悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「もう少し警戒しろ」

「で、でも…レイ殿下はまだ子供ですし、甘えたかっただけですよ。さすがに8歳くらいの子と結婚できないですし」


 レフィーナの言葉にヴォルフは思わず深いため息をつく。甘えたかっただけでキスしたり、ヴォルフを敵視したりなどしない。間違いなくレイは一人の男としてレフィーナに好意を持っている。いくら子供とはいえ、多少は警戒というものをして欲しい。
 それに、レフィーナに好意を向けているのはレイだけでなく、騎士達の中にもそれなりにいるのだ。


「あ、あのヴォルフ様?」

「……とにかく、相手が誰であろうが無警戒なのは感心しない。良くないことを考えている奴も多いんだからな」

「…は、はぁ。…次からは気をつけます」


 真剣な表情で告げれば、レフィーナは素直に忠告を受け入れた。本当に分かっているのか、と問い詰めて、しっかりと分かるまで言い聞かせたいくらいだが、流石にこれ以上はレフィーナも鬱陶うっとうしいだろうと我慢する。

 それから、仕事に戻ると言ったレフィーナを、ヴォルフは仕事場まで送り届けたのだった。


 
            ♢



 レオンとドロシーの婚儀の日、当日。ヴォルフは婚儀が行われる大聖堂にいた。
 社交界用の豪華な騎士服を身にまとい、焦げ茶色の髪は全て後ろになでつけてある。大聖堂の壁際で警備にあたっており、ヴォルフと反対側には同じように社交界用の豪華な騎士服を、少々きつそうに着たザックが立っていた。
 大聖堂の中にはすでに賓客や王族がおり、婚儀の開始を待っている間、囁きのような話声が聞こえてくる。

 そんな話声も、大聖堂の中に鐘の音が響き渡るとしん、と静かになった。この鐘の音は婚儀開始の合図だ。
 その鐘が鳴り終わると、大聖堂中央の扉が大きく開かれ、主役の二人が入場してきた。それに合わせて、大聖堂に低く響く美しい音楽が奏でられる。

 金の装飾が目を引く白の婚礼衣装を身にまとったレオン。そして、そんなレオンの腕に手を添えるドロシーは真珠ような光沢のある純白のドレス姿だ。長いトレーンとレースのベールが赤い絨毯じゅうたんに映えて、賓客の女性達から感嘆のため息がこぼれる。
 大聖堂のステンドグラスから差し込む光が、きらきらと二人を祝福するように輝いて、まるで神が祝福しているかのようだ。

 それから、婚儀は厳かに執り行われ、沢山の祝福の中で終わりを迎えた。


「ヴォルフ、お疲れさん」

「アード、どうかしたのか?」


 大聖堂から出てきたヴォルフにアードが近寄ってきた。その顔が深刻そうで、ヴォルフは整った眉を寄せて問いかける。


「なんか侍女のメラファちゃんが、行方不明らしいんだ」

「…行方不明?」

「あぁ、一応手の空いた騎士で探したんだけど、見つからなくて」


 アードの言葉にヴォルフの表情がますます険しくなる。


「どうする?」

「…今日はあまり騎士をそっちに回す余裕は無いが…、手の空いた者は捜索を続けてくれ。それと、見回りの騎士には情報を伝えて、目撃した者がいないか確認を」

「はいよ!」

「俺も騎士団長もまだ仕事から離れられないから、頼んだぞ」


 ヴォルフの言葉にアードはしっかりと頷いて去って行った。
 しかし、こんな日に行方不明とは厄介だな、とヴォルフはため息をつく。何事もなく早く見つかることを祈りながら、ヴォルフはその場を後にする。

 それから、王族の護衛等の仕事を問題なくこなし、夜には大広間で開催されている舞踏会に参加していた。
 次から次へと挨拶に回るレオンに付いていれば、すっとザックが背後に現れる。


「ここはもう俺がやるから、少し休憩してこい」


 ザックの言葉にヴォルフは静かに頷いた。今日は朝からずっと気を張り詰めていたし、メラファの捜索も合間に指示を出していたので結構疲れた。まだこれからやる事もあるので、ザックの言葉に素直に従って一旦休憩することにした。


「では、後は頼みます。帰ってきたら交代しましょう」

「あぁ。まぁ、ゆっくり休んでこい」


 レオンにだけ一言声を掛けて、ヴォルフは賑やかな舞踏会の会場を後にする。会場から離れて外に出ると、疲れたように一つため息を吐き出す。

 メラファの事が気がかりで、あまり休憩する気分にはなれない。あれから結局、メラファの手がかりは何も無かったのだ。メラファはレフィーナと仲が良かった。今頃レフィーナはきっと心配しているだろうと思うと、ヴォルフの胸が締め付けられる。
 しかし、現状、手がかり一つも無いのではどうしようもなかった。

 もう一度、深く息を吐き出した所で、ヴォルフは不意に近くの茂みに何かの気配を感じて、すばやく剣の柄に手を添えた。


「…誰だ」


 低く唸るように問いかける。そうすれば、茂みがごそごそと音を立てて動き出す。
 茂みの動きは小さいので、どうやら人ではなさそうだ。しかし、一応警戒したままで金色の瞳を鋭く向ける。猫かなにかか…そう考えていれば茂みから小さな何かが飛び出してきて、思わず剣を抜いた。


「わぁ!待つのだ、ヴォルフ!」

「……はっ……?」


 剣を向けられて慌てたように声を出したのは、背中に透明な羽を持った…小さな妖精だった。瞬時に状況を飲み込めなかったヴォルフは、初めて見た妖精に思わず間抜けな声を上げたのだった。
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