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〇01 寿命が分かる世界の、ごく一部の不幸せな人達
しおりを挟む今のこの世界に、君は満足していると思っていた。
それなのに君がいなくなるなんて思ってもみなかった。
残酷なこの世界は、どれだけたくさんの人を幸せにしても、必ず少数の不幸を生んでしまう。
この世界にあるものは、何にでも寿命が決められれているらしい。
物でも、生き物でも、何でもだ。
それが分かるようになったのは、自殺者の数が前年の倍以上の数になった年だ。
その変化はある日、突然起きた。
寿命が見えるという現象が。
世の中の人は、命を大切にしない人間達への罰だ、なんだ言って騒いだ。
けれど、それだったら物の寿命なんかも分かったりしないはず。
だから僕はただ、世界のルールがふとした事で、ちょっとだけ書き換わってしまっただけなんじゃないかと考えている。
今のこの世界になってから、人は優しくなった。
寿命が尽きそうになっている人達に手を差し伸べ、優しい声をかけるのが日常の光景になった。
命を投げ捨てようとしている人に気づいてあげたり、思い残したことがある老人の未練を晴らしてあげたり。
そんな風に、世界は穏やかに、温かくなっていった。
世界の変化に救われた人は大勢だろう。
けれど、その変化に傷ついた人もいたと思う。
見えない善意が息苦しいんだ、と僕の友人で会った誰かが言って、人のいない所へ行ってしまった。
連絡はない。
それきりだった。
世界は本当に不思議だ。
どんなに優しくなっても、必ず誰かが傷つくようにできているんだから。
そんな中、一人の少女と出会った。
彼女は、そんな世界に満足している人の側に立っていた。
僕は彼女と出会い、だんだん惹かれていって、恋をして、そして付き合う事になった。
お互いの相性が良かったのかな。
僕も彼女も二人とも、特に人より秀でてる所がなくて、特に目立つ事が好きじゃなくて、特に先頭に立って歩くのが得意ってわけじゃないから。
そんなところが息があったんだと思う。
それで、一年ほど付き合った時。
彼女は消えたんだ。
そうなる前に、彼女の寿命が急激に減っていったのが見えていたから、ひょっとして病気か何かになってしまったんじゃないかなって思ってはいた。
彼女はかたくなに、健康の事を話さなかったから、真相は闇の中に落っこちていってしまったけれど。
もしかしたら、僕には分からない事情があったのかもしれない。
とにかく、彼女は僕には到底想像できない何かしらの事情を抱えて、消えてしまった。
彼女は、自分は幸せだって、いつも言ってた。
だから、自殺なんかじゃないと思う。
とうぜん彼女がいなくなった日から探したよ。
でも、どんなに探しても見つからなかった。
僕の脳裏に浮かんだのは、この世界に適応できなくなって消えてしまったとある友人の事。
そんな。まさか。
そう思った。
当然だ。
だって彼女は、そちら側の人間じゃなかった。
なら、それなのにどうして?
それが分かったのは、合いかぎを使って勝手に上がりこんだ、彼女の部屋。
彼女のまわりには、
寿命が見える事が嫌。
寿命なんて分かりたくない。
そんな人ばかりがいた。
彼女は、そんな人たちに優しさを届けようとした。心残りを解消しようとした。
でも届かなかった。
彼女と、その人達の間には、飛び越えようのない溝があった。
溝は一つじゃなかった。いくつもあった。
そんな溝と出会うたびに、彼女は分かり合えないと思ってしまった。
そっとしておいてあげれば、そのまま押しつぶされてしまう。
でも何かをしてあげても、その人達は望んでいない。
だからといって、寿命が見えない世界になんてしてあげられない。
想いの板挟みにあった彼女は、耐え切れなくなった。
そして、消えた。
「自分は幸せ」
そうか。
「自分だけは幸せ」
だからだったのか。
僕は、悔いた。
何でこの世界は、たくさんの人を幸せにしても、必ず少数の誰かが不幸になってしまうのだろう。
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