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第3部
ナオの違和感と、騎士のはぁ・・・。
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軽い昼食を摂り、休憩をはさむと、アシェルナオはテュコと一緒にランニングに出かけた。
庭を越えて厩舎や馬場を越え、小高い丘をぐるりと回って、エルランデル公爵家の敷地を囲む柵や石造りの塀に沿って走る。
時折出会う警備兵や使用人に手を振られながら馬車寄せまでたどり着く頃には、アシェルナオは肩で大きく息を吐いていた。
前世よりも遥かに運動不足な生活を送っていることを痛感しているアシェルナオを、
「よく走りましたね、ナオ様」
そう言って褒めるテュコは、あまり呼吸を乱さずに爽やかな汗が一筋二筋流れているだけだった。
いくら年齢差があるとは言え、悔しいアシェルナオはテュコを見上げる。
そこにはスウェットを完璧に着こなした長身の美男子がいた。
いつも一緒にいるテュコをアシェルナオは特に意識したことはなかったが、不意に違和感を感じた。
「どうかしましたか?」
自分を凝視しているアシェルナオを見て、怪訝そうな顔で尋ねるテュコ。
「ううん。久しぶりにすっごく走ったね。気持ちよかったけど疲れたぁ」
何もないふうにそう言って膝に手をあてるアシェルナオの頬は紅潮し、汗がしたたり落ちている。
その表情は大抵の人間に不埒な感情を持たせるもので、
「早く部屋に戻って汗を流しましょう」
不埒者がアシェルナオの艶めかしい顔を見ていないか、テュコは辺りを見回した。
オリヴェルやパウラ、シーグフリードはナオがスウェットを着て走っていることを単純によいことだと褒めてくれるが、貴族的な観点からいうと走ることがはしたないと言われても仕方ないことで、テュコは人に見られないように気を付けながらアシェルナオを先導して歩き出す。
アシェルナオは、さっきテュコを見て感じた違和感が何なのか、答えが出ないままその後に続いていた。
「まあまあナオ様。髪の毛も汗で濡れてますよ」
「たくさん走られたんですね」
アイナとドリーンは、部屋に戻ってきたアシェルナオとテュコのランニングの成果である汗だらけの顔を見て顔をほころばす。
「ご入浴しましょうね。汗をかいたままだと風邪をひいてしまいますわ」
「うん。テュコ、今度はフードをかぶって走ろうね」
浴室に向かいながらアシェルナオがテュコに声をかける。
「フードを被ると余計汗をかきそうですよ」
「でも汗をかくの、気持ちいいよ?」
ランニングのあとの高揚感で、アシェルナオは上機嫌だった。
それを見送って、テュコは自分も汗を流すべく、アシェルナオの部屋の隣にある自室に向かった。
エルとルルはエルランデル公爵家からの迎えの馬車に乗って帰路についていた。
同乗しているのは紫色のストレートの長髪を後ろで束ねた体格のいい騎士1人で、
「はぁぁっ……」
その騎士、キナクは、向かい側に座るエルとルルを見て溜息を吐いた。
キナクは自分では控えめのつもりで溜息を吐いたのだが、エルとルルが引くほど大きな溜息だった。
「おいおい、失礼じゃないのか?」
自分たちと同じか、少し年下に見える騎士の溜息に、ルルが苛立つ。
「申し訳ありません。馬車での送迎と聞いて、アシェルナオ様のお迎えだと勘違いした私が悪いんです。はぁぁぁっ……。いえ、すみません。期待が大きかったので、はぁぁぁっ……」
キナクは憂鬱そうにため息を吐く。
「ナオ様の護衛騎士になりたかったのか」
「ええ。まあ、屋敷の中でもしっかりお護りしていますが、馬車の中で同じ空気を吸えると思ったんですよ。それを想像したんですよ。はぁぁぁっ……」
「ナオ様だって学園まで馬車で行ってるんだろ? 護衛する騎士として同乗する順番も回ってくるんじゃないのか?」
「それが一度も。送迎はテュコ殿がされていらっしゃるので、私たち騎士に入る隙はないんですよ」
「あー、テュコ先輩はなぁ。騎士科で最優秀賞だったもんなぁ」
「あのまま第一騎士団に入っていたら、あっという間に頭角を現していただろうになぁ」
「もったいないよなぁ」
エルとルルが心底残念そうに頷きあい、キナクは不思議そうにそんな2人を見ていた。
入浴のあと、夕食前のため寝間着ではなくラフな部屋着を着せられたアシェルナオは、1階のホールの長椅子で寛いでいた。
「ただいま」
「帰ったよ」
扉が開いてエルとルルが入ってくる。
「お帰りー」
アシェルナオは長椅子から2人に声をかけた。
「珍しいね、ナオ様。1人?」
辺りを見回してエルが尋ねた。
いつもはテュコやアイナ、ドリーン、たまに他のメイドや使用人がいたりするが、ホールにも1階のどこにも人の姿なかった。
「さっき走ってきたから、テュコは汗を流してるんじゃないかな。アイナは飲み物を作りに行ってる。ドリーンは……どこかにいると思う」
「そうか」
エルとルルは顔を見合わせる。
「なぁ、ナオ様」
2人は頷くと、同時にアシェルナオに話しかけた。
