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第七章
147.ボッティチェリの本名。小さな樽って意味で、兄の方も絵描きだった
しおりを挟む「いたとしても、アンジェロが演技していないとしたら、この時点では面識が無い。学校の課題を手伝って貰うのはあり得なくね?」
数度の館内周回ののち、声を駆けられたのかアンジェロは振り向く。
十歳ほど年上の男だ。
二人からは他人よりは親しく、友人よりは遠い距離感が伝わってきた。
レオが身を乗り出してきた。
「誰だ。こいつは」
「知らねえ」
サレイが答えているうちに、画面の中の男は、アンジェロが小脇に抱えたスケッチブックを指差す。
アンジェロの表情が怒りから一変し、泣きそうなものに。
身振り手振りで何かを訴えている。
男が見かねたようにアンジェロからスケッチブックと赤チョークを受け取って、ささっと紙の上に動かしていく。
紙に描き出されたのは、ユディトだ。
サライは、男の顔の画像ソフトに当てはめる。
市民カードのデータベースに侵入し、顔写真と照合させたデータを引っ張ってこいとコマンドすると、幾人かの情報がパーセンテージ付きでモニターに映し出された。
「一番、可能性が高そうなのは、フィレンツェ住まいのアレッサンドロって男」
「姓は、ディ・マリアーノ・フィリペーピか?」
とレオが聞いてくる。
「いや、似ているけれど、違う」
とサライは答えた。
「てか、そいつ、誰?」
「ボッティチェリの本名。小さな樽って意味で、兄の方も絵描きだった」
「んな、余計な豆知識いらねえから。あんたの世界で、僕、生きる予定ねえし」
「奴の仕事は何だ?現世でも絵描きか?」
「いや、修復士のようだ。イタリア美術協会ってとこにに登録がある」
「そこを詳しく調べてみろ。過去にどんな仕事をしたのか評価とともに出てくるはずだ。人となりが少しは分かるかもしれん」
とレオが指示を飛ばしてくる。
「僕はそっち方面は素人だから、ちょっと手こずるぞ」
レオが無理やり加わってきて、停滞していた話の流れがスムーズになり始めた。
ヨハネとあーだこーだと言い合っていたところで、ここまでたどり着かなかっただろうし、終いには喧嘩して、いいところまでいっていたことに気づかずにいたかもしれない。
まあ、元お師匠様に感謝のかの字もサライには無いが。
モニターに映るアレッサンドロという男は出来上がった絵を眺めていたが、何かに気づいたらしい。
黙って見ているアンジェロに何か告げると、スケッチブックを捲って二枚目を描き始める。
さっきより随分下手だ。そして、それをアンジェロに渡した。
サライは感想を述べる。
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