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2巻
2-3
しおりを挟む「……実は、ベルグからヴォルフ様のお父様がこのプリローダの貴族の中にいることを聞いていて……。アングイス伯爵と話して確信を持ちました。それに、外見もヴォルフ様に似ていましたし」
「ベルグ……裏稼業の奴か。その伯爵が俺に……似ていた……?」
ヴォルフはアングイスが父親だということも、プリローダの貴族だということも知らないようだ。
「……その伯爵がどうして、俺じゃなくてレフィーナに声をかけたんだ。なんて言われた」
「それは、その、ヴォルフ様は自分のもとに来るから私はヴォルフ様の恋人に相応しくない、と。貴族でなくなった私では相応しくない……」
レフィーナの言葉を、ヴォルフは口端を歪ませて笑い飛ばす。
「……はっ。その伯爵は、俺が貴族になると思っているんだな。会ったこともないのに」
「ヴォルフ様は……お父様のところへ行きたいとは思わないのですか? たった一人の、血の繋がった家族と一緒にいたいとは……」
レフィーナとして生まれ変わったとき、妹の空音に会いたくて仕方なかった。
ヴォルフは母親と上手くいっていなかったからこそ、父親に焦がれたりしないのだろうか。そう考え、彼の顔を窺う。
ヴォルフは無表情だった。いや、どちらかというと、怒りを無理やり抑え込んでいる表情と言った方が正しいかもしれない。
「血の繋がった家族だろうが、父親だろうが、今さらどうとも思わない。それに、俺に会うより先にレフィーナに会って、身を引かせようとしたことを考えると……ろくでもない奴だろうな」
「ヴォルフ様……でも……」
「レフィーナ、血の繋がりだけが大切じゃないだろう。俺は貴族になんてならないし、その伯爵を父親とも家族とも思わない。それに家族なら……これからだってできるだろう」
「え?」
突然、ヴォルフに手を握られてレフィーナはポカンとしたが、やがて言葉の意味を理解した。顔が一気に熱くなる。
『家族ならこれからだってできる』
その言葉でヴォルフが、自分との未来を考えていることに、気がついたのだ。
「だから、その伯爵のことは気にしなくていい。俺は何があってもお前を選ぶから、信じろ」
「……はい」
真っ直ぐな言葉と揺るぎない金色の瞳に、レフィーナは安心して頷くことができた。
ヴォルフを信じて話してよかった、と彼女は口元を緩ませる。
「……俺の気持ちを信じて話してくれてありがとう、レフィーナ」
「え?」
「黙って身を引きそうなお前が、こうして俺に話してくれたのは、俺の気持ちを信じてくれたんだろう? 俺が貴族になることよりも、お前の側にいることを選ぶって」
「……それだけではないです。私がヴォルフ様に直接言われるまでは、身を引きたくなかったんです。私はヴォルフ様のことが好きですから」
レフィーナは少し照れながら、ふわりと笑みを浮かべる。
ヴォルフが好きでいてくれるから。彼を好きでいるから。
だからこそ、レフィーナはアングイスに従うつもりはなかったし、こうしてちゃんと伝えることもできた。
「……っ!」
ヴォルフが口を片手で押さえて、勢いよく顔を横に逸らした。
その様子にレフィーナは首を傾げる。
「ヴォルフ様?」
「……あんまり、可愛いことを言うな」
「え?」
「……場所なんて考えずに抱き締めたくなるだろ……」
ボソリと呟かれたヴォルフの言葉に、レフィーナはかちんと固まる。顔を横に逸らしている彼の耳は、ほんのりと赤い。
「こんな場所でいちゃつかないでほしいね。ヴォルフ、レフィーナ」
「レ、レオン殿下!」
突然聞こえたレオンの声に、レフィーナはがたりと椅子から立ち上がる。
声のした方を見ると、呆れ顔のレオンと笑みを浮かべたドロシーが立っていた。
「招待されているのだから、一曲くらいは踊ったらどうだい?」
レオンの言葉にヴォルフが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。どうやらダンスは苦手らしい。
しかし、レオンの命令では断れないのか、仕方なさそうにレフィーナに手を差し出す。
