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第六章

126.後尾に死神。でも、バーントの死神さんとの立ち姿じゃない

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「何だって!?父さんの実家じゃないか」

 コロンナ家は元貴族。二千年以上の歴史を持ち、ローマ皇帝を数人輩出しているイタリアの名家中の名家だ。

 ロレンツォはそこの直系。だから、皆、表向きはロレンツォ公と恭しく呼ぶのだ。

 だが、その裏には、コロンナ家より遥かに短い歴史しか持たずに断絶したメディチの姓をわざわざ好き好んで名乗っている変人という蔑みも含まれているということをアンジェロは感じ取っていた。

 回廊型の館中を駆け回った。

 コロンナ家も歴史のうねりには耐えきれなかったようで、今は破産状態にある。

 ロレンツォが資金援助の代わりに多くの美術品を引き取ってきていた。

 アンジェロは二階へと向かう。

 廊下に、赤い脚立が置かれてあった。床にはブルーのシート。そして、バケツやコテなどの作業道具。

 今にも修復士が現れそうだ。

 壁に描かれているのは、法皇、貴族、民衆、骸骨。


「後尾に死神。でも、バーントの死神さんとの立ち姿じゃない。こんなに反り返って鎌は担いでいない」


 アンジェロは絵の先頭を見る。


 不自然な空白。まるで、ぽっかりと穴が空いてしまったような。


「ここから出てきたのか。―――父さんがバーントの死神さん。通りで、毎回、毎回タイミングがよすぎるわけだ」
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