庭を越えて厩舎や馬場を越え、小高い丘をぐるりと回って、エルランデル公爵家の敷地を囲む柵や石造りの塀に沿って走る。
時折出会う警備兵や使用人に手を振られながら馬車寄せまでたどり着く頃には、アシェルナオは肩で大きく息を吐いていた。
前世よりも遥かに運動不足な生活を送っていることを痛感しているアシェルナオを、
「よく走りましたね、ナオ様」
そう言って褒めるテュコは、あまり呼吸を乱さずに爽やかな汗が一筋二筋流れているだけだった。
いくら年齢差があるとは言え、悔しいアシェルナオはテュコを見上げる。
そこにはスウェットを完璧に着こなした長身の美男子がいた。
いつも一緒にいるテュコをアシェルナオは特に意識したことはなかったが、不意に違和感を感じた。
「どうかしましたか?」
自分を凝視しているアシェルナオを見て、怪訝そうな顔で尋ねるテュコ。
「ううん。久しぶりにすっごく走ったね。気持ちよかったけど疲れたぁ」
何もないふうにそう言って膝に手をあてるアシェルナオの頬は紅潮し、汗がしたたり落ちている。
その表情は大抵の人間に不埒な感情を持たせるもので、
「早く部屋に戻って汗を流しましょう」
不埒者がアシェルナオの艶めかしい顔を見ていないか、テュコは辺りを見回した。
オリヴェルやパウラ、シーグフリードはナオがスウェットを着て走っていることを単純によいことだと褒めてくれるが、貴族的な観点からいうと走ることがはしたないと言われても仕方ないことで、テュコは人に見られないように気を付けながらアシェルナオを先導して歩き出す。
アシェルナオは、さっきテュコを見て感じた違和感が何なのか、答えが出ないままその後に続いていた。
「まあまあナオ様。髪の毛も汗で濡れてますよ」
「たくさん走られたんですね」
アイナとドリーンは、部屋に戻ってきたアシェルナオとテュコのランニングの成果である汗だらけの顔を見て顔をほころばす。
「ご入浴しましょうね。汗をかいたままだと風邪をひいてしまいますわ」
「うん。テュコ、今度はフードをかぶって走ろうね」
浴室に向かいながらアシェルナオがテュコに声をかける。
「フードを被ると余計汗をかきそうですよ」
「でも汗をかくの、気持ちいいよ?」
ランニングのあとの高揚感で、アシェルナオは上機嫌だった。
それを見送って、テュコは自分も汗を流すべく、アシェルナオの部屋の隣にある自室に向かった。
エルとルルはエルランデル公爵家からの迎えの馬車に乗って帰路についていた。
同乗しているのは紫色のストレートの長髪を後ろで束ねた体格のいい騎士1人で、
「はぁぁっ……」
その騎士、キナクは、向かい側に座るエルとルルを見て溜息を吐いた。
キナクは自分では控えめのつもりで溜息を吐いたのだが、エルとルルが引くほど大きな溜息だった。
「おいおい、失礼じゃないのか?」
自分たちと同じか、少し年下に見える騎士の溜息に、ルルが苛立つ。
「申し訳ありません。馬車での送迎と聞いて、アシェルナオ様のお迎えだと勘違いした私が悪いんです。はぁぁぁっ……。いえ、すみません。期待が大きかったので、はぁぁぁっ……」
キナクは憂鬱そうにため息を吐く。
「ナオ様の護衛騎士になりたかったのか」
「ええ。まあ、屋敷の中でもしっかりお護りしていますが、馬車の中で同じ空気を吸えると思ったんですよ。それを想像したんですよ。はぁぁぁっ……」
「ナオ様だって学園まで馬車で行ってるんだろ? 護衛する騎士として同乗する順番も回ってくるんじゃないのか?」
「それが一度も。送迎はテュコ殿がされていらっしゃるので、私たち騎士に入る隙はないんですよ」
「あー、テュコ先輩はなぁ。騎士科で最優秀賞だったもんなぁ」
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「もったいないよなぁ」
エルとルルが心底残念そうに頷きあい、キナクは不思議そうにそんな2人を見ていた。
入浴のあと、夕食前のため寝間着ではなくラフな部屋着を着せられたアシェルナオは、1階のホールの長椅子で寛いでいた。
「ただいま」
「帰ったよ」
扉が開いてエルとルルが入ってくる。
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アシェルナオは長椅子から2人に声をかけた。
「珍しいね、ナオ様。1人?」
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いつもはテュコやアイナ、ドリーン、たまに他のメイドや使用人がいたりするが、ホールにも1階のどこにも人の姿なかった。
「さっき走ってきたから、テュコは汗を流してるんじゃないかな。アイナは飲み物を作りに行ってる。ドリーンは……どこかにいると思う」
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2人は頷くと、同時にアシェルナオに話しかけた。
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