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第3部
バンドやってます
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「みなさん、ご機嫌よう」
王太子妃から、成長期、公爵家の陰謀の話題がひと段落したところで、ドアが開かれた。
ドアを開けて入ってきたのは高身長で細身の青年だった。整った目鼻立ちと銀色の長い髪を持ち、少しだけ耳が尖っている。
ブロームは希少すぎて伝説のような存在になっているエルフ族の血を引く青年で、国境近くで行き倒れていたところを辺境伯の騎士団が発見し、辺境伯に保護された経緯がある。
音楽の才能があり、その才能を耳にしたオリヴェルが、3年前のスタンピードのあとからアシェルナオの音楽の教師としてエルランデル公爵家に迎え入れられていた。
アシェルナオが王立学園の初等科に入学してからは学園の音楽の教師として勤めており、アシェルナオたちの顧問でもある。
ブロームはエルフの流れを引くだけあって精霊や妖精を身近に感じることができ、アシェルナオが愛し子であることも初見で見抜いていた。普通に接しているが内心では崇めている。
「先生、ごきげんよう」
家でも会っているのだが、アシェルナオは元気に挨拶する。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
ハルネスたちも挨拶をして、持ち場に移動した。
持ち場。
ハルはピアノ、スヴェンはドラム、クラースはギター、トシュテンはベース。アシェルナオはメインボーカルと、ショルダーキーボードやヴァイオリンを担当している。
友達になった10歳当初は剣の稽古を一緒にやっていたのだが、早々に自分には剣の才がないと気づいたアシェルナオが他にみんなでやれるものとして考えたのがバンドだった。
この世界になかった肩からかける楽器やドラムセットをブロームとともに制作するのに1年間の時間をかけ、2年前から演奏してきた。
(この世界では)まだ誰も演奏したことのない楽器に、最初はなかなか慣れなかったスヴェンたちだが、今ではなかなかいい演奏ができているとアシェルナオは思っている。
今やっている楽曲はスヴェンのドラムの頭打ちから始まりそのままイントロを引っ張る。そこからハルネスの高音のキーボードがはいってきて、ギターとベースが続き、もう一度力強いドラムが入ってアシェルナオの歌が入る。
これまでは高いキーでゆったりと謳うバラード調の歌が多かったアシェルナオだが、みんなで演奏するようになってからはハイテンポのロック調の歌を歌うこともあった。
この曲がまさしくそうで、ときには力強くしゃくったりフォールしたり、エッジをきかせたり、歌詞や感情を表現しながらアシェルナオが歌っていく。
最後に高音のビブラートで曲をしめくくると、何度も聴いているはずのブロームも拍手を送った。
「すごいです。斬新なメロディーと歌ですが、奇抜ではなくもっと聴きたいと思う感動があります。何回聴いても素晴らしいですよ」
「ありがとう、先生。僕もね、スヴェンのドラム、すごくかっこいいと思うよ。クラくんのギターも、トシュのベースも、ハルルのキーボードも、すごくいい」
興奮するアシェルナオに、
「うん、スヴェンめちゃくちゃかっこいいよ。最初の上のドラム叩く時とか、すごくいい」
ハルネスもスヴェンを絶賛する。
「照れるけど、ドラム叩いてると剣とは違う感じの爽快感があるよ」
頭をかくスヴェン。
「わかります。ギターを弾いていると高揚感が出てくると言うか」
「音楽って退屈なものだと思っていたけど、すごく楽しいよ」
クラースとトシュテンも頷きあう。
「ナオ様のお歌もお上手ですよ。でも一曲でやめた方がいいようです」
ブロームは周りを見回す。
エルフの濃い血ではないためアシェルナオほど明瞭に姿を見ることはできないが、室内に精霊の力が満ちているのを感じていた。
「いたずらはしないと思うよ?」
アシェルナオには歌に誘われて妖精たちが何人も集まっているのが見えており、いつもの精霊たちもノリノリで楽しそうにしている。
「いたずらはしませんよ。みんなナオ様が大好きですからね。ただ精霊の力が満ちすぎると思いもしない恩恵があったりしますから」
愛し子の歌にその力があることをフォルシウスたちは知っているが、自分のことはあまりわからないアシェルナオは、ん?と首を傾げる。
「ナオ様はそのままでいいですよ。でも今日は早く帰るように言われていませんでしたか?」
アシェルナオが可愛すぎて、ブロームはつい笑みがこぼれる。
「そうだった。今日は誕生日のお祝いのためにお客様が来てくれるから。僕先に帰るね。みんなとは日を改めてお茶会しようって母さまが言ってたよ。その時は来てね。先生もね」
「はい」
ブロームが笑顔で頷くと、
「一緒に帰るよ。学園で絶対アシェルを一人にしてはいけないってサリーから言われてるんだ」
スヴェンがドラムセットから降りてきた。
「私たちも一緒に帰りますよ」
「はーい。先生さようなら」
ぺこりとお辞儀をするアシェルナオに、それに倣うスヴェンたち。
「はい、さようなら」
