【完結】密告

九時せんり

文字の大きさ
上 下
5 / 14

安定する場所

しおりを挟む
私が祈祷師になった年、国家から依頼が入りました。私はうっすらと父の仕事風景を思い出しながら祈祷に全国各地を回りました。
神はいるのだ。まだ浅はかな青年だった私にその現実は重くのしかかりました。
この頃から私は神の気迫を感じ取れる様になっていきました。
依頼を受けては全国各地を飛び回るものですから、家があっても年に数回しか家には戻ることがなくトメさんの息子夫婦を住まわせる様になりました。
私はホテル住まいで、大きなスーツケースに最低限の衣服や日用品を詰め仕事に向かいました。
現実と非日常の境目で私は確かな物を見失わないように支えとなるものを探し求めました。
この頃の貴女が、高校生になっていたことを思い出しました。
しかし、私は他の女性と交際していました。貴女も私のことなど知らないものですから彼氏がいました。
ああ、運命なんてないんだな、私はそう思いました。
しかし、貴女は彼氏に翻弄され、今で言うモラハラを受けていました。
私の知らないところで彼氏なんて作るからだ。そう思って私は遥かに若い貴女に苛立ちを向けました。
しかし、事態は急変しました。モラハラをしていた彼氏を貴女は見限り、彼氏が自殺したのです。貴女はそれから荒れていきました。
次から次へと男を作り、罪悪感を払拭するように身体の関係を持つようになっていったのです。
私はこの頃、新人の育成を始めようとしていた年で貴女のことを構う余裕はありませんでした。
私たちの歯車は噛み合うことも無く回っていきました。
私は自分の運命を呪う様になりました。なぜ、私が祈祷師になんてならなくてはいけなかったのか。しかしもう止まるわけにはいかなかったのです。私には魂の光が見えるようになりました。自分を傷つけていた貴女の魂はとても小さくなっていました。
今すぐにでも会いに行って貴女を止めようと幾度となく思いました。
それでも私は仕事から離れることが出来なかったのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

創作の沼

九時せんり
現代文学
新人作家、諸橋ともえ。環境の変化についていけず筆を休めることもたびたびある彼女だったが書くことを止められず創作の沼にはまっていく。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】25人の妖精〜第十三章〜

九時せんり
ファンタジー
陽平君が天界警察に復帰していつも通りの日常が返ってくる中、魔界では内乱が起きる。

【完結】25人の妖精〜鏑木さんの事情〜

九時せんり
ファンタジー
天界警察長官、鏑木準一が一般企業から天界警察に志願するまでのお話。

少女との競泳

浅野浩二
現代文学
「少女との競泳」というタイトルの話です。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

処理中です...