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第3部 シンデレラボーイは、この『恋するウサギ』を応援する義務がある

第8話 ラッキースケベは突然に

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 双子姫が一泊した、翌朝の午前6時。

 あまりの蒸し暑さに自然と目が覚めた俺は、寝汗でビッショリに濡れたシャツを指先で軽く引っ張った。


「あっつ……。うげぇ、身体ベタベタで気持ちわりぃ。軽くシャワーでも浴びるか」


 ベッドから起き上がり、寝汗でベトベトなTシャツを脱ぎ捨て半裸になる。

 そのままTシャツ片手にボリボリと腹を掻きながら、1階の風呂場へと移動する。


「今頃、芽衣とよこたんは客間で寝ているんだろうなぁ」


 なんてことを漠然と考えながらガラッ、と脱衣場の扉を開けた。

 さて、ここでごくごく自然に話は逸れるんだが、男女同権について話そうと思う。

 この世に生まれ落ちた瞬間から男も女も関係なく、皆平等な権利を有している、というアレだ。

 もはや世界的に当たり前のように受け入れられている男女同権。

 しかし現実問題として、いくら声高らかに「男女平等」を叫んだところで、実際問題男女差別は中々なくならないのが現状だ。

 例えばアレだ、更衣室でのお着替えなんかがいい例だ。

 1限目が体育で、汗でベトベトになった身体を拭きながら制服に着替えようとしていた矢先、爆裂ボディのお姉さんが突如全裸で強襲してきたシチュエーションを想像してもらいたい。

 文字通り一糸まとわぬ姿で入ってきたお姉さんを前に、俺たちはどんなリアクションをするだろうか?

 おそらく「も、もしかして、このお姉さんは俺たち幼気いたいけなサクランボーイズの貞操をひたすら狙う、ド痴女童貞ハンターなんじゃないのか!? ヤッベェ童卒しちまう♪」と、意気揚々と接触を試みようとするだろう。

 間違っても、ここで悲鳴をあげたり、ポリスメンを呼んだりはしない。

 絶対にしない。

 ならもし、もしもだ。

 お着替え中の女の子たちを前に、半裸のナイスバディなお兄さんが現れたら、一体彼女たちはどういうリアクションをするのだろうか?

 その答えは今……俺の目の前にあった。



「……へっ? えっ? ししょー?」



 脱衣所を開けた瞬間、見知った美少女と遭遇した。

 というか、よこたんだった。

 下着姿の姿、我が1番弟子だった。



「な、なんでここに……?」
「来ちゃった♪」
「来ちゃいましたかぁ……」



 スタイリッシュに入室してきた俺の半裸を、同じく半裸のよこたんの澄んだ瞳がまっすぐ捉える。

 その手にはバスタオルがしっかりと握りしめられていて、彼女の珠のように美しい肌にうっすら浮かぶ水滴を吸い取っていた。

 そこから少し視線を外すと、よこたんの柔肌を締め付けるように、パステルブルーのブラジャーとショーツ様が俺の網膜に飛び込んできて……ふぅむ。

 服の上からでも分かってはいたが……すげぇな、コイツの身体。

 傍から見ただけで大きいと分かる乳房といい、キュッ! とくびれたウェストといい……これは軽くFを超えているのではなかろうか?

 Fを超えたら、もはや職業である(錯乱)。

 それにしても……あぁ、やはりおっぱいは素晴らしい。

 見ているだけで癒される。

 それが極上の果実なら、なおさらだ。

 いまだ思春期を抜け出せていない少年と青年の狭間を彷徨さまよう俺たちにとって、乳房はただ大きければいいというワケではない。

 やはりある程度は細見であってほしい。

 二律背反アンビバレンツな願いだとは分かっている。

 童貞の妄想だと笑われても、仕方がないとすら思う。

 それでも、やはり……それだけは譲れないのだ!



「あの……ししょー?」

「うんっ! 今日の下着も可愛いな、よこたんっ! とくにパステルブルーのブラジャーの刺繍がとてもキュートで、愛らしいゾ☆」

「あ、ありがとぅ……?」


 よこたんの視線が、俺の顔とB地区を行ったり来たりしている。

 いまだ状況を飲みこめていない大天使よこたんに、俺はさも半裸が最先端の流行ファッションであるかのように堂々と微笑みを浮かべてみせた。

 気取けどられるな。

 半裸が普通であると、自分に言い聞かせろ。

 躊躇ためらうな、迷うな、後悔するな。

 負の感情は、一瞬で他者に伝染するぞ。

 半裸を恥じるな、半裸を信じろ!

 さすれば道は開かれん!


「実はこの下着、ボクのお気に入りで――あっ! ち、違うよ、ししょーっ!? これは違うからね!?」


 俺がよこたんに力づくでメダパニをかけていると、ナニを思ったのか、急にワタワタと狼狽うろたえ始める爆乳わん



「別にボク、人様のお家で裸になる特殊性癖があるとか、そういうのじゃないからね!? ただ今朝は暑くて、寝汗をかいちゃったから、ハスキさんにお願いして、シャワーを浴びさせてもらっただけで! だから裸になっているのであって――って、裸ぁっ!? ボク、裸ぁっ!?」



 よこたんは俺の顔を見て、次に自分の裸体を見て、再び俺に視線を送ると、ようやく自分の置かれている現状を把握したのか、瞳に涙の膜を作り、顔をこれでもかと赤くして、そのパステルブルーのブラジャーに包まれた豊かな胸が大きく上下した。

 イカンッ、叫ばれるっ!?



