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20.新しい二人の日常の始まり
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後日、旅行から帰って来たという家の持ち主、クリスの叔父夫婦を紹介された俺は驚くことになる。
「僕がお世話になっている、叔父と叔母です」
クリスに紹介された叔父というのは恰幅の良い紳士だったが、その夫人というのが長い黒髪が印象的な日本人女性で、彼女こそクリスと一緒にいるところを目撃したあの女性だったのだ。
驚く俺にクリスは『彼女は子供のころから僕の面倒をよく見てくれる、母親のような人です』と微笑んだ。とても母親には見えない若くてきれいな人だと思うのだが……。
クリスのそんな言葉を思い出しながら、窓から差し込む朝日が眩しいボロアパートの狭いキッチンで、寝巻のまま二人分のホットケーキを作っていた。
「おはようございます」
生地をフライパンに流し込んだところで、クリスがのろのろと起きてきた。
あれからクリスはよくうちに泊まるようになった。バイトのある日はもちろんその他の日も、もうほとんど一緒に住んでいるようなものだ。俺の日課に二人分の朝食を用意することが加わった。
「やっと起きたのか」
「わあ、おいしそうですね!」
「お前これ好きなのか?」
クリスの声が嬉しそうに弾んでいる、今にもじゃれついてきそうな雰囲気だが、料理の最中にちょっかいを出すなとしつけている。
「好きですよホットケーキ、思い出の料理ですから」
そうだ、俺はあのとき公園で拾った子供にホットケーキを焼いてやったのだ。
「モリナガさん、今日も大好きです」
「おいクリス、やめろ! 料理の最中は危ないから近づかない約束だろ!」
腰を抱いてキスしてこようとするクリスを押し返す。これから俺は職安と、午後からカフェの仕事に行かなくてはいけない。
「んー、恋人と過ごす朝の甘い時間を取り上げないでください。本当ならあんな危ない店長がいる店に行かせたくないんですよ」
「だから、他の就職先さがしてるところだろ。クリスこそweb会議の準備は大丈夫なのか?」
「会議は日本では夕方からなので大丈夫ですよ」
クリスはしばらくは大学メインで、卒業したら本格的に働き始めるらしい。日本にも支社があるからそこで働いてもいいなんて言っているが、その辺は二人でもっとよく話し合おうと思う。
「なので、もう少し恋人らしいことさせてください」
「だ、だからっ……こ、こいびととか言うな!」
「モリナガさんは恋人でない相手ともあんなことをするですか?」
「いや、だからそういうことじゃなくてっ。分かんだろ、俺に言わせんな!」
「わかっています、トーマが怒るのは照れているからなんですよね」
耳元にキスをされて、「トーマは僕の恋人ですよ」なんてささやかれて、朝から甘すぎて胸やけしそうだ。
クリスは自分を俺の飼い犬だと言うが、リードを持つはずの俺の方が振り回されっぱなしだ。
チュっと音を立てて頬に口づけられ、それもいいかとこっそりと幸せを噛みしめていた。
おしまい
「僕がお世話になっている、叔父と叔母です」
クリスに紹介された叔父というのは恰幅の良い紳士だったが、その夫人というのが長い黒髪が印象的な日本人女性で、彼女こそクリスと一緒にいるところを目撃したあの女性だったのだ。
驚く俺にクリスは『彼女は子供のころから僕の面倒をよく見てくれる、母親のような人です』と微笑んだ。とても母親には見えない若くてきれいな人だと思うのだが……。
クリスのそんな言葉を思い出しながら、窓から差し込む朝日が眩しいボロアパートの狭いキッチンで、寝巻のまま二人分のホットケーキを作っていた。
「おはようございます」
生地をフライパンに流し込んだところで、クリスがのろのろと起きてきた。
あれからクリスはよくうちに泊まるようになった。バイトのある日はもちろんその他の日も、もうほとんど一緒に住んでいるようなものだ。俺の日課に二人分の朝食を用意することが加わった。
「やっと起きたのか」
「わあ、おいしそうですね!」
「お前これ好きなのか?」
クリスの声が嬉しそうに弾んでいる、今にもじゃれついてきそうな雰囲気だが、料理の最中にちょっかいを出すなとしつけている。
「好きですよホットケーキ、思い出の料理ですから」
そうだ、俺はあのとき公園で拾った子供にホットケーキを焼いてやったのだ。
「モリナガさん、今日も大好きです」
「おいクリス、やめろ! 料理の最中は危ないから近づかない約束だろ!」
腰を抱いてキスしてこようとするクリスを押し返す。これから俺は職安と、午後からカフェの仕事に行かなくてはいけない。
「んー、恋人と過ごす朝の甘い時間を取り上げないでください。本当ならあんな危ない店長がいる店に行かせたくないんですよ」
「だから、他の就職先さがしてるところだろ。クリスこそweb会議の準備は大丈夫なのか?」
「会議は日本では夕方からなので大丈夫ですよ」
クリスはしばらくは大学メインで、卒業したら本格的に働き始めるらしい。日本にも支社があるからそこで働いてもいいなんて言っているが、その辺は二人でもっとよく話し合おうと思う。
「なので、もう少し恋人らしいことさせてください」
「だ、だからっ……こ、こいびととか言うな!」
「モリナガさんは恋人でない相手ともあんなことをするですか?」
「いや、だからそういうことじゃなくてっ。分かんだろ、俺に言わせんな!」
「わかっています、トーマが怒るのは照れているからなんですよね」
耳元にキスをされて、「トーマは僕の恋人ですよ」なんてささやかれて、朝から甘すぎて胸やけしそうだ。
クリスは自分を俺の飼い犬だと言うが、リードを持つはずの俺の方が振り回されっぱなしだ。
チュっと音を立てて頬に口づけられ、それもいいかとこっそりと幸せを噛みしめていた。
おしまい
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