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第七章

144:神様学校の宿題で、指定された社の掃除に

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 氷雨が携帯をスクロールしながら言った。
「夕方に、神様呉服店から荷物が届くって。オレは頼んだ覚えがないのだが」
「じゃあ、ラブマ神じゃね。悪尚宛に」
「なるほど。痒いところに手がとどく男だな、あいつは」
「なにそれ」
 家は追い出すくせに入学金は払ってくれる。神様の世界に連れてきて後悔していると言うくせに着物を贈ってくれる。
 冷たいのか優しいのか、もう尚に気持ちがあるのか無いのか測りかねる。
 義務としてやっているなら、徹底的に遠ざけて欲しかった。

 神様学校の入学式が十月に行われ、緊張していたのも最初のうちだった。
 式に来てくれたのは、氷雨と翠雨。時雨は体調不良で欠席だ。
 もともと来る気も無かったのかもしれない。
 氷雨と翠雨は、尚が知らなかっただけで目視できる神様の中でかなり高位な神様だそうで、周りから遠巻きにされていた。彼らが歩き出せば、人混みが割れ誰もが頭を下げた。
 随分な人たちと、自分は一緒にいるようだ。
 教室内部は、古い映画で見た明治時代の小学校みたいな造りで、木の机と椅子が並んだ机が一教室に二十個ほどある。
 同級生は、大抵は自然神。もしくは、人間の概念から生まれた神様たちで、皆、小学生ぐらいの見た目をしている。
 邪気が無さそうに見えて、実年齢は尚の何十倍も年上だ。
 神様は人間と違って、肉体的にも精神的にもゆっくり成長するらしい。
 見習い神様たちは、人間から神様になった尚の事が大層珍しいようだ。左目に眼帯をしているので、そういう見た目的な部分も含めて最初は遠巻きにしていたが、急に駆け出してコケたり、ケンカを始めたりするので、世話したり止めたりしているうちにいつの間にか尚の事を「兄ぃ(ニイ)」と呼び始め、慕ってくるようになった。
 ここにいると尚は、まるで生徒というより、学童保育の指導員みたいな感覚だ。
 彼らと一緒になって笑っていると、不思議な気分になってくる。
 一つ前の季節までは自分は人間で、新興宗教組織の教祖を殺そうとそれだけを考えていきてきた。
 実際に二人刺したし、その責任すら取らず神様になってしまった。
 罪悪感だって未だに感じられない。
 神様になった当初はそこまで引っかからなかったことが、ふとしたときに気になって、特に夜はそれで眠れなくなったりする。
 ようやく眠れたかと思えば、時雨の夢を見る。
 狂おしい夢だ。
 夢の中だと優しくしてくれるが、最後まではいかせてくれない。
 やっぱり、意地悪、いや、性悪だ。
 そんな夢を見た夜は必ず、五分割で送られきた動画を聞く。
 口に出したことは無いが、好きあった過去がある。前に進まなければならないのに思い出の中に生きていて、人間の頃と同じことを繰り返していて進歩無いなと思う。
 いや、新興宗教憎悪から、恋愛へと変化したのだから大躍進か?はたまた形を変えた執着?
 ぐるぐる巡りが始まって決まって尚は「自分が解らねえよ」と氷雨が貸してくれた社務所の一角の部屋で呟く。
 こんな感じで、日々の時間が過ぎていく。
「おはようございます。氷雨さん」
 クリスマスも過ぎ、一気に年末ムードになってきた。
 氷雨の神社の社務所に一角に住まわせて貰って、もう三ヶ月。
 家賃免除の代わりに境内の朝掃除をし、神様学校から帰った後は、翠雨の銭湯に清掃のバイトに行き、その後は御神地の野菜の収穫の手伝い。忙しいが時雨のことを考えないでいいぶん、ありがたい。 
 朝掃除が終わった後も、汚れてもいい質素な着物で掃除道具を持っている尚に、氷雨が聞いてくる。
「もう、冬休みだよな?そんな格好でどこへ行く?」
「神様学校の宿題で、指定された社の掃除に」
「ああ。もうそんな時期か」
 学校から渡されたリストを見ていると氷雨が懐かしそうに覗き込んでくる。
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