「一曲だけ、踊ろう」
「はい」
レフィーナは差し出された手を取り、並んで歩き出す。するとヴォルフが囁いた。
「……明日はお互いの話していないことを話したい。いいか?」
「はい、もちろんです」
レフィーナは笑みを浮かべてしっかりと頷く。
そして、二人は貴族たちに交じると、曲に合わせてゆっくりと踊り始めたのだった。
◇
舞踏会の翌日。
レフィーナは約束通り休みをもらい、ドロシーに挨拶をしてから、ヴォルフとの待ち合わせ場所である城門に向かっていた。
張り切ったアンに舞踏会のとき同様、化粧を施されてちょっと疲れぎみだ。
「レフィーナ、おはよう」
楽しそうなアンの様子を思い出していると、いつの間にか城門に到着していた。
聞き慣れた声にレフィーナはそちらに視線を移す。先に着いて待っていたらしいヴォルフが片手を上げた。いつもの騎士服ではなくラフなシャツ姿だ。
「おはようございます、ヴォルフ様。お待たせしてしまいましたか?」
レフィーナが駆け寄ると、ヴォルフがぐっと眉を寄せた。
一瞬にして不機嫌そうな表情になった彼に、視線をさ迷わせつつ理由を考える。そして、すぐに理由に思い当たったレフィーナは、再び口を開いた。
「えっと……、おはよう、ヴォルフ」
昨日の舞踏会では公の場なので、敬語と敬称で話していた。そちらの方が慣れていたため、今朝もついいつも通りに話してしまったのだ。
どうやら不機嫌になった理由は正解だったようで、敬語も敬称もやめて話すと、ヴォルフはふっと口元を緩めた。
「油断するとすぐに元に戻るな」
「……そっちの方が慣れてるから……つい……」
「まぁ、これから沢山話せば、そのうちに慣れるだろ」
「そうね……」
「……さて、順番がおかしくなったが、誕生日おめでとう、レフィーナ」
ヴォルフがレフィーナの右手を取り軽くキスを落として、ふわりと笑う。
優しげな金色の瞳と目が合うとレフィーナの頬が熱くなった。
ヴォルフは元々顔立ちが整っている上に、優しく笑うと、いつもは鋭い金色の瞳が柔らかくなる。それだけでもドキリとするのに、あんな風にされたらレフィーナでなくても顔を赤くするだろう。
「あ、ありがとう……」
「ふっ、顔が赤いな」
「ヴォルフにあんなことされたら、誰でも顔を赤くするわ」
「でも、俺が触れるのはレフィーナだけだ。だから、これから顔を赤くするのもレフィーナだけだな」
「……っ」
甘い瞳で見つめられて、レフィーナはふいっと顔を背けた。
そこで初めて周りの様子が目に入ってきて、ひくりと口元を引きつらせる。それなりに出入りがある城門で二人はかなり目立っていたのか、通り過ぎる人々がにこにこと笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「も、もう行こう!」
「レフィーナ?」
レフィーナは見られていたことが恥ずかしくなって、ヴォルフの手を取ると、城門から逃げるように街へと向かったのだった。
◇
「はぁはぁ……」
「大丈夫か、レフィーナ」
足の長さの違いか、はたまた鍛練の差なのか……街に着いた頃には、レフィーナだけが息を荒くしていた。ヴォルフは涼しい顔をしている。
「だ、大丈夫よ。……恥ずかしかったから、その……」
人前であんな甘い言葉と瞳を向けないでほしい、とレフィーナが続けるより先に、ヴォルフの大きな手が彼女の亜麻色の髪を優しく撫でた。
「俺はお前と二人でいるときは……恋人としているときは、甘やかしたくなるんだ」
「……え……?」
まだ握ったままだった手が一度離れると、今度はヴォルフのしなやかな指が、レフィーナの細い指に絡まった。恋人繋ぎになった手にドキリとすると、ヴォルフがふっと口元を緩める。
「お前は……今まで妹の幸せのために頑張ってきたんだろう? 知らない世界で、別の外見で……一人で全部背負ってやり遂げた。いつだって頑張っていたお前を、俺は甘やかしたい」
「妹は……ソラは私の大切な家族だから、姉として当然のことをしただけよ」
「それでも、そこまでできる人間は少ないと思うぞ」
こうして面と向かって褒められると少し恥ずかしい。
レフィーナは頬に熱が集まるのを感じた。そんな彼女を見るヴォルフの目は優しい色を宿している。
