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第3部
ピーッ
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アシェルナオが王城を訪れたのは誕生日のお祝いから2日後の3の水だった。
「3年ぶりだねぇ」
アシェルナオは案内するイクセルの後ろを歩きながら懐かしそうにあたりを見回す。
「3年ぶりなのはナオ様の中だけで、本当は14年近いんですよ」
声を潜めて訂正するテュコ。
アシェルナオもテュコも、顔がわからないようにベールを被っていたが、隠しきれないオーラが2人をただならぬ存在だと告げているようで、すれ違う者たちが思わず振り向いていた。
「しかし、よくこの短期間で実現しましたね。エルランデル公爵やシーグフリード様、誰よりもテュコが反対するとばかり思っていましたが」
「もちろん大反対ですが、いやなことは早くすませておくタイプなので」
アシェルナオの閨教育をいやなことだと言い切るテュコに、イクセルは苦笑する。
当時8歳のヴァレリラルドは梛央に一途な思いを寄せていたが、12歳だったテュコもまた、梛央を生涯ただ1人の主だと心酔していたのだ。
やすやすとヴァレリラルドにアシェルナオを渡すわけにはいかないというテュコの気概は、昔のテュコを知っているだけにイクセルには不快ではなかった。
「こちらでお待ちです」
王城の、公的な場所と王族の居住区の境にある扉の前でイクセルは立ち止まる。
そこには扉を護る衛兵が2人、両脇に立っており、イクセルの顔を見ると敬礼して扉の前から横に位置をずらした。
「ご苦労」
衛兵に声をかけて扉を開けると、アシェルナオとテュコを中へ通す。最後に自分も中へ入ると、イクセルは厳重な扉をしめた。
そこから先は奥城と呼ばれる王族の居住区、プライベートな空間だった。
「ナオ!」
白いシャツと黒いトラウザーズというラフな姿で迎えに出たヴァレリラルドが駆け寄ってナオを抱き上げる。
「お招きありがとう、ヴァル」
「来てくれて嬉しいよ、ナオ。ベールをはずして、早く顔を見せて」
「いいけど……僕、もう子供じゃないんだから、3年前より大きくなったんだから、降ろして?」
アシェルナオが被っていたベールをはずすと、魔道具で隠していない黒目黒髪の綺麗な顔立ちが現れて、ヴァレリラルドは、間違いなく梛央が戻ってきたことを実感して胸が熱くなった。
「確かに、3年前より大きくなったよ。あの時にナオだと気づけたら……」
3年前の卒業式でもこうやって抱き上げたことを思い出して、ヴァレリラルドは後悔した。
「気づかれないようにすることが、卒業式に連れて行ってもらえるための条件だったから。ヴァル、すごくかっこよかったよ。大きくなったヴァルを見て、すごくドキドキした」
抱き上げられるとヴァレリラルドの顔が近くにあって、今もアシェルナオの鼓動は早くなっていた。
「私もナオにドキドキしてるよ。8歳の頃から」
ヴァレリラルドの言葉に、アシェルナオは少し俯く。
「……母様にね、卒業式のヴァルを思い出して胸がドキドキして苦しくなったり、小さい自分が悲しくなるのは、ヴァルに恋してるからだって言われたとき、8歳のヴァルもこんな気持ちでいたのかなって思ったんだ。あの時はヴァルの気持ちにあまり真剣に向き合ってなくてごめんなさい」
「あの時の私は間違いなく8歳の子供だったんだ。仕方ないよ。私は、ナオが戻って来てくれて、今こうして思いが通じているというだけで幸せだ」
顔を間近で見合わせ、ヴァレリラルドとアシェルナオは言葉でなく目で思いを語り合う。
ピーッ。
突然笛の音が響き、2人は思わず顔を離した。
「必要以上に顔を近づけないようにと、エルランデル公爵から申しつかっていますので」
笛を手にしたテュコがにこりと笑う。 「それよりここで立ち止まったままでよろしいので?」
「あ、ああ。ナオ、父上たちが待っている。行こうか」
「うん。じゃあ降ろして? ……手をつないでいい?」
恥ずかしそうにねだるアシェルナオに、ヴァレリラルドはすぐに降ろして手を差し出す。
アシェルナオはその手に指を絡めた。
「前も、ヴァルの手は剣士の手だと思ったけど、今はもっと大きくてごつごつしてる。僕がいない間も頑張ってたんだね。えらいね、ヴァル」
澄んだ瞳で見上げるアシェルナオ。
その一言で、梛央のいなかった14年近くの年月がすべて報われた気がした。
「……っ……ナオ、愛してる」
この愛しさをどうやったら伝えられるかわからなくて、嗚咽をこらえてヴァレリラルドは、ぎゅっ、とつないだ手に力をこめる。
