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第七章
148.まるで、アレッサンドロを慰めるために顕現したみたいだ
しおりを挟む「なるほどな。うまく描きすぎたことに気づいたアレッサンドロは二枚目を描いてあげたんだ。アンジェロはそっちを学校に提出。出来の良い方は自分が保管」
画面の中では、アンジェロがお礼を言うような素振りを見せつつ、ボッティチェリと別れ帰路へ。
「あっさり別れたな」
ヨハネは肩透かしを食らったような声を出す。
「もともと面識が合ったけど、ウフィツィでは偶然、出会っただけってことか」
「でも、アレッサンドロって奴はずっと二階に留まり続けているぜ。ボッティチェリの間にいるだけで他の絵を見て回る訳でもなく。一体、何がしたいんだ、こいつ」
だが、その日はアレッサンドロに動きなし。
「これは今から一年ほど前の映像だ。修道士首切り事件が始まったのが今年の一月始め。どんどん進めてみるぞ」
防犯カメラ映像は事件の始まる前日を映し出す。
日も暮れてもう人気の無くなったウフィツィ美術館二階ボッティチェリの間。『ユディトの帰還』が飾られているガラスケースによろめくようにしてやってきたアレッサンドロがそこに突っ伏す。
「いつもと違ってかなり塞いだ様子だな。何かあったのか?」
途端、ガラスケースが光り始めた。
まばゆい光だ。まるで星が光っているみたいに。
そして、ガラスケースを透けるようにして出て来たのだ。
青いドレスの女が。
女神のように。
「まるで、アレッサンドロを慰めるために顕現したみたいだ」
とヨハネが感想を漏らす。
「こいつが、ボッティチェリってことで確定だな?」
とサライが念を押すと、レオが画面を凝視したまま声を出さずに頷く。
画面の中では、驚いたアレッサンドロが床に尻もちを付く。
青いドレスの女がガラスケースから飛び降りて、転んだ男に近づいて行く。
最初はあっけにとられていた男は、やがて膝立ちになり、大切な物を包み込むような仕草で現世に現れた女の腰に手を回した。
いきなりの甘い雰囲気。
まるで、絵から現れた女に向かって『愛している』と無言で伝えているようで、見ているこちらは落ち着かなくなる。
念のため、今度は映像を遡ってみる。昨年の画像だ。
「アレッサンドロは、毎日閉館間際にやってきて切なげにガラスケースを眺めている。まるで片思いの相手みたいだ」
自分が描いた絵だろ?
どれだけ、ナルシストなんだ。
アレッサンドロのこの姿を見ていると、絵に惚れてしまったアンジェロがまだ可愛く思えてくる。
「どこまで遡れる?」
とレオ。
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