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第二章

25.黒焦げのまんまじゃねえかよ

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「粘土板は神々のためので、土人形で読むことを許可されているのは、一部の高官のみです」
「クルヌギアの情報って貴重なんですね」
 書き終えたスエンは片付けを始める。
 その姿を見ながら森羅は思った。
 情報を与える立場なら、やっぱり手抜きだらけの『神との添い寝』という神事はおかしい。
「先生。この世界に神々ってどれぐらいいるのですか?」
「およそ千、ですね」
「皆、先生みたいに仕事を?」
 その質問に答えてくれたのは、別の声だった。
「そりゃ、ねえぜ。こいつと、俺が特殊なだけ。ほとんどの神々は怠け者だからな」
 巨猫の腹の上で仰け反ると、月を背負って赤髪の男が立っている。
「あ……。神事の部屋で」
 森羅が驚くと、「喋りすぎるな」というように目配せして男はスエンを呼ぶ。
「ちょっと前庭の方に来てくれ。野原を彷徨っていたニャーゴを連れて来たから。怪我をしているようだ」
「分かりました」
 スエンが野草園から走って出ていく。
 森羅は茶トラに起きるのを手伝ってもらい、寄り添うようにして歩き始めた巨猫を杖代わりにして追いかける。
 前庭には巨猫が二匹。一匹は真っ黒な毛並みで馬のように手綱を付けていて、背中に大きな籠を付けて香箱座りしている。もう一匹は白と黒のブチ柄で赤く染まった前足を必死に舐めている。
「罠を引きずって歩いていた。土人形共が仕掛けたんだ」
「傷の深さからして大掛かりなもののようですね。本気でニャーゴを狩ろうとしている」
 赤髪とスエンは話している。
「手当を頼む。そして、お前はこっち」
 赤髪が森羅をそっと担ぎ上げ、家の中に入っていく。
「おお。お前ら、久しぶり」と寄ってくる巨猫らに挨拶しながら、絨毯に座り足のないソファーに持たれる姿は、森羅より何倍もこの家に慣れ親しんでいる雰囲気だ。
 絨毯に降ろされ、どっかり隣に座られた。
 距離を取ろうとすると、
「逃げるな」
 まるで出会ったばかりのスエンを彷彿とさせる態度だ。
 おまけに羽織っていた毛布をはぎ取られ夜着の裾を腰の上までめくられる。
「いきなり何をっ?!」
 驚くと、赤髪は思いっきり顔をしかめている。
 何なんだ、その表情と思っていると、
「黒焦げのまんまじゃねえかよ」 
と前庭で巨猫の手当をしているスエンに向かって叫ぶ。
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