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第二章

29.違う違う。レオの隠し子

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 聞かれた方は、カラカラと笑いながら、


「違う違う。レオの隠し子」


 瞬間、室内がシーンとなった。


 黒髪の陽気な方が、

「彼が一人目だとして、あと何人いるんです?」

と本気顔でロレンツォに聞くと、性格の悪い大人は腹を抱えた。

「あはは。冗談だ。彼はサライ」



『まさか、ジャン・ジャコモ・カプロッティ?』



 二人の声が重なった。

 有名になった覚えはないのだが、身内しか知らない愛称をロレンツォが言った途端、彼らはサライの本名を答えた。

 一体何なんだ?

 それに、レオって?自分がそいつの隠し子なんてブラックジョークは止めて欲しい。

 ロレンツォと二人きりのときは威勢の良かったサライだが、途端、口数が少なくなる。

 初対面の人間は苦手なのだ。


 黙っていると青白い方が、自己紹介してきた。

「ええっと、サライって呼び方でいいのかな?僕は、ジョン・エヴァレット・ミレー。こっちは、チャールズ・ウィルソン・ピール」

「どうも」

 礼儀として挨拶する。

「僕の呼び方はサライじゃなく、本名の方で呼んでもらいたいんだけど」

 エヴァレットと名乗った方が、しんとなった。そして、「ねえ。チャールズ。彼からもう少し反応ってものがあってもいいと思わない?僕らあんまり有名じゃないのかな?」と黒髪の方に問いかける。


 サライの訴えは完全無視だ。


「ま、そういうことだ」

とロレンツォ。


 エヴァレットが慌てる。

「え?ってことは、この業界の知識が何も無いってことですか?てっきり、もうアージャーなのかと」

 アージャー?

 聞いたことも無い単語だ。

 それに、何なんだこいつら。自分らのことを知ってて当然みたいな言い方。


 サライは一気にエヴァレットのことが苦手になった。

(自己顕示欲が肥大しすぎた人間ってうぜえ)



 そう思っていると後ろから、刺々しい声が女の響いた。

「まあ!ようやくお出ましね」


 振り向くと、黒の下地に毒々しい蛍光ピンクの花が散るまるで安いカーペットみたいなツイード素材のジャケットとスカートを身に着けた女が、腰に手を当て立っている。


 顎ぐらいまでの白髪は綺麗はカールされ、振り乱したら武器になりそうな長い真珠のネックレスを首からぶら下げている。
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