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第四章

81.本人?!数百年前に死んでんじゃねえか。やっぱ生まれ変わり設定なのかよ

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 マントヴァは十五世紀から十八世紀までイタリア北部に存在していた公国だ。


「イザベラのことを調べてんのか?どうしようもなく気位が高いお嬢さんだったろ?」

「お嬢さん?!それは置いておいて、まさか、生まれ変わりみたいな設定じゃねえだろうな」

「いいとこ付いてくるね」


 イザベラ・デステは、公国初期の立役者で、その当時の女性でありながら、政治家としての手腕を発揮。芸術にも秀でていて、手紙魔。そして、


「……ファッションリーダー」


 サライの常識を捻じ曲げて生まれ変わり設定があるとして、カーペット柄の服を着こなしているあれが?

 続いて、ジョン・エヴァレット・ミレイとチャールズ・ウィルソン・ピールを調べる。

 エヴァレットは自己紹介したとき、サライの無反応に、「僕らは無名なのか」と嘆いていたからだ。



 絵が出てきた。



 エヴァレットの方は、草花の生い茂る小川に歌を口ずさむような姿で沈みかけている少女。苔の匂いや湿度が伝わってきそうな感じがしてなんか不気味だ。

 絵のタイトルは知らないが、見たことはある。

 芸術方面に全く興味がない自分が知っているのだから、相当有名な絵であることは間違いない。

 チャールズの方は、昔のアメリカ大統領みたいな軍人肖像画。


「あいつら、絵描きと同じ名前」

「てか、本人」


 ヨハネが口を挟んできた。


「本人?!数百年前に死んでんじゃねえか。やっぱ生まれ変わり設定なのかよ」

「データを引き継いでるんだよ、魂が。だから、マテリアを出せる」

「女騎士と軍人を?」

「こいつらは多作だから、お前がどのマテリアのことを言ってるのかはボクには分かんない」

「本当に、絵から出てくるのか、そのマテリアってのは?」

「しつこいな。まだ疑ってんの?じゃあ、証拠とか見る?マテリアは、アージャーの一種。単体では戦士、レナトゥスから見れば、武器。ムカつくけど」

「アージャーってのは、エヴァレットが言っていた。レナトゥス?また新しい用語が……えっ?」


 ヨハネがベットにゲーム機を投げ捨て、腹の位置で手の平を上に向けた。

 そこに、明るい玉が浮かび上がる。

 ジリジリと音を立てる丸い玉は、内部に晩秋の空に走るような激しい雷。

 目を見開くサライに、ヨハネがニヤリと笑う。


「すげえだろ?猫猫ボールみたいだろ?あ、お前、知っている?」


 もちろん知っている。

 猫が封印されている七つの玉を集めて解放してやると、巨大な猫の神様が出てきて願いを叶えてくれる日本の漫画。自慢じゃないが限定フィギアだって持っている。
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