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第31話

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 夕食の後、コップに注がれた濃い緑色のどろどろとした薬を、決心したようにクエルチアは飲み干した。

「苦い。人が飲んでいいものじゃないですよ、これ」

 口の中を洗い流すように水を飲むクエルチアからディヒトバイはコップを受け取り、脇の机に置いた。

「よく飲んだ。えらいえらい」

 そう言ってディヒトバイはクエルチアの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。まるで子供にするような仕草にクエルチアは不機嫌そうな顔をした。

「子供扱いしないって、言ったじゃないですか」
「そうだったかな」

 とぼけてみせる彼の口元には微かな笑みがあった。
 あの事件でディヒトバイは右目を失ったものの、憑きものが失せたようにさっぱりとした顔をして日々を送っている。
 ディヒトバイがつきっきりで看病をしてくれている間、二人でつまらないことを沢山話した。
 食事がおいしかったことや、夏を迎えて緑が濃くなったこと。
 変な噂話。
 話を重ねるごとにディヒトバイの表情は柔らかいものになって、最近では声を出して笑うまでになった。
 彼は本来このように人と触れあうことのできる人間だったのだ。
 それが、誰もそばにいなかったから表に出なかっただけのこと。
 その変化を嬉しく思う。

「何かすることはあるか?」

 ディヒトバイが尋ねてきたので、ベッドを示してそこに座るよう促した。
 不思議そうな顔をしながら座る彼を、力一杯に抱きしめる。

「どうした、急に」

 クエルチアの腕に手を絡ませながらディヒトバイが尋ねる。

「ディヒトさんは、今の暮らしが楽しいですか」
「……ああ」

 静かに返された答えに、クエルチアは満足そうに微笑みそっと唇を重ねた。
 口づけは徐々に激しくなり何度も角度を変え、歯列をなぞり、口内を犯し尽くすように舌を絡ませる。

「ディヒトさん、あの、そろそろ……、動いても、構わないっていうか……」
「そんな誘い方があるか」

 ディヒトバイはいたずらっぽく笑うと、クエルチアの額に軽く口づけをする。

「で、でも、俺もずっと我慢してて……」
「もうちょっと言い方ってのがあるだろ」

 言いながらディヒトバイはベッドに乗り、クエルチアの下衣の前を寛げる。
 そのまま固くなったクエルチアの陰茎を口に含んだ。

「ディ、ディヒトさん……っ」

 初めて行われる奉仕の刺激に声を上擦らせながら、クエルチアがディヒトバイを止めようと声をかける。
 喉深くまでくわえ込まれ、舌は絡みつくように陰茎を刺激する。
 筋をなぞるように舐め上げられると背筋を快感が這った。

「ディヒトさん、もう、出る……っ」

 クエルチアの言葉も気にせずにディヒトバイは口を動かした。
 口内で吸うように陰茎を強く刺激されてクエルチアは達し、体内に溜まった濃い白濁を残らずディヒトバイの口の中に出す。
 口の中に欲望をぶちまけてしまった羞恥と、彼の口を汚してしまったという焦りがクエルチアの顔を赤くする。
 ディヒトバイは顔を上げると、口の中に吐き出された白濁を見せつけるようにして口を大きく開け、それを飲み込んだ。
 飲み下す喉の動きが妙に艶めかしい。

「どこでそんなこと覚えたんです……」
「秘密だ」

 責めるようなクエルチアをよそに、ディヒトバイは自身の服をもどかしいように脱ぎ捨てる。
 脇腹の狼の刺青が、興奮して荒くなった呼吸に合わせて動く。
 ディヒトバイの陰茎もすでに昂ぶり、先走りを滴らせている。
 指を唾液で濡らし、自身の後孔に宛がった。


「お前は動かなくていい」

 慣らし終えるとディヒトバイはクエルチアに跨がり、後孔に陰茎を宛がうと体をゆっくりと沈めていく。

「ん、んっ……」

 後孔が押し広げられる刺激に、ディヒトバイは声を漏らす。
 久々に味わう彼ディヒトバイの体内はいつもより熱く、強く陰茎を締め付ける。
 体重をかけて徐々にくわえ込まれると、それだけで達しそうになった。
 ゆっくりと時間をかけてディヒトバイは陰茎を飲み込んだ。

「ん、う……。……でけえんだよ、お前の」

 言いながらディヒトバイは自身の下腹部をなぞった。
 その場所に陰茎が収まっていることを強調されたようで、クエルチアの心臓が大きく高鳴る。
 ディヒトバイはゆるゆると体を上下させて抽送を始めると、更に大きな声を上げた。

「あ、あっ……、んぅ、んっ……」

 強く扱くように腸壁は陰茎を絞り、後孔はきつく締め上げる。

「はぁ、あっ……」

 吐息混じりの声を上げながらも、ディヒトバイは腰を揺らし続けた。

「クエル……っ」

 抜く寸前から一気に体重を乗せて腰を深く落とし、陰茎に奥を突かれるとディヒトバイは体を震わせて達した。
 余韻に浸っているその体をクエルチアは強く抱きしめる。

「名前を呼ぶなんて、卑怯ですよ」

 耳元で囁きながら腰を突き上げると、ディヒトバイは大きく啼いた。

「もう、我慢できない」

 体勢を入れ替えディヒトバイを下に敷くと、足首を掴んで腰を上げさせ、後孔を露わにさせる。後孔に陰茎を宛がうと情動に任せて一気に貫いた。

「あ、あぁっ……!」

 奥まで突かれて淫靡な声を上げるディヒトバイの顔を見てクエルチアは笑った。

「さっきみたいに、名前を呼んでください」
「んっ……、ク、エル……、クエル……」

 クエルチアに言われるがままにディヒトバイは名前を呼んだ。
 何度も、何度も。
 彼を求めていることが伝わるように。
 最奥まで突き上げた瞬間にクエルチアは達し、白濁を吐き出す。
 その白濁を味わうようにしてディヒトバイも達した。
 クエルチアの陰茎はまだ固さを保ち、溜まった欲は留まるところを知らない。

「まだですよ、ディヒトさん」

 耳元に囁きかけ、クエルチアは再びディヒトバイの体を貫く。
 二人の情交はまだ始まったばかりだった。
 
 
 
 夕方頃から始まった交わりは夜半まで及び、体力も精も尽き果てたディヒトバイはクエルチアに抱かれていた。

「けだもの」
「だって、ずっと我慢してたし……。ディヒトさんも乗り気だったじゃないですか……」
「お前は怪我してるから動かねえ方がいいと思って……」

 反論するも、自分の行動に思うところがあったのかディヒトバイは黙りこんでクエルチアの胸に顔を埋めた。

「ディヒトさんが俺の名前を呼んでくれたと思ったら、嬉しくなっちゃって」
「……お前はいつでも俺の名前を呼ぶな」
「だって、ディヒトさんはディヒトさんですから」

 クエルチアが言うと、笑ったのかディヒトバイの体が微かに揺れた。

「俺は自分の名前が嫌いだった」
「それは、どうして」
「すぐそばに、って意味だからだ。俺のそばには誰もいないのに」

 クエルチアはディヒトバイを強く抱きしめた。自分の存在を示すかのように。

「でも、今はお前がそばにいてくれる」
「ええ。ずっと、そばにいますよ」
「ああ。ずっと、そばにいてくれ」

 その声音は、他人への恐れなど忘れたように穏やかなものだった。
 恐怖の中で孤独に生きていた狼は、大きな木陰という寄る辺を得て、安らぎの中を生きている。

 願わくば、その安らぎが一瞬でも長く続くように。


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