そう言いながらアシェルナオとはまた公爵家で会うことになるのだが、ブロームは可愛い生徒たちに挨拶を返した。
王太子妃から、成長期、公爵家の陰謀の話題がひと段落したところで、ドアが開かれた。
ドアを開けて入ってきたのは高身長で細身の青年だった。整った目鼻立ちと銀色の長い髪を持ち、少しだけ耳が尖っている。
ブロームは希少すぎて伝説のような存在になっているエルフ族の血を引く青年で、国境近くで行き倒れていたところを辺境伯の騎士団が発見し、辺境伯に保護された経緯がある。
音楽の才能があり、その才能を耳にしたオリヴェルが、3年前のスタンピードのあとからアシェルナオの音楽の教師としてエルランデル公爵家に迎え入れられていた。
アシェルナオが王立学園の初等科に入学してからは学園の音楽の教師として勤めており、アシェルナオたちの顧問でもある。
ブロームはエルフの流れを引くだけあって精霊や妖精を身近に感じることができ、アシェルナオが愛し子であることも初見で見抜いていた。普通に接しているが内心では崇めている。
「先生、ごきげんよう」
家でも会っているのだが、アシェルナオは元気に挨拶する。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
ハルネスたちも挨拶をして、持ち場に移動した。
持ち場。
ハルはピアノ、スヴェンはドラム、クラースはギター、トシュテンはベース。アシェルナオはメインボーカルと、ショルダーキーボードやヴァイオリンを担当している。
友達になった10歳当初は剣の稽古を一緒にやっていたのだが、早々に自分には剣の才がないと気づいたアシェルナオが他にみんなでやれるものとして考えたのがバンドだった。
この世界になかった肩からかける楽器やドラムセットをブロームとともに制作するのに1年間の時間をかけ、2年前から演奏してきた。
(この世界では)まだ誰も演奏したことのない楽器に、最初はなかなか慣れなかったスヴェンたちだが、今ではなかなかいい演奏ができているとアシェルナオは思っている。
今やっている楽曲はスヴェンのドラムの頭打ちから始まりそのままイントロを引っ張る。そこからハルネスの高音のキーボードがはいってきて、ギターとベースが続き、もう一度力強いドラムが入ってアシェルナオの歌が入る。
これまでは高いキーでゆったりと謳うバラード調の歌が多かったアシェルナオだが、みんなで演奏するようになってからはハイテンポのロック調の歌を歌うこともあった。
この曲がまさしくそうで、ときには力強くしゃくったりフォールしたり、エッジをきかせたり、歌詞や感情を表現しながらアシェルナオが歌っていく。
最後に高音のビブラートで曲をしめくくると、何度も聴いているはずのブロームも拍手を送った。
「すごいです。斬新なメロディーと歌ですが、奇抜ではなくもっと聴きたいと思う感動があります。何回聴いても素晴らしいですよ」
「ありがとう、先生。僕もね、スヴェンのドラム、すごくかっこいいと思うよ。クラくんのギターも、トシュのベースも、ハルルのキーボードも、すごくいい」
興奮するアシェルナオに、
「うん、スヴェンめちゃくちゃかっこいいよ。最初の上のドラム叩く時とか、すごくいい」
ハルネスもスヴェンを絶賛する。
「照れるけど、ドラム叩いてると剣とは違う感じの爽快感があるよ」
頭をかくスヴェン。
「わかります。ギターを弾いていると高揚感が出てくると言うか」
「音楽って退屈なものだと思っていたけど、すごく楽しいよ」
クラースとトシュテンも頷きあう。
「ナオ様のお歌もお上手ですよ。でも一曲でやめた方がいいようです」
ブロームは周りを見回す。
エルフの濃い血ではないためアシェルナオほど明瞭に姿を見ることはできないが、室内に精霊の力が満ちているのを感じていた。
「いたずらはしないと思うよ?」
アシェルナオには歌に誘われて妖精たちが何人も集まっているのが見えており、いつもの精霊たちもノリノリで楽しそうにしている。
「いたずらはしませんよ。みんなナオ様が大好きですからね。ただ精霊の力が満ちすぎると思いもしない恩恵があったりしますから」
愛し子の歌にその力があることをフォルシウスたちは知っているが、自分のことはあまりわからないアシェルナオは、ん?と首を傾げる。
「ナオ様はそのままでいいですよ。でも今日は早く帰るように言われていませんでしたか?」
アシェルナオが可愛すぎて、ブロームはつい笑みがこぼれる。
「そうだった。今日は誕生日のお祝いのためにお客様が来てくれるから。僕先に帰るね。みんなとは日を改めてお茶会しようって母さまが言ってたよ。その時は来てね。先生もね」
「はい」
ブロームが笑顔で頷くと、
「一緒に帰るよ。学園で絶対アシェルを一人にしてはいけないってサリーから言われてるんだ」
スヴェンがドラムセットから降りてきた。
「私たちも一緒に帰りますよ」
「はーい。先生さようなら」
ぺこりとお辞儀をするアシェルナオに、それに倣うスヴェンたち。
「はい、さようなら」
そう言いながらアシェルナオとはまた公爵家で会うことになるのだが、ブロームは可愛い生徒たちに挨拶を返した。
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