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第二章

42.男と男の約束、いや、人間と死神の約束だ。万が一、破ったら

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「ちょっと待てよ。あんたが、イギリスまで僕を連れ出したんだろ。途中で放棄して他人に任すな」

「警戒しなくていい。君の知らない相手じゃないし、向こうは君のことをよく知っている」

「じゃあ、あんたはこれから何をする気だ?もう一仕事って言っていたけど。テレビの収録があるとか言わねえよな、こんなときに」

「息子と向き合う」


 声はいつものおどけた調子では無かった。

 大げさなことを言えば、別人と思えるぐらい。

 だが、死神は答えずズンズンと廊下を進んでいき、やがて立ち止まった。


「ここで私のベビーシッターは終わりだ。次は、中にいる男がする」


と言うと、サライの身長に合わせて中腰になり、空洞の双眸で見つめてきた。


「サライ。君に頼みが在る」


 双眸には引きずり込まれそうな闇が広がっている。


「アンジェロはね。私とバーントの死神が同一人物であることを知らない。何があっても、内緒にしてくれないか」


(あんた、実は本物の死神なんじゃねえの?)


 反発したい気持ちを抑えて黙って頷く。

 震えを抑えるので、精一杯だったからだ。


「いい子だ」


 死神が、サライを人形を操るみたいにくるりと回転させる。


「男と男の約束、いや、人間と死神の約束だ。万が一、破ったら」


 サライの喉元に何かが回る。

 側にあるだけでひんやりとした質感があるそれは、三日月型した刃物。

 死神の鎌の穂先がほんの少しサライの喉にめり込んだ。


「……っ」


 激痛が走る。

 刃物はハリボテじゃない。よく研がれた本物だった。

 そして、脅しも本当なのだろう。

 死神は、さっと鎌を上げる。

 そして、骨だらけの手で扉の取っ手を回し、サライの首の根っこを子猫みたいに摘んで部屋に放り投げた。
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