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第六章
128.俺、解ったんです。貴方が、我を助けよと言った意味が
しおりを挟むでも、今は地獄の底にいるような気分。
父親に飼いならされていただけだと気づいたから。
養父が長い時間をかけて自分が描かされた絵を館に集めていたという事実。
紛失したと言っていた『サルヴァドール・ムンディ』もどきをどういう訳かオークションで落札しコレクションに加えようとしていたこと。
疑わしい男だと思っていながら、尊敬もしていた。わずかな信頼だってあった。
それをあの男は、何度も何度も踏みにじる。
一気に感情が込み上げてきた。
喉にあった氷のようなものが、突然溶け出したのだ。
一気に溢れ出したのは声だった。
「ウア、アッ、アァァァ」
小道の隙間から見える夜空に向かって、身体を仰け反らせるようにして子供みたいに泣き叫ぶ。
息が切れる。そして、熱い。
「泣くってっ、……苦しいな」
流した涙で頬がベタベタになる感覚は久ぶりだった。
贋作組織時代、どんなに悲しくても誰も助けてくれなかったし、泣けば泣くほど事態は悪化していったから、いつの間にかどんなに悲しくても涙を流せなくなった。
そんな俺が、今、泣いている。
一方で冷静な自分もいた。
頭の片隅では、俺のこんな無様な姿も、きっと、どこかでメリージは見ているんだろうな。あと数十秒もしたら、「そんなに泣くなって」と猫撫で声で近づいてくるはず、と頭の片隅で考える余裕があった。
養父の罪を許せない自分は、メリージの誘いにまたついていく。
死の審判を下され泣いた子供らの全員の顔を覚えているくせに、罪悪感すら忘れたふりして。
結局はあの男の思い通り。
「俺、最低だ」
そのまま小道を抜けて、レプブリカ広場へ行こうとした。
いつもは、誰も乗らないメリーゴーランドが回り続け、観光客でごったがえしているそこは、戒厳令のせいで薄暗くしんとしている。
そこに、青いドレスの女が片手に剣、片手にバスケットを持ち立っていた。
中には山盛りの頭部。
彼女は満身創痍の様子だ。
顔のひび割れ、ドレスだって血で汚れていて。
「ユディトさん」
アンジェロは彼女に駆け寄っていった。
奇跡的に会えたのだから、伝えねばと思ったのだ。
ユディトは、いつもの気だるい様子で立っている。
「俺、解ったんです。貴方が、我を助けよと言った意味が」
アンジェロは、バスケットに入った頭部の切断面を見つめる。
骨も筋肉組織もまっすぐに切れていた。
気持ちが少し落ちる。
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