオンは立ち去ってしまった。ヴォルフは原因を考えるが、これといって思い当たらず、仕方なく一旦この事を頭から追い出す。
 今は出発に向けて仕事をしなければならない。ヴォルフは、騎士達に指示を出すために、その場から立ち去ったのだった。



            ◇




 出発の時間が近づき、ヴォルフはレオン達の部屋へと向かっていた。レオン達の荷物を馬車まで運び出すためだ。
 レフィーナが荷物を纏めているとアンに聞いていたヴォルフは、部屋に到着すると声をかける。


「レフィーナ、いるか?」


 声をかければ、中から物音がして、レフィーナが少々慌てたように扉を開けた。


「おはよう、レフィーナ」

「おはようござ……」


 そこまで言った所で、レフィーナがハッとしたように口をつぐむ。それから、わざとらしく咳払いをして、改めて口を開いた。


「おはよう、ヴォルフ」


 どうやら昨日の約束をギリギリで思い出したらしい。二人きりの時は呼び捨てと敬語なし。
 その約束を破れば、キスをするというもの。間違えてくれれば、キスをする口実が出来たのに、と少しヴォルフは残念に思う。


「…別に間違えても良かったのにな」


 キスが出来なくて残念なので、ヴォルフはわざとレフィーナの耳元でそう囁いた。そうすれば、レフィーナが耳を押さえて焦る。
 自分の事を意識しているレフィーナは可愛い。だから、つい意地悪をしてしまう。
 そんなヴォルフの心情など知りもしないレフィーナは、話題を変えるように声を出した。


「に、荷物を運んでくれる?」

「あぁ。…そういえば、レオン殿下の様子、おかしくなかったか?」

「え?」

「なんと言うか、笑いながら怒っているような…」


 ふと思い出した事をレフィーナに問う。そうすれば、レフィーナがヴォルフの言葉に肯定を示すように、コクコクと何度か首を縦に振った。
 そんなレフィーナを見て、ヴォルフはレオンが不機嫌な理由は自分だけでは無いということを知る。


「ドロシー様には普通だったけど、私には…ヴォルフが言ったみたいに、笑いながら怒っている雰囲気だったわ」

「レフィーナもか…。俺も同じだ。他の騎士達には普通だったんだが…」

「私達、レオン殿下を怒らせるような事をしたのかな…?」


 ヴォルフとレフィーナは腕を組んで考える。が、やはり二人共、心当たりはなく、結局は何も分からない。


「…とりあえず、馬車に向かうか。レオン殿下達を待たせたらまずいからな」


 出ない答えをいつまでも考えているわけにはいかないので、ヴォルフはそう言うとレフィーナが纏めた荷物をひょいと持ち上げた。
 それから、レフィーナを伴って馬車へと向かったのだった。
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