11 / 97
11
しおりを挟む「なー、今日からなんだろっ?あの毒花様が城に来るの!」
騎士の詰所で剣の手入れをしていたヴォルフに、アードが興奮した様子で駆け寄ってきて声をかけた。
あの舞踏会の数日後、正式にレオンとレフィーナの婚約は破棄された。そして、レフィーナは公爵家からも追い出され、城で侍女をする事になっている。
本来ならばレフィーナのように貴族として相応しくない行いをし身分を剥奪された者は、この国の辺境にあるダンデルシア家へと送られて、厳しい環境で使用人として働かされるはずだった。現にヴォルフが城に来てからも、数人はそのような処罰を与えられるのを見ている。だが、何故かレフィーナはダンデルシア家送りではなく、城で侍女をするように申し渡されいた。
「いいなぁ、ヴォルフが案内なんだろー?」
「…別にやりたくてする訳じゃない」
誰が好き好んで嫌いな女の案内を進んでやるものか、とヴォルフはため息をついた。レフィーナの案内はザックに命令された事だ。
ヴォルフはレフィーナの事を思い出して、複雑そうな表情を浮かべる。
母親とは違うのに、母親と同じような目をするから、つい重ねてしまう。重ねれば、母親から受けた暴力などを思い出して気持ち悪くなる。そうなれば、元からの悪い印象と相まってレフィーナの事が誰よりも嫌いになった。
だから、正直ダンデルシア家送りになって、二度と姿を見ることがない方が、ヴォルフにとっては良かったのだ。
「ヴォルフは本当に女性に興味ないんだなー。顔いいのに勿体ない」
「…興味の前に、あいつが嫌いなだけだ」
「ふーん。じゃあさ、ヴォルフは誰か気になる子とかいるのか?」
目をキラキラとさせるアードにヴォルフは、手入れの終わった剣を突きつけた。
「働け」
「あ、はい」
ぎろりと金色の瞳に睨まれて、アードは両手を上げて素直にそう返した。それから、何やらぶつくさ言いながらも、仕事に戻っていく。
ヴォルフは手入れの終わった剣を鞘に収めて、腰を上げた。もうそろそろレフィーナが到着するだろうから、外に出ておこうと思ったのだ。ヴォルフが鞘に収めた剣を腰に下げた所で、大きな音を立てて詰所の扉が開かれた。
「副騎士団長ー!れ、例のー!」
真っ青な顔で現れた騎士の言葉にヴォルフの口から思わずため息がこぼれ落ちた。
「報告は短く、分かりやすくしろ」
「あ、すみません…。じゃなくて!」
「レフィーナ嬢が到着したんだろ」
「あ、そうです」
「俺が行くから、お前は持ち場に戻れ」
恐らく「毒花」と呼ばれていたレフィーナを怖がっているであろう新人の騎士に、ヴォルフはそう指示を出すとレフィーナの元へと向かう。
すぐに見えた亜麻色の髪に、ヴォルフの顔が歪む。そして、まだこちらに気付いていない様子のレフィーナに声をかけた。
「これはこれは、レフィーナ=アイフェルリア様」
ようやくこちらに気づいたレフィーナが、ヴォルフの方へ顔を向けた。
緋色の瞳と視線が絡まって、ヴォルフは自然と身構える。会うたびに嫌みな言葉と態度をしてくるのだから、今回も何か言うだろうと思ったのだ。
しかし、そんなヴォルフの予想は見事に裏切られる事になる。
「ヴォルフ様。今は家名も名乗れないただのレフィーナでございます。身分も副騎士団長様の方が上ですので、その様に扱ってくださいませ」
そう言ってあのレフィーナが、何の躊躇いもなく頭を下げたのだ。
そんなレフィーナにヴォルフは思わず口を半開きにしてポカン、としてしまった。
顔を見れば見下した目で見てきて、挨拶のように嫌みを言う。そんなレフィーナが、ヴォルフに向かって頭を下げたのだ。頭を上げたレフィーナの緋色の瞳と再び目があって、レフィーナはにっこりと笑みを浮かべた。
「門を通ってもよろしいでしょうか?」
レフィーナの言葉にヴォルフははっとして、今度は疑うような視線を向けた。
舞踏会で会うレフィーナと目の前のレフィーナ。まるで別人だ。
「………お前、本当にあのレフィーナ嬢か?まさか、偽物じゃないだろうな」
「あら、副騎士団長様は私ほどの令嬢が他にもいるとでも?このレフィーナ、そんな方は見たことありませんわ。だって、私が一番美しいですもの」
ヴォルフの疑うかのような言葉に、目の前のレフィーナの雰囲気が変わる。そして、つんと顎を上げて自信満々に言われた言葉に、ヴォルフは嫌な物を見たというような表情を浮かべた。
間違いなく、あのレフィーナだ。大方、猫をかぶって反省しているように見せようとしたのだろう。そんな風に考えて、ヴォルフは表情を歪ませたまま言葉を吐き出した。
「この、猫かぶりが」
「信じて頂けないようでしたので」
「ふんっ、せいぜい侍女長にイビられ、針のむしろのような場所で改心することだな」
「ご忠告痛み入ります」
ヴォルフの言葉に怒る事もなく、レフィーナはペコリと頭を下げた。そして城内へと入っていくレフィーナに、ヴォルフはもやもやする気持ちを抱えながら後を追った。
6
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします
紫
恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。
王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい?
つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!?
そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。
報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。
王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。
2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……)
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる