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第3部 シンデレラボーイは、この『恋するウサギ』を応援する義務がある

第9話 キミに見えるか、ちっぱいの星が!

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 我が家のお風呂場で、半裸のよこたんが悲鳴をあげ、古羊芽衣という名のモンスターが尋常ならざる速度で召喚され、鮮やかに俺をフルボッコにした日から、3日が経ったある日の放課後。

 俺は1か月後に差し迫った森実祭に向けて、学校全体が少しずつ動き始めていることを肌で感じていた。


「やっぱ去年の文化祭とは雰囲気が違うよなぁ」


 放課後に残って何かしらの作業をしている生徒を眺めながら、しみじみと思う。

 去年よりも自由度が跳ね上がったおかげかどうかは知らないが、森実祭に向けて準備を進める生徒達の目が、どことなく楽しげに輝いているような気がしてならない。

 なんせ授業の合間の休み時間にも、打ち合わせのためなのか、他所よそのクラスの生徒がやってきたり、いつの間にやら教室の背後に資材や工具が置かれていたりと、確実に去年には感じなかった生徒たちのやる気を感じてならない。

 教室で屋台を組み立てる者。

 中庭でダンスの練習をする者。

 廊下で1人当日に展示する絵を描いている者。

 日に日に慌ただしくなっていく日常と高揚感に、自然と生徒たちの足取りが軽くなる。


「……だというのに、俺は1人ナニをしているんだか。ハァ……」


 どこか浮き足立っている生徒たちの間をすり抜けるように、俺は中間テストで赤点をとった者だけが受けることができる、名誉ある補習プリントと言う名のプレゼントを受け取っていた。

 全教科追試並びに、ヤマキティーチャーのありがたいお言葉から解放されて1時間弱。

 俺は各教科担当の先生お手製の補習プリントを片手に、生徒会室へと続く廊下をゾンビのような足取りでトボトボと歩いていた。

 扉の前に辿り着くなり、ギィ! とやや錆びついたドアを手前に押すと、森実高校が誇る美人姉妹の姉君の視線が、文字通り身体に突き刺さった。



「あら、案外早かったのね。もうお説教は終わったの?」

「おう、今日の分はな。……って、芽衣1人だけか? よこたん達はどこ行ったんだよ? 姿が見えねぇけど?」



 キョロキョロと生徒会室を見渡すが、そこに居るのは仮面を被ることをやめた生徒会長さまが1人だけ。

 ほかはみな、もぬけの殻であった。



「洋子は学校の見回り、狛井先輩は実行委員会との予算の打ち合わせ、羽賀先輩はクラスの出し物の準備で全員駆り出されているわ。ヒマなのは士狼だけね」

「むっ、俺だって真面目に仕事を……してねぇな、うん」

「まったく、まさか本当に全教科赤点を取るなんて……逆に出来ないわよ、そんな芸当」

「て、てへ♪」



 コツンッ☆ と可愛らしく右拳を頭に軽くぶつけ、誤魔化そうと頑張ってみるが、何故か芽衣のこめかみに浮かぶ血管の数が増えただけだった。

 どうやら可愛さが足りなかったらしい、反省☆


「ハァ……まあいいわ。イレギュラーがあったけど、これはこれで嬉しい誤算だわ」


 そう言って芽衣は椅子から立ち上がると、スタスタと生徒会室の扉まで近づき。


 ――ガチャッ


 と鍵を閉めた。


「これでよしっと」
「……あの、芽衣さん? なんで鍵を閉めるんですか?」
「別に、なんとなくよ。それよりも士狼? 実はアタシ、今とっても困っているのよねぇ」


 そう言いながら芽衣は、俺が彼女のハリボテおっぱいを揉みし抱いている例の脅迫写真をチラチラと見せながら、ニチャリッ! と邪悪極まりない笑みを浮かべてみせた。

 ヤバい!?

 められた!

