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第9部 シンデレラボーイは、この『やりまクリスマス』を祝福する義務がある!

もう1つのエピローグ 悪魔は静かに牙を研ぐ

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『――と、いうワケでして、これが今回の結末となります』



 無機質なスマホから、心底心頭していると言わんばかりの女の声が、空き倉庫に木霊する。

 森実高校に忍ばせた自分の傀儡かいらいとなる少女の声を聞きながら、《彼》は内心舌打ちしつつ「使えねぇなぁ」と心の中でつぶやいた。

 もちろん今さらながら、そんなコトを口にするようなヘマはしない。
《彼》はいつものように声だけ作りながら、サービスと言わんばかりに、



「そっか、ありがとう。キミにはいつも助けられてばかりだね。今度は僕の方から、何かお礼をさせて貰うよ」

『あ、ありがとうございますぅ❤』



 うっとり♪ といった様子で夢見心地のまま答える女子生徒を前に、思わず鼻で笑ってしまいそうになる。

 バカな女だ。

 そう、女はみんなバカなのだ。

 バカなのだから、優秀な僕に逆らったらどうなるか、教えてあげないといけない。

《彼》の脳裏に、1人の亜麻色の髪をした美少女と、忌々いまいましい赤髪の少年の姿がフラッシュバックした。

 あぁ……今も思い返すだけではらわたが煮えくり返る。

 あの日、あのとき、あの瞬間。

 ヤツの――大神士狼のしょうもない戯言ざれごとが、鼓膜にこびりついて離れない。

 取るに足らない存在のハズだった。

 自分にとっては愚かなる民衆の1人に過ぎなかった……ハズだったのだ。

 だというのに、あの日、自分はヤツに完膚なきまでに叩き潰され、あまつさえ、この世に存在しているだけでおぞましい写真まで取られたのだ。

 これほどの恥辱を《彼》は今まで受けたことがなかった。
 


 ――だからこそ、ソレが《彼》に執念を与えたのだ。与えてしまったのだ。




「それじゃ、またね。うん、期待してるよ」



《彼》は愛想笑いを浮かべながら、プッ! とスマホの通話をオフにする。

 途端にその顔から笑みが崩れ落ち、苛立たしそうな顔つきへと変化した。



「チッ……。せっかく知恵を与えてやったというのに、使えねぇなぁ」



 そう口にして、《彼》はココには居ない少年、亀梨頭介へと思いを馳せた。

 せっかくアイツらに嫌がらせが出来ると思ったのに、あの亀梨バカのせいで全てが台無しだ。

 計画は順調に進んでいたのだ。

 当初の予定通りであれば、バカでも分かる暗号を解いた森実高校生徒会執行部が、そのまま傀儡となっていた谷垣を捕まえるコトになっていた。

 そして無事に谷垣を捕まえさせた後は、森実高校に忍ばせている自分の傀儡となってくれている女子生徒に「真犯人」は別にいる噂を流させ、あの亀梨バカを捕まえる手筈だったのだ。

 そうすれば生徒会の信用も、多少は地に落ちるだろう。

 そう《彼》の本来の目的は、森実高校生徒会執行部への嫌がらせ。

 ……いや、正確には、自分に恥辱を与えたバカ2人への嫌がらせであった。

 あったのだが……。



「チッ……これだからバカは嫌いなんだ。言ったことも守れないなんて、ほんと低能だなぁ」



 不機嫌さを隠すことなく、《彼》は盛大に舌打ちをかます。

《彼》の失態はただ1つ。

 亀梨頭介のバカさ加減が、想像の上をいっていたこと。

 芽衣が間違った推理に行き着いてしまい、焦ったあの亀梨バカが、勝手に計画を変更したのが、全ての始まりだった。

 おかげで運命の歯車が少しずつ狂ってしまい、結果、芽衣たちは真犯人に辿りついてしまった。

 なんとも面白くない、すこぶる面白くない。

 あぁ、イライラする。

 こういう時は、適当な女でも抱くに限る。



「――亮士さん、総長がお呼びです」



 キープしている女を呼び出そうと、再びスマホを弄ろうとした《彼》の手が、ピタリッ! と止まる。

《彼》が声のした方向へと視線を向けると、そこには顔に黒色のピアスをした数人の男たちが、頭を垂れるように直立不動で待機していた。



「森実町へ乗り込む準備が整ったとの事らしいので、すぐ来て欲しいとのことです」
「わかった。すぐ行く」



《彼》は取り出したスマホをポケットに仕舞い込み、内面に向けていた意識を、現実の方へと切り替えた。

《彼》の名前は佐久間亮士――かつて古羊芽衣の心を折り、大神士狼によって心を折られた、『元』星美高校生徒会会長にして、高校空手界きっての強者……だった男。

 そして現在は、った数カ月で関東の荒くれ者どもを支配した、最強の喧嘩屋集団。

 その名も【東京卍帝国】――の副総長。



「いよいよですね、亮士さん! いよいよ本格的に【喧嘩狼】と【九頭竜高校】を潰すんですね!」
「くぅ~っ! もう全国統一も目と鼻の先っすか!」



 興奮したように取り巻きの男たちの声が、倉庫へと木霊する。

《彼》――いや、亮士はそんな取り巻きの言葉を受け流しながら「あぁ、いよいよだ」と、小さく呟いた。

 いよいよだ。

 いよいよ自分の目的が叶う。

 全国のバカ共をたばね、自分をここまで堕とした、あの大バカ野郎に復讐する日は、もう目と鼻の先だ。

 亮士はあの大バカ野郎……大神士狼の顔が苦痛に歪む瞬間を想像して、1人満足気に微笑んだ。



「あぁ、はやく会いたいなぁ。喧嘩狼」



 まるで恋する乙女のように、上機嫌でそう呟く。

 でも、それはしょうがないことなのだ。

 何故なら、いつだって狼を仕留めるのは猟師の仕事なのだから。
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