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第九章

190.こっちは、死神にふっとばされてあばら数本いってんだぜ?

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 今度は死神が自分の鎌の柄を使ってメリージを突き飛ばした。彼は、扉の方に転がっていく。


「ヨハネ!奴を焼け」


とレオが指示。


「はいよ」と素直に返事をしたヨハネが、特大の光の玉をメリージにぶつけ、指差しながら格好をつける。


「ドブネズミはそこで静かにしておけ」


 礼拝堂中央部では、ユディトが顔や胴体から破片をこぼしながら残った片腕で死にゆく絵描きを強く抱きしめる。

 アレッサンドロが彼女を安心させるように太ももを撫でた。


「他人に、君を描かせる訳、無い、じゃない、か」


 そして、最後の力で起き上がるとユディトを抱き返す。

 彼の腕の中で、ユディトがボロボロと崩れ人の形を失っていく。

 マテリアが最後に見せた表情は、深い笑み。


「ユディトッ!!!!」


 アレッサンドロが絶叫した瞬間、パッと花びらが散るように女は砕けた。

 欠片を抱きしめながら、アレッサンドロは膝立ちで天井を見つめた。


「逝ってしまったようだね」


とロレンツォ。


「はい。しかし、すぐにオレも」

「できたのかい?君が最後にしたかったことは」

「ええ」


 咳でずっと丸まっていたアレッサンドロの背中がすっと伸びた。

 まるで打ち合わせでもしていたかのように、ロレンツォが間髪入れず振り上げた大きく鎌をスウィングする。

 銀色に光る鎌の歯が、アレッサンドロの首に食い込む。

 あっという間に首は切断され、メリージが倒れている扉付近にぶつかった。


「父さんっ!何するんだっ!」


 地下礼拝堂に響き渡るアンジェロの絶叫。

 扉付近に駆け寄り、躊躇なく彼の首を拾い上げて泣きじゃくる。

 だが、それだけでは首切り事件の幕は降りなっかった。

 よろめきながら起き上がったメリージに向かって、レオが銃を構えたのだ。

 メリージは、両手を上げる。


「おっさん。冗談だろ?間髪入れずにこれかよ。こっちは、死神にふっとばされてあばら数本いってんだぜ?」


 それでも、レオの指が引き金に置かれる。


「逃げろ!メリージ!!銃身が下がっているから本物の銃弾が入っている」


とアンジェロが叫ぶ。

 引き金は引かれた。


「うっ」


と呻いてメリージが胸を押さえながら床に崩れ落ちる。 

 心臓に命中したらしい。

 なのに、メリージは不敵な笑みをこちらに向けた。

 その最中、身体が崩れていく。
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