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第40話:シズリアの楽しみ

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約半年分の給料が溜まってきたシズリア。

使い道もないのに必要なのかとジークハルトから聞かれたが、働いても働いても貧乏だった彼女にとっては貯金できる事すら楽しいのだ。


「うふふふふ…お金がいっぱい」


この日シズリアはお金を部屋中に広げて眺めていた。

紙幣一枚一枚に頬擦りする姿はまるで守銭奴、怪しい金に囲まれた悪代官か何かのよう。


「いちまーい、にまーい…ふふふ」


うっとりとした表情で金を数える、至福の時間。


「…シズリア様?」


お茶を運んできたキリアはドン引き。

つわりが辛くて頭でもおかしくなったのかと心配になり、キリアは恐る恐るシズリアに近づく。


「大丈夫ですか、シズリア様…私でよければいくらでも話を聞きますよ」

「あらキリア。あ、お茶持ってきてくれたのね、ありがとう」


異常行動だとは思っていないシズリアは、普段通りの笑顔をキリアに向ける。

金に囲まれて微笑まれても逆に恐ろしい…キリアは駆け寄りたかったが、金を踏むわけにいかず足を止めた。


「こんなに広げて、どうなさったのですか?」

「数えていたの。随分溜まったでしょう?少し使ってもまだまだあるわ!」

「そ、そうですね…」


キリアは自身も稼いでいるし、商人である夫が大金を持ち歩くこともある。

そのため、金に囲まれて嬉しいという感覚を理解できないのだ。


「楽しい、のですか?」

「楽しいわよ~」


ニコニコ顔のシズリアは大切そうに紙幣を集め、金庫へとしまった。

金銭預かり所、いわゆる銀行施設もあるのだがシズリアは手元に置いて楽しみたいのである。

キリアが淹れてくれたお茶を飲み、シズリアはほっと息を吐く。


「もうすぐ次のお給料が貰えるわ、また増えると思うと楽しみで楽しみで!」

「そう、なのですね…」

「…あ、契約婚なのにーってまだ気にしてる顔ね」

「もちろんです。お子様もできて、もうお役御免だとなったらどうなさるのですか?」


シズリアを追い出すようなことがあれば許さない!と鼻息荒く話すキリア。


「いつも心配してくれてありがとう、本当に大丈夫よ。見ての通り楽しんでるし」

「お金の稼ぎ方なんて、他にもあります。夫の商会で働けば良いのに…」

「今から商会に移ったら、噂の的になっちゃうわね」


今更商会で働き出したら大騒ぎになりそうだ。

ジークハルトに思い人ができない限りは離縁することもないだろうが、その時が来るかもしれないと思って貯蓄しておけば将来困らないだろう。


「それにね、夢があるの!」

「夢?」

「そう…それは、部屋いっぱいのお札の上で寝ること」


成金の憧れ(?)、お札風呂もやりたい。


「お金の上で…寝る…お金のお風呂に…入る…」


キリアは混乱している!

その後も熱弁を振るうシズリアに、キリアはついてこれない様子だった。
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