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第四章
80.イエスがあの男の犬?
しおりを挟む思いつくまま、まずはこいつから調べてみようと、ヨハネが二回繰り返し言った教会の名前を検索する。
ミラノ。サンタ・マリア・ディ・グラーチェ教会。
出てきた画像は、赤茶色のレンガで組まれたファザード(建物正面部分)。
結構立派な教会だ。
「内部には、でかい壁画?」
絵には興味がないサライでも知っている壁画だった。
横長の絵で青い衣を着た長髪の男が真正面にいる。
彼の脇で波で海が割れるような構図でどよめいているのが各六人。
たいてい、身振り手振りが激しい。
「最後の晩餐か」
イエスが、この中に裏切り者がいると言って、銀貨三十枚でイエスと売ろうとしているユダを暗に責めている瞬間を描いたもの。
描いた絵描きは、レオナルド・ダ・ビンチ。
そういえば、盗まれたサルヴァトール・ムンディも同じ絵描き。何だか、奇妙な一致だ。
描かれている十二使徒を順々に眺め、
「お前がいる」
イエスのすぐ隣で気を失いかけているようにも見える緩やかな長髪栗色巻き毛の若い人物。知識が無ければ女なのか男なの迷いそうだが、この人物は男だ。
名前はヨハネ。十二使徒の一人。
「これ、大昔の絵だろ?髪色は違うけれど、まるでお前をモデルにして描かれたみたい」
「着手は千四百九十五年。その三年後に出来上がった」
ヨハネがすらすら答える。
「ということは軽く五百年を超えている。こいつに似せたくて整形したのか?」
すると、ヨハネが盛大に吹き出した。
「どういう発想してんだよ?!これはボクだって」
「五百年以上前の絵だろ?!」
「そうだよ。ここから出てきたんだ」
『最後の晩餐』って、一大観光名所なはずだ。十二使徒が一人足りないってなったら、大騒ぎだろうが」
「戦いは主に夜。それに、今の時期は問題ねえの」
調べてみると、サンタ・マリア・ディ・グラーチェ教会の壁画は三度目の大規模な修復に入っていた。一年以上続くらしい。
「今回は背景まで直したいから、修復が終わるまで自由にしていいって言われてさ。たぶん、イエスしか壁画には残ってないんじゃないかな。あいつは、マエストロの犬みたいなもんだから」
イエスがあの男の犬?
理解不能だ。
「あとは、何だ?ええと」
意地悪そうな老女の顔が思い浮かんだ。
イザベラ・デステ。
「マントヴァの后妃と同じ名前?」
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