 と思った時は、いつだってアフター・フェスティバル♪

 完全に逃げ出すタイミングを失った俺は、猛獣の檻の中に入れられた哀れな子ウサギのように、ぷるぷるとナイスバディを震わせた。


「こ、ここここ、今度はなにをやらせる気ですか!?」
「そんなに警戒しなくても、危ないことじゃないわよ」


 そう言って芽衣は俺の椅子に腰をかけると、けがれなき瞳で。



「悪いんだけど士狼、アタシのおっぱいを揉んでくれない?」



 と言った。

 ……んっ?



「はい?」

「聞こえなかった? だから、アタシのおっぱいを揉んで欲しいのよ。今すぐに」

「そ、それは……どういうことでしょうか?」

「言葉通りの意味よ。アタシのバストを、アンタのマジックハンドで無茶苦茶に揉みしだいて欲しいのよ」



 ……なにを言っているんだ、この女は?

 一瞬冗談か? と思って芽衣の顔を確認するが、その表情はどこまでも真面目であった。

 えっ?

 真面目に『おっぱいを揉め』って言ってるの?

 恐らく、これが3日前の脱衣所で見たラブリー☆マイエンジェルよこたんのおっぱいなら、喜んで勇んで揉みしだいていたことだろう。

 むしろ俺が彼女のブラジャーになる勢いで、無茶苦茶にしていたに違いない。

 いや待てっ!?

 そんなことを考えている場合じゃないぞ、俺!?



「め、めめめ、芽衣!? おまっ、おまままままままっ!?」

「あ~。はいはい、落ち着きなさい。別に痴女になったとか、そういうワケじゃないから。これには深いワケがあるのよ」

「ふ、深いワケ?」



 そっ、と短く答えるなり、芽衣は廉太郎先輩の机に置いてあった1枚の紙切れを俺に寄こしてきた。

 そこには『ミス森実高校美少女コンテスト!』と、可愛らしいポップな文字がおどり狂っていた。



「これって確か、去年おまえが優勝したヤツじゃねぇの?」

「えぇ、そうよ。去年は生徒会長になるための知名度が欲しかったから、そのコンテストに参加したんだけど、どういうわけか今回も参加させられたワケ」



 なんでも前回の優勝者は強制的に出場らしいのよ、と面倒臭そうに続ける芽衣。


「そんなにメンドクサイなら断ればいいのに……」と言おうとしたが、さすがに猫を被っている生徒会長さまとしては、それは風体が悪すぎるか、と思い留まる。



「それで? そのミスコンと芽衣のおっぱいを揉むことに、なんの関連性があるんだよ?」

おおいにあるわね」



 そう言って、芽衣は自慢の亜麻色の髪を手でなびかせ。


「ほらアタシって、自他共に認める美少女じゃない?」
「自分でそこまで言えるとは、たいしたもんだ」


 とんでもない自信である。

 1歩間違えれば、かなり痛い女の子だ。

 まあ、確かに美少女であることには違いないから、口は挟まないけどね。



「それはもう、年々女としての魅力に磨きがかかってくるわけよ。……とある一部分を除いて」

「あぁ~……」

「その妙に納得したってため息が癪に障るわね」



 つい視線が芽衣の胸部へと移動する。

 そこには超偽乳パッドでギガ盛りされた、ハリボテおっぱいが鎮座していたが、俺だけは知っている。

 本物の彼女の胸元は、今にも航空機が着陸しそうなくらい、真っ平な平原が広がっていることを。


「チッ……胸ばかり見てんじゃないわよ。コロスゾ?」
「す、すいません……」


 八重歯を剥き出しにして、ガルルルルッ!? と威嚇する芽衣。

 もはや手のつけられない狂犬そのものだ。怖スギィッ!?



「このまま出場するのはアタシのプライドが許さないの。そこで士狼、アンタの出番よ」

「えっ、俺?」

「そう。古来より女の子の胸を大きくする1番の方法は、男の子に揉まれることって、相場が決まっているでしょ? だから、手っ取り早く、アタシのおっぱいを揉んで、大きくするのが、今日の士狼の役目ってわけ」


 ははーん?

 さてはこの女、バカだな?