花の国と呼ばれるプリローダに相応しく、花でいっぱいの美しい街を、二人は手を繋いだまま歩き始めた。
「なあ、お前が思い出すのが辛くなければ……雪乃だった頃の話を聞かせてくれないか? あちらの世界のことや家族のことが聞きたい。それに、レフィーナになってからのことも……」
「思い出すのは辛くないわ。もう一度、ソラに会えて、ちゃんと気持ちの整理をつけたから。……雪乃はもう過去のことで、今はレフィーナとして生きているもの」
「そうか……」
「まずは……そうね、雪乃のときは、両親はいなくて、ソラと一緒に祖母に育ててもらったわ。祖母が亡くなってからは、ソラと二人で生活してた。こちらの世界とは違って恋愛も労働も割りと自由な世界だったから、こちらより生活はしやすかったわね」
レフィーナは緋色の瞳を細め、懐かしさを感じながらゆっくりと話し始める。
高校を卒業して少しした頃に祖母が亡くなった。幸いにも雪乃は就職していたし、祖母の遺産もあったので生活に困ることはなかった。
それに、可愛い妹である空音が側にいたから、雪乃は幸せに暮らせていたのだ。
……空音が交通事故に遭うそのときまでは。
「幸せだった。……だけど……ソラが、事故に遭ってしまった……」
病室で眠る空音を見たときの感情は、今でも鮮明に思い出せる。大切な妹を失うかもしれない恐怖や絶望は、もう二度と味わいたくない。
ただただ祈ることしかできなかった雪乃は無力で、もしアレルが来なかったらと考えると、今でも指先が震える。
そんなレフィーナの震えを感じ取ったのか、ヴォルフが繋いでいる手をぎゅっと強く握った。
「……向こうはこの世界よりも医療が進歩しているけど、それでもソラを……助けることができなかった」
「レフィーナ……」
「でも、私は幸運だった。自分では分からないけど、この特殊な魂があったから、神様は私と引き換えにソラを助けてくれた。……あのときは自分のこれからのことなんて考えてなかったわね」
ヴォルフが握り締めてくれたおかげで震えも止まり、レフィーナは笑みを浮かべる。
「その後はヴォルフも知っての通り、この世界にレフィーナとして転生したの。さすがに赤ちゃんなのに意識がはっきりしてたのはびっくりしたわ」
「へぇ。そんなときから雪乃としての意識がはっきりしてたんだな」
「ええ。……公爵家にいたときは、どうして赤ちゃんのときから記憶がはっきりしているんだろう、ってちょっと神様を恨んだわ」
二十二歳の雪乃が赤ちゃんのときからしっかり存在していたから、中々大変だった。何回、物心つく頃に記憶を戻すのでは駄目なのかと思ったことか。
でも、レフィーナとして生きる今はその理由がなんとなく分かっていた。
「あのときは私の……雪乃の家族はソラだけで、レフィーナの家族は他人。そう思っていたから……」
「今は違うのか?」
「……ええ。あのとき、私の意識がはっきりしていたのはきっと、神様は私に知っていて欲しかったんだと思う。……レフィーナが……私がたしかに望まれて、愛されて生まれてきたってことを」
生まれてから初めて目を開けたとき、最初に見えたのは母の優しい緋色の瞳だった。
歩き始めた頃、転んで泣いていたレフィーナを抱き上げてあやしてくれたのは、少し不器用な父だった。
それらは雪乃のときは知らなかったもの。そして、レフィーナとして与えられたもの。
「神様はきっと……私がこの世界で一人ではないって教えてくれていた。まぁ、全然そんなの気づいていなかったのだけど」
「……両親には会いたいか? それにたしか兄もいたな」
「……公爵家を追い出されたときはなんとも思っていなかったけど、今はちゃんと家族って思える。だから、そうね……会えるなら会いたい、かな。もちろん、兄にもね」
兄は公爵家の跡取りとしての教育が厳しく、あまり二人で遊んだ記憶はない。だが、雪乃が空音を愛したのと同じように、妹であるレフィーナを愛していてくれる気がした。
本当に公爵令嬢のときは他人事だったのだと、改めて実感する。
今は他人としてしか会えないが、できれば娘として公爵家に相応しくない行いをしてしまったことを一度謝りたいと、最近は考えている。