「~~~~~っ!? きゃっ――」

「ッ! 俺を見ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「きゃっ――はへぇっ? えっ、えぇぇぇぇぇっ!? な、なんで急にズボンを脱ぐの、ししょーっ!?」



 意味分かんないよっ!? と困惑するよこたんを差し置いて、俺は履いているパンツを一気に引きずり下ろした。

 そして現れる二代目Jソウルブラザーズ。

 突然サファリパークと化す我が家の脱衣所。

 もちろん動物は立派なゾウさんが1匹だ!

 俺は「ふふっ、まるでアダムとイブみたいだね?」という小粋なジョークを混ぜることなく、胸を張って、よこたんに言ってやった。



「これで俺たちの条件は五分と五分だ! よって、よこたんが叫ぶ理由はなくなった!」
「ど、どういうこと?」



 碧い瞳を白黒させて静止するよこたん。

 俺は万乳まんにゅう引力いんりょくの法則によって、よこたんの胸に吸い寄せられる視線を意思の力で何とか統率し、まっすく彼女の瞳を見据えて、



「俺たちは今、お互いに恥部をさらけ出している状態だ。つまり! これで俺達2人は対等な関係ということ! ならば何も恥らうことはない! そうだろう!?」

「えっ? えっ? そ、そうなのかなぁ……?」

「そうなんだよ!」



 力強く断言してやると、よこたんは目をグルグル回しながら、ぷしゅー! と頭から湯気を発散させ始めた。

 はたして、それがお風呂に入ったことによる蒸気か、はたまた美少女が本気で戦うときに発すると言われている『勝身煙』かは分からないが、とりあえず悲鳴をあげられる展開は回避することが出来たらしい。

 計算通り、と心の中でほくそ笑みながら、俺は爽やかな笑みを顔に張り付け、



「それで悪いんだが、よこたんよ。俺もシャワーを浴びたいから、早く出て行ってくれるか?」

「ッ! そ、そうだよね! ぼ、ボクがここに居たら、ししょーがお風呂に入れないもんね!? ご、ごめんね!? すぐに着替えるから!」

「いやいや、焦っていないから、ゆっくりで構わないぞ? ハハッ!」



 堂々と自分の権利を主張することで、俺は合法的に、よこたんの生着替えシーンに立ち会う権利を獲得。

 おそらく、あまりにも俺が堂々としているのと、突然のアクシデントの結果、よこたんの正常な判断は麻痺してしまったのだろう。

 俺にツッコむことなく、いそいそとに水滴のついた髪の毛をタオルでふき取っていく。

 そんな彼女の姿を下半身フルティンのまま仁王立ちで眺める俺。

 なんとも素敵な光景だ。

 出来ることなら、ずっとこの場に永住したい。

 だがそんなドリームタイムは、突然開いた脱衣所の扉の音によって儚くも崩壊した。


「ヨウコちゃん、これ新しいタオルと制服――なにをしているんだシロウ?」


 はい、俺終了のお知らせです。

 扉の向こうから現れたのは、ウチの学校の女子制服を持った我が家のビッグボス、大神蓮季ママ上その人であった。

 母ちゃんは糸のように目を細めながら、俺とよこたんを交互に見返す。

 さあ、想像してごらん?

 扉をあけたらフルティンの息子が、仁王立ちのまま半裸の女子高生を堂々と視姦しかんしている光景を。

 しかも朝の生理現象と相まって、股間が独立どくりつ愚連隊ぐれんたいの如く硬くそそり立っている状態で、だ。

 うん、俺なら速攻で親子の縁を切るね。間違いない。



「……まさか、あんたにそこまでの甲斐性があっただなんて、お母ちゃん、素直に予想外だったわ……」

「違うんだ母ちゃん、俺の話を聞いてくれ」

「いや、みなまで言わなくていい。お母ちゃんは全部分かっているから」

「か、母ちゃん……」



 さすがは俺の母ちゃんだ。

 息子の言いたいことを、瞬時に理解してくれる。

 こんな素晴らしい母親は、中々居ない。

 俺はなんて良い母親と一緒に暮らしているんだ、神様ありがとう!

 この偉大なる母君と出会えたことに感謝していると、母ちゃんは俺たちに向かってグッ! と親指を突きたて、



「2人とも、ちゃんとゴムはしろよ?」



 パタンッ、と閉まっていく扉。

 おい!? 何とんでもないことを言い残して出て行ってんだ、クソババァ!?

 違ぇから! まったくそういうんじゃないから!

 というか、実の息子に性交を進める母親ってなんだ!?

 どういう神経してんだ!


「ごむ? ごむ、ゴム……ゴムッ!? へっ? ご、ゴムッ!?」


 母ちゃんのトンデモ発言によって、正気を取り戻したよこたんが、ギギギギギッ! と錆びついたオモチャのように首を動かす。

 視線が俺の顔から、放し飼いになっているオオカミジュニアへと移動する。

 そしてギンギラギンに屹立きつりつした俺のスカイツリーを視界に納め、一瞬で顔を赤くするよこたん。

 俺はそんな大天使よこたんに対して、肩を揺すりながら。


「まいったね、どうも♪」
「~~~~~~~~ッ!?」


 その日、我が家の脱衣所はヨウコ・コヒツジの単独ライブ場へと、姿を変えたのであった。
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