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しおりを挟む「…父親?」
口元に運んだ肉を口に入れる直前でピタリと止めて、ヴォルフは正面に座るザックに金色の瞳を向けた。
ヴォルフが声を出せるようになって数日後、共に朝食を取っている時に、急にザックが父親の事を聞いてきたのだ。
ヴォルフは止まっていた手を動かして、肉を口に入れると、咀嚼しながら首を傾げる。
今さらそんな事を聞いてどうするのだろうか。
「あぁ、何にも知らんのか?」
「…知っているのは…母親と自分がプリローダの出身だっていう事くらいだ。…だから、多分父親もプリローダにいる、と思う」
「プリローダか…。そうか!いきなり聞いて悪かったな!」
にかっと笑ったザックは残った食事をあっという間に平らげて、先に食堂から出ていった。
残されたヴォルフは首をそんなザックに首を傾げながらも、たいして気にすることなく食事を続けたのだった。
◊
ザックに父親の事を聞かれてからさらに数日後。
何故だかヴォルフはザックと共に馬車に揺られてプリローダに向かっていた。
「ちょうど、国王陛下から大切な書類をプリローダに届けるように指示が出ててな!ほんとは団長が行く予定だったんだが、代わってもらったんだ!」
「…それで、どうして俺まで?」
ヴォルフはザックに保護されている身であって、城の人間ですらない。なのに何故、と思っていればザックがにかっと笑みを浮かべた。
「プリローダでついでにお前の父親を探そうと思ってな!任務と休暇を合わせて数週間くらいは滞在出来る!」
「父親、を…」
正直、ヴォルフには今さら父親なんてどうでもいい。だが、せっかくザックが言い出してくれたので否定や拒否はしなかった。
それに、顔も名前もわからない人物を探しだす事は不可能だろうとも分かっていたからだ。
ただ、何故ザックが父親を探そうと思ったのかが気になる。…もしかして、父親を探しだしてヴォルフを城から出そうというのだろうか。
あと2ヶ月程でヴォルフが城に来てから一年経つ。そして、16歳になる。今さら父親を探しださなくても、もう城には居られなくなるのに。
ザックを慕っているヴォルフの胸にちくり、と小さなトゲが刺さる。
「さぁ!張り切って探そうな!」
「…あぁ」
やる気に満ち溢れているザックに訳を聞く事もできず、ヴォルフの父親探しは始まった。
だが、やはりそう簡単に手掛かりが見つかる筈もなく、数週間はあっという間に過ぎ去っていった。
もうプリローダを出発しなければならない。
そんな父親探しの最終日はやはり、何の手掛かりも見つからなかった。
「あー、やっぱり無理だったか!」
人がいない小さな公園のベンチにどかりと腰を下ろしたザックは、背もたれに逞しい背を預けながら、からりと笑った。
ヴォルフはベンチには座らず、ザックの正面に立ったまま、そんなザックを見ていた。
「…どうして、そんなに必死に俺の父親を探してくれたんだ…?」
答えを聞くのを躊躇って問わなかった事を、父親探しの終わった今、静かに聞いた。
「…もうすぐお前は成人だろう?そんな大切な祝い事に父親くらい居てやって欲しいと思ったんだがな…」
「そんな事…」
胸がじわりと温かくなる。ザックはヴォルフの為に、探していてくれた。追い出す為ではなく、ヴォルフを祝う為に。
残念そうな、悔しそうな顔をしているザックに、ヴォルフはふっと口元を緩めた。
…父親に祝ってほしいなんて思っていない。会いたいとも思わない。それに、ザックは自分にとって──…。
「必要ない。俺には…貴方のような父親が、いる。……その背中を追いかけたい。そう…思えるような立派な父親が」
ザックは自分の事をそんな風には思っていないかもしれない。だけど、この1年近く、一緒に過ごす内にヴォルフに取ってザックは父親のような存在になっていた。
明るくて豪快で強くて、多くの騎士達に慕われていて。そんなザックはヴォルフにとって格好いい騎士だった。
──そして、そんな騎士に、ヴォルフもなりたいと思ったのだ。
「ザック。俺は…16歳になったら、騎士団に入団しようと思っている。貴方のように、今度は守れる騎士に、なりたい」
真っ直ぐに告げられた言葉に、ザックはその目に涙を滲ませる。
ザックにとってもいつしかヴォルフは自分の息子のような存在になっていた。そんな息子が、自分のようになりたいと言ってくれるのは胸が苦しくなるくらい嬉しい事だった。
滲んだ涙をぐいっと拭ったザックが立ち上がる。
「はっはっ!なら、俺がみっちり鍛えて、立派な騎士にしてやらないとな!」
「…いや、鍛えるのは別の人がいい」
「こいつ!あっはっはっ!帰るか、ヴォルフ!俺達の城に!」
「あぁ」
お互いに笑い声を上げながら、並んで歩きだす。
ヴォルフは隣を歩く熊のように大きなザックを見上げて、温かい気持ちに満たされる。
そして、どこかぼんやりと家族への憧れを抱いた。
──いつか、自分も誰かと…こんな風に温かい家族を作りたい。
そんな小さな思いは、きっと母親を本当に過去の物に出来た時に、叶うのだろう。
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