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「…って何でついてくるんですか」
すぐにレフィーナに追いつけば、緋色の瞳がヴォルフに向けられ、そう言われた。その問いにヴォルフは隣に並んで歩きながら答える。
「不本意ながらお前の案内を任されているからな。不本意ながら」
「…わざわざ二回も不本意って言わなくてもいい気がするけど…」
「何か言ったか?」
「いえ、何も言っておりませんが?」
嫌なことを隠しもせずに言えば、レフィーナが何事かを小さく呟いた。それが聞き取れなくて聞き返せば、レフィーナがにっこり笑って誤魔化したので、ヴォルフはそれ以上追求はせずに口を閉ざした。
そこからは特にお互いに話すこともなく、無言で歩き続ける。そんな中でヴォルフは気づかれないようにレフィーナに視線を向けた。
すれ違う使用人や騎士達がレフィーナに向ける視線は決して良いものではない。そんな視線に気づいているはずのレフィーナは特に気にしていないように見える。令嬢だった頃なら、そんな視線には睨み返しているだろうに。
今のレフィーナは睨むどころか、そんな視線を向けられるのは当然だ、とでもいった様子だ。
やはり、令嬢の時とは全く違う。そんな事を考えていれば、いつの間にか侍女長のいる部屋にたどり着いていた。
「侍女長。レフィーナ嬢をお連れしました」
ノックと共にそう声を掛ければ、やや間があってから返事が聞こえた。ヴォルフは扉を開けると、レフィーナを押し込むようにその背を押して部屋に入れる。それからバタンと扉を閉めるとその場を後にして、詰所へと戻った。
詰所に入れば、見回りから帰って来たらしいザックがヴォルフを見て、ニカッと笑みを浮かべた。
「ご苦労さん」
「騎士団長もお疲れ様です」
「お嬢ちゃんの様子はどうだった?」
ザックの問いに詰所の中が静かになる。どうやら皆、レフィーナの事が気になるようだ。それにヴォルフはため息をついた。
「別に何ともなさそうでした」
「そうか!今日から同じ城で働く仲間だからな、気になったんだ!何ともなさそうなら良かった」
本当にそう思っているのだろう。ザックはカラリとした笑みを浮かべている。
あのレフィーナをそんなふうにいうのはザックくらいだ。
ヴォルフは詰所の奥にある自分の机に向かう。詰所は入り口から左右に三つずつ六人掛けのテーブルが置かれており、その奥にザックとヴォルフの執務机がある。
席に着くと、ヴォルフは机に置いてある書類に目を通し始めたのだった。
♢
ヴォルフがふと目の前に人の気配を感じて書類から視線を上げれば、アードを始めとした同期の騎士達数人が立っていた。
「ヴォルフ、昼飯行こうぜ!」
アードの言葉に、あぁもうそんな時間か、とヴォルフは目を通し終えた書類にサラサラとサインして、立ち上がった。そして、誘ってくれたアード達と共に食堂へと足を運ぶ。
いつものようにカウンターから昼食の乗ったトレイを受け取り、空いてる席に座る。アード達と会話をしながら昼食の焼き魚を口に運んでいれば、そわそわとした様子の同期騎士の一人が話しかけてきた。
「ヴォルフ、今日、例のお嬢様来たんだろう?」
「あぁ」
「どうだった?毒花様は!」
この事を聞きたかったのか、とヴォルフは眉間に皺を寄せた。令嬢の時とは様子が違ったが、それでもヴォルフがレフィーナの事を嫌いのことには変わりない。仕事で忘れていた事を掘り起こされて、少し不機嫌になりながら素っ気無く話す。
「別に」
「なんだよ!そっけないなー、同期だろ教えろよー」
こういうときのアードや同期の騎士達は面倒くさい。長年一緒に居る分、少々ヴォルフの機嫌が悪くなっても気にしないのだ。
「そんなの知ってどうするんだ。あんな女、ろくでもないぞ」
「令嬢から侍女に身分の落ちた可哀想な女を慰めてやるのが、騎士ってもんだろー」
「慰めがいるような女じゃないだろ。大体、自業自得だ」
「冷たい男だなぁ」
「嫌いなやつなんてどうなろうと関係ないからな。あんな性格の悪い女なんて…」
そこまで言った所で、真後ろの席からバン!とテーブルが強く叩かれる音がして、ヴォルフは口を閉じた。騒がしかった食堂の中が静まり返る。
「よく知りもしないで…、勝手なことばかり言わないでください…!」
振り返れば一人の侍女が怒りで眉尻を釣り上げて、こちらを睨んでいた。そこでその隣にレフィーナが居ることに気付いた。
「レフィーナさんは…そんな…人じゃない」
絞り出すように言った侍女の言葉に、ヴォルフは口を開く。
「…何が違うっていうんだ?ドロシー嬢に暴言を吐いていたのは事実だ」
「でもっ、私の知るレフィーナさんは違います!」
「メラファさん。ヴォルフ様の言う通りです。事実は事実。…怒ってくれてありがとう。でも…」
レフィーナが怒りで肩を震わせる侍女メラファの手にそっと自身の手を添えて、ヴォルフの聞いた事のない柔らかな声で宥めるようにそう声をかける。
「何事ですかっ!!」
しかし、レフィーナが最後まで言い終わる前に別の声が食堂に響いたのだった。
