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Main story
知らない幼馴染と知らない恋人の関係性
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『今から行くからね!』
里奈からのメッセージには了解を表わすスタンプを返しておく。
羽那子からの連絡はないが、二人で来るのか。それとも里奈には遠慮して来ないのか。
いや、朝食はこの家でとっていたし、朝も窓を通じて俺の部屋に入って来ていた。
里奈に対して遠慮するような行動は取っていないような気がする。
そもそも、この世界の伊千郎は何故自分の部屋の窓の鍵を掛けないのか。
羽那子が自分の家とこの家を自由に行き来出来るように、あえて施錠せずに暮らして来たのだろうか。
恋人がいるのにか? それも幼馴染みは特別だから?
分からない。分からないが、里奈に対しては出来るだけ不自然さを感じられないよう振る舞おう。
出来るかどうかは別として、多少ではあれば体調不良を理由に誤魔化す事も出来るだろう。
里奈が来るからといって、特別何か準備をする必要もないと思う。
一応先ほどベッドの下や見られたくない何かを隠すであろう場所はチェックしておいた。
特に何もなくて良かった。
ゴミ箱にゴミも溜まっていないし、部屋の風通しをよくする為に窓を少し開けておいた。
ずっと横になっていただけだし、汗臭くはないと思う。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。話し声が聞こえた後、階段を上る足音が一つ。
コンコンコンッ
「どうぞ」
ノックに返事をすると、扉が開いて里奈が部屋へ入って来た。羽那子はいない。
「……顔色は良さそう。熱はないって伊千子さんに聞いたけど、無理しちゃダメよ?」
「うん、心配掛けてごめん」
里奈は学習机から椅子を移動させ、ベッド脇に置く。腰掛ける前に換気目的で開けていた窓を閉めて鍵を掛けた。
「ここの鍵が開いているのは、気分が良くないわ」
「……そう」
謝るべきかと思ったが、変に謝ると犯していない罪で罰せられそうなので避けた。
「伊千郎はただの幼馴染みだと思っていても、あちらはそうは思っていないのよ?
私を心配させたいの?」
「そんな事は思ってないよ」
「じゃあ……」
里奈がさらに続けようとしたタイミングで、また階段を上る足音が聞こえて来た。
「ごめんねー、お邪魔しますよー。
里奈さん、ちょっとそこのテーブル出してくれる?」
お盆を抱えた羽那子が部屋に入って来た。言われた通り里奈がテーブルを出し、その上にお茶を置いてくれる。
「いっくん、お腹の調子は悪くない? 夕飯はみんなと同じメニューで大丈夫?」
「あぁ、お昼はダイニングで弁当を食べたよ」
「そうなんだ、今日の玉子焼きはちょっとしょっぱかったね」
へへへっ、と照れた表情の羽那子。チラッと窓の方を見てから、じゃあねと部屋を後にする。
そうか、今日の弁当も羽那子が作ったものなのか。
幼馴染みというのはそれほどまでに大きな存在だという事か?
里奈がその影を鬱陶しく思っている気持ちが、俺には見えてしまう。
「……ごめん。悪気はないと、思う」
「……!? 伊千郎が謝る事じゃないよ!
でも、そう言ってくれるって事は、私の気持ちを理解してくれたって事だよね……?」
この感じ、今までの伊千郎は幼馴染みがいるのが当たり前の環境だった為に、里奈の気持ちに一切気付かずに過ごして来たのだろう。
もしくは、気付いたけれど理解出来なかったとか。
やはり俺は謝るべきじゃなかったのかもしれない。里奈に対して、頷くだけに留めておく。
「そっか、嬉しいよ。嬉しいんだよ……」
はらっと里奈の目から涙がこぼれ落ちる。
今までの伊千郎はどれだけ里奈に苦しい思いをさせていたのだろうか。
本来であれば、里奈の恋人である伊千郎が気付かなければならなかった事に、俺が踏み込んでしまった。
俺は何も言えず、ただ里奈にティッシュを渡すのが精一杯だった。
里奈からのメッセージには了解を表わすスタンプを返しておく。
羽那子からの連絡はないが、二人で来るのか。それとも里奈には遠慮して来ないのか。
いや、朝食はこの家でとっていたし、朝も窓を通じて俺の部屋に入って来ていた。
里奈に対して遠慮するような行動は取っていないような気がする。
そもそも、この世界の伊千郎は何故自分の部屋の窓の鍵を掛けないのか。
羽那子が自分の家とこの家を自由に行き来出来るように、あえて施錠せずに暮らして来たのだろうか。
恋人がいるのにか? それも幼馴染みは特別だから?