「……うん」
アシェルナオはこそばゆそうに頷いた。
「3年ぶりだねぇ」
アシェルナオは案内するイクセルの後ろを歩きながら懐かしそうにあたりを見回す。
「3年ぶりなのはナオ様の中だけで、本当は14年近いんですよ」
声を潜めて訂正するテュコ。
アシェルナオもテュコも、顔がわからないようにベールを被っていたが、隠しきれないオーラが2人をただならぬ存在だと告げているようで、すれ違う者たちが思わず振り向いていた。
「しかし、よくこの短期間で実現しましたね。エルランデル公爵やシーグフリード様、誰よりもテュコが反対するとばかり思っていましたが」
「もちろん大反対ですが、いやなことは早くすませておくタイプなので」
アシェルナオの閨教育をいやなことだと言い切るテュコに、イクセルは苦笑する。
当時8歳のヴァレリラルドは梛央に一途な思いを寄せていたが、12歳だったテュコもまた、梛央を生涯ただ1人の主だと心酔していたのだ。
やすやすとヴァレリラルドにアシェルナオを渡すわけにはいかないというテュコの気概は、昔のテュコを知っているだけにイクセルには不快ではなかった。
「こちらでお待ちです」
王城の、公的な場所と王族の居住区の境にある扉の前でイクセルは立ち止まる。
そこには扉を護る衛兵が2人、両脇に立っており、イクセルの顔を見ると敬礼して扉の前から横に位置をずらした。
「ご苦労」
衛兵に声をかけて扉を開けると、アシェルナオとテュコを中へ通す。最後に自分も中へ入ると、イクセルは厳重な扉をしめた。
そこから先は奥城と呼ばれる王族の居住区、プライベートな空間だった。
「ナオ!」
白いシャツと黒いトラウザーズというラフな姿で迎えに出たヴァレリラルドが駆け寄ってナオを抱き上げる。
「お招きありがとう、ヴァル」
「来てくれて嬉しいよ、ナオ。ベールをはずして、早く顔を見せて」
「いいけど……僕、もう子供じゃないんだから、3年前より大きくなったんだから、降ろして?」
アシェルナオが被っていたベールをはずすと、魔道具で隠していない黒目黒髪の綺麗な顔立ちが現れて、ヴァレリラルドは、間違いなく梛央が戻ってきたことを実感して胸が熱くなった。
「確かに、3年前より大きくなったよ。あの時にナオだと気づけたら……」
3年前の卒業式でもこうやって抱き上げたことを思い出して、ヴァレリラルドは後悔した。
「気づかれないようにすることが、卒業式に連れて行ってもらえるための条件だったから。ヴァル、すごくかっこよかったよ。大きくなったヴァルを見て、すごくドキドキした」
抱き上げられるとヴァレリラルドの顔が近くにあって、今もアシェルナオの鼓動は早くなっていた。
「私もナオにドキドキしてるよ。8歳の頃から」
ヴァレリラルドの言葉に、アシェルナオは少し俯く。
「……母様にね、卒業式のヴァルを思い出して胸がドキドキして苦しくなったり、小さい自分が悲しくなるのは、ヴァルに恋してるからだって言われたとき、8歳のヴァルもこんな気持ちでいたのかなって思ったんだ。あの時はヴァルの気持ちにあまり真剣に向き合ってなくてごめんなさい」
「あの時の私は間違いなく8歳の子供だったんだ。仕方ないよ。私は、ナオが戻って来てくれて、今こうして思いが通じているというだけで幸せだ」
顔を間近で見合わせ、ヴァレリラルドとアシェルナオは言葉でなく目で思いを語り合う。
ピーッ。
突然笛の音が響き、2人は思わず顔を離した。
「必要以上に顔を近づけないようにと、エルランデル公爵から申しつかっていますので」
笛を手にしたテュコがにこりと笑う。 「それよりここで立ち止まったままでよろしいので?」
「あ、ああ。ナオ、父上たちが待っている。行こうか」
「うん。じゃあ降ろして? ……手をつないでいい?」
恥ずかしそうにねだるアシェルナオに、ヴァレリラルドはすぐに降ろして手を差し出す。
アシェルナオはその手に指を絡めた。
「前も、ヴァルの手は剣士の手だと思ったけど、今はもっと大きくてごつごつしてる。僕がいない間も頑張ってたんだね。えらいね、ヴァル」
澄んだ瞳で見上げるアシェルナオ。
その一言で、梛央のいなかった14年近くの年月がすべて報われた気がした。
「……っ……ナオ、愛してる」
この愛しさをどうやったら伝えられるかわからなくて、嗚咽をこらえてヴァレリラルドは、ぎゅっ、とつないだ手に力をこめる。
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アシェルナオはこそばゆそうに頷いた。
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