すぐにレフィーナに追いつけば、緋色の瞳がヴォルフに向けられ、そう言われた。その問いにヴォルフは隣に並んで歩きながら答える。
「不本意ながらお前の案内を任されているからな。不本意ながら」
「…わざわざ二回も不本意って言わなくてもいい気がするけど…」
「何か言ったか?」
「いえ、何も言っておりませんが?」
嫌なことを隠しもせずに言えば、レフィーナが何事かを小さく呟いた。それが聞き取れなくて聞き返せば、レフィーナがにっこり笑って誤魔化したので、ヴォルフはそれ以上追求はせずに口を閉ざした。
そこからは特にお互いに話すこともなく、無言で歩き続ける。そんな中でヴォルフは気づかれないようにレフィーナに視線を向けた。
すれ違う使用人や騎士達がレフィーナに向ける視線は決して良いものではない。そんな視線に気づいているはずのレフィーナは特に気にしていないように見える。令嬢だった頃なら、そんな視線には睨み返しているだろうに。
今のレフィーナは睨むどころか、そんな視線を向けられるのは当然だ、とでもいった様子だ。
やはり、令嬢の時とは全く違う。そんな事を考えていれば、いつの間にか侍女長のいる部屋にたどり着いていた。
「侍女長。レフィーナ嬢をお連れしました」
ノックと共にそう声を掛ければ、やや間があってから返事が聞こえた。ヴォルフは扉を開けると、レフィーナを押し込むようにその背を押して部屋に入れる。それからバタンと扉を閉めるとその場を後にして、詰所へと戻った。
詰所に入れば、見回りから帰って来たらしいザックがヴォルフを見て、ニカッと笑みを浮かべた。
「ご苦労さん」
「騎士団長もお疲れ様です」
「お嬢ちゃんの様子はどうだった?」
ザックの問いに詰所の中が静かになる。どうやら皆、レフィーナの事が気になるようだ。それにヴォルフはため息をついた。
「別に何ともなさそうでした」
「そうか!今日から同じ城で働く仲間だからな、気になったんだ!何ともなさそうなら良かった」
本当にそう思っているのだろう。ザックはカラリとした笑みを浮かべている。
あのレフィーナをそんなふうにいうのはザックくらいだ。
ヴォルフは詰所の奥にある自分の机に向かう。詰所は入り口から左右に三つずつ六人掛けのテーブルが置かれており、その奥にザックとヴォルフの執務机がある。
席に着くと、ヴォルフは机に置いてある書類に目を通し始めたのだった。
♢
ヴォルフがふと目の前に人の気配を感じて書類から視線を上げれば、アードを始めとした同期の騎士達数人が立っていた。
「ヴォルフ、昼飯行こうぜ!」
アードの言葉に、あぁもうそんな時間か、とヴォルフは目を通し終えた書類にサラサラとサインして、立ち上がった。そして、誘ってくれたアード達と共に食堂へと足を運ぶ。
いつものようにカウンターから昼食の乗ったトレイを受け取り、空いてる席に座る。アード達と会話をしながら昼食の焼き魚を口に運んでいれば、そわそわとした様子の同期騎士の一人が話しかけてきた。
「ヴォルフ、今日、例のお嬢様来たんだろう?」
「あぁ」
「どうだった?毒花様は!」
この事を聞きたかったのか、とヴォルフは眉間に皺を寄せた。令嬢の時とは様子が違ったが、それでもヴォルフがレフィーナの事を嫌いのことには変わりない。仕事で忘れていた事を掘り起こされて、少し不機嫌になりながら素っ気無く話す。
「別に」
「なんだよ!そっけないなー、同期だろ教えろよー」
こういうときのアードや同期の騎士達は面倒くさい。長年一緒に居る分、少々ヴォルフの機嫌が悪くなっても気にしないのだ。
「そんなの知ってどうするんだ。あんな女、ろくでもないぞ」
「令嬢から侍女に身分の落ちた可哀想な女を慰めてやるのが、騎士ってもんだろー」
「慰めがいるような女じゃないだろ。大体、自業自得だ」
「冷たい男だなぁ」
「嫌いなやつなんてどうなろうと関係ないからな。あんな性格の悪い女なんて…」
そこまで言った所で、真後ろの席からバン!とテーブルが強く叩かれる音がして、ヴォルフは口を閉じた。騒がしかった食堂の中が静まり返る。
「よく知りもしないで…、勝手なことばかり言わないでください…!」
振り返れば一人の侍女が怒りで眉尻を釣り上げて、こちらを睨んでいた。そこでその隣にレフィーナが居ることに気付いた。
「レフィーナさんは…そんな…人じゃない」
絞り出すように言った侍女の言葉に、ヴォルフは口を開く。
「…何が違うっていうんだ?ドロシー嬢に暴言を吐いていたのは事実だ」
「でもっ、私の知るレフィーナさんは違います!」
「メラファさん。ヴォルフ様の言う通りです。事実は事実。…怒ってくれてありがとう。でも…」
レフィーナが怒りで肩を震わせる侍女メラファの手にそっと自身の手を添えて、ヴォルフの聞いた事のない柔らかな声で宥めるようにそう声をかける。
「何事ですかっ!!」
しかし、レフィーナが最後まで言い終わる前に別の声が食堂に響いたのだった。
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