「そうか。いつか、ちゃんと会えるといいな」
「……ええ。ちゃんと謝って、家には戻れないだろうけど……許してもらえたら嬉しいわ」
身分を剥奪されたレフィーナは身分が回復しない限り、公爵家を訪ねることもできない。両親や兄に会うためには、公爵家から呼び出しを受けるか、城に来たときに会えるのを待つしかないだろう。
それでも、いつかきちんと話せるといいな、とレフィーナは口元を緩めた。
「えっと、私の話はこれくらいかな。何か聞きたいこととかある?」
「そうだな……この世界と向こうの世界で共通するものとかあるのか?」
「ヴィーシニアの味噌や醤油!」
レフィーナは目をきらきらさせながら即答した。
和食があったのはかなり嬉しかったので、真っ先に思い浮かんだのだ。
「くくっ……。即答で食いもの関係なところが……」
「わ、笑わないでよ……。あれは本当に嬉しかったんだから」
片手で口を押さえて笑うヴォルフに、レフィーナは少しむっとする。
侍女になってやっと食べられて、どれだけ嬉しかったことか。まあ、それもあの恰幅のいい元侍女長のせいでぶち壊しになったのだが。
「笑って悪かったな」
ヴォルフにそう声をかけられて、レフィーナは元侍女長のことを頭から追い出した。
ダンデルシア家に送られた元侍女長とは、もう会うことはないだろう。
「……もしかしたら、ヴィーシニアにはもっと共通のものがあるかもしれないな」
「そうかも……。神様の趣味らしいけど、ヴィーシニアを中心にあちらの世界のものを取り入れたのかもしれないわね。私たちの国では見かけないし、プリローダでも見ないし……」
「なるほどな……」
何か考え込んでいるヴォルフに、レフィーナは首を傾げる。
「ヴォルフ?」
「……いつか、一緒に行くか。ヴィーシニアに二人で」
「え?」
「そうだな……例えば、新婚旅行、とかどうだ?」
レフィーナは全然予想していなかった言葉に驚いて、意味もなく口を開いたり閉じたりする。
昨日の舞踏会からヴォルフの言葉に驚かされっぱなしな気がして、戸惑い気味に彼を見つめた。
昨日は、家族ならこれからでもできる、で今日は、新婚旅行とかどうだ、だ。なんだかどんどんリアルになっているというか……
「あの、ヴォルフ……?」
「ああ、ちょっと待ってろ」
「え?」
なんとか声を絞り出したところで、なぜかヴォルフがさっと手を離して去って行ってしまう。人混みに紛れてしまったヴォルフに、レフィーナは仕方なく道の隅に移動して、言われた通りに待つことにした。
「……はあ……。冗談、なのかなぁ……」
あまりにもあっさりと話を流されて、少し不服だ。たまに意地悪なことを言うヴォルフだから、ただの冗談だったのかもしれない。
ぼんやりと俯いて考えていたレフィーナは、目の前に人が立つ気配を感じて、顔を上げた。ヴォルフかと思ったら何やら軽そうな青年二人組で、レフィーナはため息をつく。
「ほらー、やっぱり可愛いかっただろ! いや、どっちかというと綺麗か?」
「ねえ、一人で暇だろ? 俺たちと遊ぼうぜ!」
ナンパのお手本のようなベタな発言に、レフィーナは眉を寄せる。すっぱり拒否してもいいのだが、そうすると逆上したり、逆にしつこくなったりする可能性もあって面倒だ。
「ほらほら、行こう」
どうやって回避するか考えているうちに、男に手を取られてぐいっと引っ張られた。体を引き寄せられて、レフィーナは短く息を吸う。
このまま連れて行かれる気などさらさらないし、先に手を出したのは男たちなので問題ないはずだ。
それなりに物騒なことを実行しようとしていたレフィーナは、ふと背筋に冷たいものを感じて思わず動きを止める。
その直後、低い声がレフィーナの耳に届いた。
「おい、何をしている」
レフィーナを連れて行こうとした男たちの前に、ヴォルフが現れて立ちふさがった。両手に飲みものを持っているが、その金色の瞳で冷たく男たちを睨んでいる。
「あ? なんだー?」
「お前の連れか? 悪いがこの子は俺らがもらっちゃうからどっか行きな」
「ほらほら、早く退けや!」
通行人が揉め事か、と遠巻きにひそひそと様子を窺っている。ギャラリーが増えても気にしない男たちは、ヴォルフに強気な態度を見せた。