分からない。分からないが、里奈に対しては出来るだけ不自然さを感じられないよう振る舞おう。
出来るかどうかは別として、多少ではあれば体調不良を理由に誤魔化す事も出来るだろう。
里奈が来るからといって、特別何か準備をする必要もないと思う。
一応先ほどベッドの下や見られたくない何かを隠すであろう場所はチェックしておいた。
特に何もなくて良かった。
ゴミ箱にゴミも溜まっていないし、部屋の風通しをよくする為に窓を少し開けておいた。
ずっと横になっていただけだし、汗臭くはないと思う。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。話し声が聞こえた後、階段を上る足音が一つ。
コンコンコンッ
「どうぞ」
ノックに返事をすると、扉が開いて里奈が部屋へ入って来た。羽那子はいない。
「……顔色は良さそう。熱はないって伊千子さんに聞いたけど、無理しちゃダメよ?」
「うん、心配掛けてごめん」
里奈は学習机から椅子を移動させ、ベッド脇に置く。腰掛ける前に換気目的で開けていた窓を閉めて鍵を掛けた。
「ここの鍵が開いているのは、気分が良くないわ」
「……そう」
謝るべきかと思ったが、変に謝ると犯していない罪で罰せられそうなので避けた。
「伊千郎はただの幼馴染みだと思っていても、あちらはそうは思っていないのよ?
私を心配させたいの?」
「そんな事は思ってないよ」
「じゃあ……」
里奈がさらに続けようとしたタイミングで、また階段を上る足音が聞こえて来た。
「ごめんねー、お邪魔しますよー。
里奈さん、ちょっとそこのテーブル出してくれる?」
お盆を抱えた羽那子が部屋に入って来た。言われた通り里奈がテーブルを出し、その上にお茶を置いてくれる。
「いっくん、お腹の調子は悪くない? 夕飯はみんなと同じメニューで大丈夫?」
「あぁ、お昼はダイニングで弁当を食べたよ」
「そうなんだ、今日の玉子焼きはちょっとしょっぱかったね」
へへへっ、と照れた表情の羽那子。チラッと窓の方を見てから、じゃあねと部屋を後にする。
そうか、今日の弁当も羽那子が作ったものなのか。
幼馴染みというのはそれほどまでに大きな存在だという事か?
里奈がその影を鬱陶しく思っている気持ちが、俺には見えてしまう。
「……ごめん。悪気はないと、思う」
「……!? 伊千郎が謝る事じゃないよ!
でも、そう言ってくれるって事は、私の気持ちを理解してくれたって事だよね……?」
この感じ、今までの伊千郎は幼馴染みがいるのが当たり前の環境だった為に、里奈の気持ちに一切気付かずに過ごして来たのだろう。
もしくは、気付いたけれど理解出来なかったとか。
やはり俺は謝るべきじゃなかったのかもしれない。里奈に対して、頷くだけに留めておく。
「そっか、嬉しいよ。嬉しいんだよ……」
はらっと里奈の目から涙がこぼれ落ちる。
今までの伊千郎はどれだけ里奈に苦しい思いをさせていたのだろうか。
本来であれば、里奈の恋人である伊千郎が気付かなければならなかった事に、俺が踏み込んでしまった。
俺は何も言えず、ただ里奈にティッシュを渡すのが精一杯だった。
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