愛犬はブルーアイズ

雨夜美月

文字の大きさ
21 / 21

20.新しい二人の日常の始まり

しおりを挟む
 後日、旅行から帰って来たという家の持ち主、クリスの叔父夫婦を紹介された俺は驚くことになる。

「僕がお世話になっている、叔父と叔母です」

 クリスに紹介された叔父というのは恰幅の良い紳士だったが、その夫人というのが長い黒髪が印象的な日本人女性で、彼女こそクリスと一緒にいるところを目撃したあの女性だったのだ。

 驚く俺にクリスは『彼女は子供のころから僕の面倒をよく見てくれる、母親のような人です』と微笑んだ。とても母親には見えない若くてきれいな人だと思うのだが……。


 クリスのそんな言葉を思い出しながら、窓から差し込む朝日が眩しいボロアパートの狭いキッチンで、寝巻のまま二人分のホットケーキを作っていた。

「おはようございます」

 生地をフライパンに流し込んだところで、クリスがのろのろと起きてきた。
 あれからクリスはよくうちに泊まるようになった。バイトのある日はもちろんその他の日も、もうほとんど一緒に住んでいるようなものだ。俺の日課に二人分の朝食を用意することが加わった。

「やっと起きたのか」

「わあ、おいしそうですね!」

「お前これ好きなのか?」

 クリスの声が嬉しそうに弾んでいる、今にもじゃれついてきそうな雰囲気だが、料理の最中にちょっかいを出すなとしつけている。

「好きですよホットケーキ、思い出の料理ですから」

 そうだ、俺はあのとき公園で拾った子供にホットケーキを焼いてやったのだ。

「モリナガさん、今日も大好きです」

「おいクリス、やめろ! 料理の最中は危ないから近づかない約束だろ!」

 腰を抱いてキスしてこようとするクリスを押し返す。これから俺は職安と、午後からカフェの仕事に行かなくてはいけない。

「んー、恋人と過ごす朝の甘い時間を取り上げないでください。本当ならあんな危ない店長がいる店に行かせたくないんですよ」

「だから、他の就職先さがしてるところだろ。クリスこそweb会議の準備は大丈夫なのか?」

「会議は日本では夕方からなので大丈夫ですよ」

 クリスはしばらくは大学メインで、卒業したら本格的に働き始めるらしい。日本にも支社があるからそこで働いてもいいなんて言っているが、その辺は二人でもっとよく話し合おうと思う。

「なので、もう少し恋人らしいことさせてください」

「だ、だからっ……こ、こいびととか言うな!」

「モリナガさんは恋人でない相手ともあんなことをするですか?」

「いや、だからそういうことじゃなくてっ。分かんだろ、俺に言わせんな!」

「わかっています、トーマが怒るのは照れているからなんですよね」

 耳元にキスをされて、「トーマは僕の恋人ですよ」なんてささやかれて、朝から甘すぎて胸やけしそうだ。

 クリスは自分を俺の飼い犬だと言うが、リードを持つはずの俺の方が振り回されっぱなしだ。
 チュっと音を立てて頬に口づけられ、それもいいかとこっそりと幸せを噛みしめていた。

       おしまい

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

『定時後の偶然が多すぎる』

こさ
BL
定時後に残業をするたび、 なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。 仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。 必要以上に踏み込まず、距離を保つ人―― それが、彼の上司だった。 ただの偶然。 そう思っていたはずなのに、 声をかけられる回数が増え、 視線が重なる時間が長くなっていく。 「無理はするな」 それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、 彼自身はまだ知らない。 これは、 気づかないふりをする上司と、 勘違いだと思い込もうとする部下が、 少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。 静かで、逃げ場のない溺愛が、 定時後から始まる。

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...