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第五章

93.てめえは、人は殺してねえが、強盗の片棒を担いでんだぞ

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「警察で全部話します」

「絵は戻ってきた。大事にするつもりはない。リチャード・クリスティンに警察が関わってくる方が痛手だ。イザベラが、といってもお前には伝わらないか。社長が嫌がる」

「でも、俺、絵を盗んだんですよ、強盗したんです。刑務所に行って当然の人間です」


 レオが耳の横を面倒くさそうに掻いた。


「綺麗事はいい。さっさと吐け。そうしたら、お前をロレンツォに引き渡す」


 その瞬間、アンジェロの身体が硬直したのが、遠目から見ているサライでも分かった。


「それはっ、……困ります」


 声が裏返っている。まるで、悲鳴だ。


「ロレンツォの元に戻るより、刑務所の方がいいってことか?てめえは、人は殺してねえが、強盗の片棒を担いでんだぞ。しかも、異国で。懲役何年くらう気だ?!」

「いいです。それで」

「話が一向に進まねえ」


 レオがポケットから取り出したのは、手に平に収まるサイズの小銃だった。

 それを、躊躇なくアンジェロの額に向ける。


「話す気になったな?」

「いいえ」


 アンジェロがレオを見据え、毅然と答えた。

 今まで怯えていたのが噓のようだ。

 レオが重厚をアンジェロの額に完全に押し付けた。


「撃つぞ」

「どうぞ」


 お互いに本気、サライの目にはそう見えた。


「止めろ!止めろって!」


 ヨハネの部屋から出て、止めに入ろうとしたその最中。

 あっさりと引き金が引かれ、カチッという音だけがする。

 銃弾は装填されていなかったようだ。

 サライは膝の力が抜け、床にへたり込む。

 アンジェロは。身じろぎ一つしていなかった。

 どこにそんな度胸が?

 冗談と解っていたって、見知らぬ男に銃の引き金を引かれたら驚くはず。

 見ているこっちが肝が冷えた。


「クソガキ」


とレオが毒ずき、ポケットに小銃をしまった。

 そして、携帯をタップし、どこかに電話し始める。

 立ち上がって電話を止めさせようとするアンジェロは、レオにソファーに突き飛ばされる。

 アンジェロの方が背は高いが、レオの方がガタイがいい。小槌を一振りするだけの簡単なお仕事をしているくせに、ワイシャツをまくり上げた腕は太い。


「乱暴は止めとけって」
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