 おっぱいを揉んだところで、大きくなるのは、俺のお股のオロチだけだよ?



「つまり俺は芽衣のおっぱい、いや『寄せパイ』、いや『あげパイ』、いや『ちっぱい』を精いっぱい揉めばよろしいので? そいつは夢いっぱいだな」

「士狼、歯ぁ食いしばりなさい?」

「すみません、自分調子に乗りました……」



 間髪入れずに目の座った会長閣下に頭を下げる。

 あ、危ねぇ……。

 あと少し謝るのが遅かったら、芽衣がどこからともなく取り出したあの釘バッドが、俺の顔面を強襲し、頭と身体がバイバイキンする所だったわ……。

 背中から溢れ出る冷や汗で制服をビショビショにしながら、俺は今度こそ選択を間違えないように、喉を震わせた。



「あのぉ……1つ質問してもよろしいでしょうか?」
「許す」



 言ってみなさい、と不遜な態度で顎をしゃくる双子姫のお姉さま。

 いや『姫さま』というより、単なる女帝だな。

 俺は女帝メイ・コヒツジの地雷を踏まないように、言葉を慎重に選びながら、



「正直、この1カ月で急に大きくなるとは思えないって疑問は、今は脇に置いておくとして……。もしかして、とうとうパッドを辞めて、真の姿をみんなの前に晒すのか?」

「真の姿と言うな、ぶっ殺すぞ?」

「ご、ごめんなさい……」



 う~ん、さすがは会長殿だ!

 眼力だけで虫が殺せそうだぜ♪



「もちろん乙女の嗜みとして、パッドは身に着けるわよ。しかも最新型のヤツをね!」

「乙女の嗜みとは一体……って、うん? 最新型?」



 えぇ、そうよ! と芽衣は元気よく頷くや否や、青い猫型ロボットよろしく、何故かポケットに常備していた予備のパッドを取り出して、自信満々の態度で俺に見せつけてきた。

 それは前に確認したパッドとは、大きさが明らかに違う。

 そう、大きい、大きいのだ。

 おそらく超偽乳パッドの半分くらい大きい。

 芽衣はふふん♪ と得意げに鼻を鳴らしながら、手のひらに乗っけたパッドをむにゅむにゅと弄り始めた。



「どうよ? これぞ芽衣ちゃん印のハイブリッド偽乳パッド、題して『ハイパッド1号』よ!」

「は、ハイブリッド偽乳パッド?」



 そう! と、芽衣は自分のハリボテおっぱいを主張するように、大きく背を反らした。



「見なさい、この自然な盛り上がり方! 完璧な針運びで、数多のパッドを1つにフュージョンさせた結果、旧偽乳パッドよりも軽く、持ち運びが便利になったのが、このハイパッド1号よ!」

「ねぇ? それを見せられた俺は、どういうリアクションをとればいいの?」



 よほど自慢したかったのだろう。

 喜々として自分の作り上げたパッドの説明をし始める芽衣。

 どうでもいいけどコイツ、とうとう自分でパッドを作り始めたぞ。

 コイツは一体どこの頂きを目指しているのだろうか?

 神の一手か?



「あぁ~……すげぇパッドだってことは分かったからさ、とりあえず本題に戻ろうぜ?」

「……なんだか対応が雑じゃない?」



 まぁいいわ、と芽衣はポケットにパッドを仕舞いこむ。



「とりあえず、チャチャッとアタシのおっぱいを揉んでちょうだい」

「すげぇ。そんな駄菓子屋へ行く感覚で『おっぱいを揉め』と命令してくる女が、この世にいるなんて。やっぱり世界は広いとしか言いようがないな」

「うっさいわね。いいから早く揉みなさいよ。……直接触った方が効果が期待できそうだから、とりあえずブラは外すわ。アンタは制服の下から手を突っ込んで、迸る情熱の赴くままに揉みしだいてちょうだい」

「そ、それはいわゆる『生』ですか……?」

「生よ」



 そう言って芽衣は、何ら躊躇ためらいもなく、制服の上から器用にブラジャーを脱いだ。

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