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第四章

76.経緯を話せ

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 居間を挟んでレオの寝室とは逆側に向かい、扉を開ける。見えたのはべット、リュック。脱ぎちらかした服。菓子の殻。とにかく汚いそこが、ヨハネの私室のようだ。

 ソファーに座るサライの真正面にやってきたレオが、話すのに相当の距離を保って壁にもたれ腕組みをした。手には携帯を持っている。


「ピエトロの件、残念だったな」


 祖父を失ってから初めて言われた慰めの言葉だった。

 不覚にも心に染みる。

 声を聞くだけで不愉快なのに。


「あんた、じいちゃんのただの顧客だろ。それも、ワインを売ってもらえない。何をやらかした?」


 しかし、レオは答えない。逆に質問してきて、サライの気を逆撫でた。


「未成年収容所では無事だったか?」

「ロレンツォ公の代理ってあんたか?」


 すると、レオが顎を軽く突き出し言った。


「経緯を話せ」

「は?」

「オークション会場で、ユディトはお前に狙いを定めていた。その経緯を話せ」


 質問を無視され、さらには上から目線の態度に、イラッとくる。


「あんたに話して、僕が得するとは思えない」


 腕組をしたレオが指先をトントンとせわしなく動かし始める。


「何だよ、その態度。あんたに関係ねえだろ」


 言い返すと、相手の眉がひくりと動いた。

 部屋に消えたはずのヨハネがひょいと顔を出し助け舟を出す。


「マエストロ。サライは、ロレンツォ公の死神姿も初めて見たようだ。何も知らねえから説明なんて出来ねえよ。小動物みたいに気が立っているし、扱い注意だ。けれど、ロレンツォ公が動いたってことは、危険が迫ってるってことだろ?それって、手元に置いて大切に監禁しとけって意味じゃねえの?」


「黙ってろっ!ヨハネ!」


 レオに怒鳴り声に近い声量で言われても、ヨハネは引かない。


「ハイレゾのヘッドホン」

「何の理由で買ってやらなきゃいけなんだ、オレが」

「素直に従え。じゃなきゃ、サライに一気に話す。こいつ、混乱するぜえ。頭がおかしくなるかもな。あ、そっちの方がいいか?気が狂ったサライを優しく慰めることができりゃあ、マエストロは約得だもんな」

 レオがこれでもかというぐらい険しい顔をしながら、


「型番」

「携帯にURLを送っとくぅ~」


 ヨハネがひらっと手を振って、私室の扉を締める。


(こいつらの上下関係は一体どうなっているんだ?全部話すって何をだ?)


 レオがサライと向き直る。

 だから、


「あ?何だよ」


と凄む。
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