「あ、あの……」
やめておいた方が……とレフィーナが続ける前に、男たちの一人がヴォルフを退かそうと手を伸ばした。
ヴォルフは伸びてきた手をあっさりと躱すと、掴み損ねてよろけた男の背中をとん、と肘で押す。男は体勢を戻すこともできずに、無様に顔面から地面に倒れ込む。
「ぐぇっ!」
「こいつ!」
レフィーナの手を握っていた男がそれを見て、勢いよく殴りかかった。しかし、副騎士団長であるヴォルフに、素人の男が殴りかかったところで当たるはずもなく、またもやあっさりと躱される。
今度の男は倒れ込むことなく体勢を立て直して、またヴォルフに殴りかかった。
「くそっ! このっ……!」
「……しつこい」
いい加減うんざりしてきたヴォルフがすっと片足を上げて、殴りかかってきた男の腹に素早く蹴りを入れた。
見事に一発で男を沈めたヴォルフに、周囲の人々が歓声と拍手を送る。
「失せろ」
大勢の人間に情けないところを見られ、さらにヴォルフに鋭く睨まれて、男たちはすごすごと立ち去った。
「レフィーナ、大丈夫か?」
「え、ええ。ありがとう」
「ほら、これ」
ヴォルフが両手に持っていたドリンクの一つをレフィーナに差し出す。あれだけ動いていたにもかかわらず、中身は一切こぼれていない。
そのことに感心していると、するりと指先で頬を撫でられて、レフィーナは顔を上げる。
「……急にいなくなってすまなかった」
「飲みものを買うためにいなくなったの?」
「まぁ、それもあるが……。その、自分で言っておいてなんだが……、ちょっと照れ臭くなったんだ」
ふいっと顔を逸らしたヴォルフの言葉に、レフィーナは思わず彼の顔をまじまじと見てしまった。ヴォルフの耳が少し赤い。
どうやらあのとき、話をあっさりと流したのは冗談とかではなく、ただ単に恥ずかしかっただけのようだ。
「……その、一応言っておくが冗談じゃないからな。いつか、行こう。二人でヴィーシニアに」
首の後ろを擦りながらそう言うヴォルフに、レフィーナは嬉しくなって満面の笑みを浮かべる。
そして二人は飲みものを片手にまた並んで歩き始めた。
買ってきてくれた飲みものはフルーツジュースらしく、甘酸っぱくて美味しい。周りを見回すと、それらしいドリンクを売る屋台がちらほら見えて、プリローダの名物だということが分かる。
花だけではなくフルーツも有名だったな、と今さらながらにレフィーナは思い出した。
「何か気になるものでもあったか?」
なんとなく並んでいる屋台を見ていると、ヴォルフが聞いてくる。レフィーナは屋台から彼に視線を移し、首を横に振った。
「なんとなく見ていただけよ」
「そうか。腹は空いてないか?」
「うーん、ちょっとだけ……?」
話しながら歩いていたため、少しお腹が空いていた。レフィーナはヴォルフの言葉に素直に頷く。
「それなら、何か買って少し休憩するか。いい休憩場所を知っているからな」
「ヴォルフはプリローダに詳しいの?」
「……まぁ、それは後でな。まずは何か買うか」
プリローダはレフィーナたちの国よりも屋台が多く、フルーツジュース以外にも色々なものが売られていた。
二人は屋台を見て回りながら、手軽に食べられそうなものを探す。
「これとかどうだ?」
「プリローダドッグ?」
看板に書かれた文字を読んで、レフィーナは首を傾げる。屋台に視線を移すと、少し硬めのパンに粗挽きソーセージとレタスが挟まっているものがたくさん並んでいた。
どうやらプリローダドッグとはホットドッグのことのようだ。
「いらっしゃい! プリローダの名物だよ!」
「名物なんですか?」
「そうだよ。お嬢ちゃん、このソースを見てみな」
屋台の男が首を傾げるレフィーナの前に、たっぷりソースが入った容器をドンッと音を立てて置く。それを覗き込んで見ると、透明なソースの中に小さな花が沢山入っていた。
見た目は綺麗だが、これをホットドッグにかけるのはちょっとどうかとレフィーナは思う。
アイスクリームとかならまだ美味しそうなのだが……
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