悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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侍女から貰ったリナリアの花を持って詰所に帰れば、それを見たアードがすぐに駆け寄ってきた。


「ヴォルフには似合わない花だな」

「侍女の女性に突然渡されたんだ」

「えっ!?」


 少し困ったように言えば、アードが驚いたような声を上げた。何か知っている様子のアードに視線で説明をうながす。


「最近貴族の女性の間で花を贈るのが流行ってるんだけど、それじゃないか?」

「そんな事が流行っているのか」

「そうだよ。花言葉に想いを込めて気になる異性に渡すんだ」


 アードの言葉にヴォルフは可愛らしいリナリアの花に視線を移す。そういえば、あの侍女の頬は仄かに色づいていたな、とぼんやりと思い出した。

 ヴォルフはこの花をくれた侍女の事は知らないし、その想いに答えることも出来ない。知らなかったとはいえ、その気もないのに受け取ったのは間違いだったかと眉間に皺を寄せた。


「花の名前は分かるのか?」

「確かリナリア、だったか」

「リナリア…リナリア…」


 思い出すような仕草をするアードをその場に放置して、詰所に飾ってあった花の中に貰ったリナリアを加えた。この花たちは、王都での見回りの最中に助けた人からお礼に貰ったものだ。


「思い出した!確か…この恋に気付いて、だった!」

「そもそも…何でお前は花言葉なんて知ってるんだ」

「飲み屋のアリシアちゃんから聞いたんだよ。それにしてもこの恋に気付いて、なんて可愛らしいなー」

「…受け取るべきじゃなかったな」

「まぁ、花に無縁のヴォルフが花言葉に気付くなんてその子も思ってないだろうし、受け取って貰えるだけで嬉しかっただろうから良いんじゃないの。というか、気持ちに応える気はないのか!?」


 気持ちに応える。告白は何度かされたことはあるが、一度もその気になったことはなかった。今回もまた、同じだ。


「好きでもないのに付き合うことは出来ないし、相手に失礼だろう」

「そ、それはそうかもしれないけど…こう、可愛いなとか、触れたいなとか思わないのか!告白されて相手を意識するとか!」

「…特にないな」


 自分から触れたいだとか、自分のものにしたいだとか、そういったものを今まで感じた事はない。

 あぁ、でも、昨日の月明かりを反射した緋色は綺麗だったな、と思ってしまって、ヴォルフは少し動揺した。 
 そんなヴォルフに気付くこと無く隣に来たアードが、花瓶に生けられた赤色のポピーを指さした。


「因みにこれは、恋の予感」


 そう言って興味がなくなったのか、アードは去って行く。残されたヴォルフはポピーの花を、その金色の瞳に映す。


「恋の予感、か」

「今帰ったぞ!」

「騎士団長、詰所は家じゃないっすよー」


 ザックが帰ってきたことによって騒がしくなった詰所に、ヴォルフはポピーから視線を外して花瓶の前から移動した。いつものように豪快に笑っているザックのに近づくと、意識を仕事の事に戻す。


「騎士団長、今度の舞踏会での警備の割り振りだが…」

「ん?あぁ、そうだそうだ、お前の考えた配置で大丈夫だ」

「分かりました」


 近い内に城で舞踏会が開かれる。その警備配置等を考えるのもヴォルフの仕事の一つだ。
 噂ではその舞踏会でレオンとドロシーの婚約が発表されるらしい。ヴォルフもこの舞踏会にはレオンの警護として参加する。当日の流れを組みながら、ヴォルフは自身の執務机に向かう。


「そうそうヴォルフ、王妃殿下が面白いこと言ってたぞ」

「何をですか」


 王都の見回りの報告書に目を通しながら、一応ザックに返事をする。面白い事と言っているので、侍女長の件ではないだろう。


「レオン殿下とドロシー嬢の婚約を正式に発表したら、あのお嬢ちゃんを結婚後からドロシー嬢専属の侍女に任命するらしいぞ。まぁ、あのお嬢ちゃんと話をしてみてかららしいがな」


 あのお嬢ちゃんというのは、おそらくレフィーナだ。思わず書類からザックに視線を移せば、ザックの笑った顔が見えた。


「お嬢ちゃんの事が気になるのか?」

「…いえ。ただ、それはレオン殿下が反対するのでは、と思って」


 レフィーナの事をすっかり嫌いになっているレオンを思い浮かべ、ザックの言葉を否定する。昨日からザックの中では、レフィーナと恋仲ということになっているのだろう。もちろん事実は違うのだが、こうなったザックは人の話を聞かないから早々に諦めた。言いふらすタイプではないし、そのうち誤解が解けるか、忘れるだろう、というのも早々に諦めた原因だ。


「レオン殿下は嫌がっているようだが、王妃殿下の意思は変えられんだろうなー」

「…そうですね」


 国王よりも実権を握っているんじゃないか、と時々考えてしまうようなレナシリア相手に、レオンでは少々意見を通すのは難しそうだ。というかそもそもレナシリアを丸め込めるような人間などいないような気がする。


「だから、お嬢ちゃんが専属になるのは決まったようなものだが、大出世になるなぁ」


 見習い侍女から王太子妃専属侍女。確かに大出世だな、と考えながら、ヴォルフは視線を書類へと移す。
 それからはザックの雑談に適当に相槌を打ちながら、ヴォルフは仕事に取り組んだのだった。
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