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第二章

26.悪魔認定されたお前が街を歩いたら、即殺されるぜ?

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 手当を終えて戻ってきたスエンが絨毯に座った。
「森羅。彼はウトゥ。太陽の化身です」
「民衆の間で絶大な人気を誇っていたあの神様ですか?」
「呑気に紹介している場合かよ」
 今度はウトゥが庭に出て、黒い巨猫の背中から粘土板を一枚持ってきた。
「ほれ」
 絨毯に投げ出されたそれを読もうとすると、スエンが物凄い勢いで取り上げた。
「ちょっと、先生。それ、悪魔とか夜の守護神とか淫蕩って書いてあるのが見えたんですけど」
 文字は楔形文字。アルファベットの源流になった文字だ。
 なぜかすらすらと読める。
「スエン。いちいち、隠すな」
「私の評判が悪いのはいつものこと。森羅には関係ありません」
「大有りだろうが。なら、俺が教えてやろう。聞け、黒焦げ土人形」
 赤髪は、立ち上がり遠くを見つめる。胸に手を当て、これからセリフを述べ始める舞台役者のようだ。
「突如、劇場に現れた夜の守護神は、瀕死の悪魔を抱いて言った。『静まれ。貴様らが笑い者にしたこの黒焦げの土人形は、添い寝役もこなした我がの持ち物。ここにいる全員の顔、しかと覚えたぞ』と宣り悪魔を連れ去った。今頃、クルヌギアで淫蕩に耽っていることだろう、だ。土人形共が書いた。今、物凄い勢いで広まっている」
 古代バビロニアでゴシップ誌の存在を知ることになるとは思わなかった。
「ウトゥ。森羅が悪魔じゃないことは、文書庫で発見された大昔の症例で証明されたじゃないですか。貴方もその場にいた」
 ということは、森羅が舞台に立たされていた数日、スエンは病気のことを調べていた?
 これで、自分のことを悪魔だと決めつけなかった謎が解決。
 だが、文書庫に記録が残っていなければ、道化と一緒に首を斬られていたかもしれない。
 どなたか知らないが記録を残してくれた人様々だ。
と森羅は心の中で拝んだ。 
 ウトゥが肩をすくめた。
「陽の光に当たれば火膨れする体質。ああ、俺は理解したさ。俺だけはな」
「じゃあ、オレがキ国に戻って説明すればいいですか?」
「悪魔認定されたお前が街を歩いたら、即殺されるぜ?クルヌギアでスエンと淫蕩に耽っていることになっているんだからな」
 森羅はスエンの様子を伺う。でも、答えてくれたのはウトゥだった。
「調査団がクルヌギアの立ち入りを希望しているということですね?」
「ああ。お前が悪魔を飼っていないかという名目でやってて、原種の森まで調査するつもりだろう」
 そこまで語ったウトゥがちらりとスエンを見た。
 そして、同時に森羅の腕を掴んでくる。
「スエン。お前、舞台から黒焦げになった土人形を連れ去ったなら、こういった展開になることは分かっていたはず。なのに、なぜ、このままにしている?」
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