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2章:1週間、ルードと一緒です!

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 おれが自身のスキルのことを説明すると、サディアスさんもニコロも驚いた顔をした。それから、サディアスさんはルードに顔を向けて「他に知っている者は?」と問う。

「現時点では、私たちと神父のみです」
「話す予定が?」
「屋敷の者たちには話すつもりです。ヒビキは隠し事が苦手のようなので」

 そうだろうねぇ、とのんびりした返事がサディアスさんから聞こえた。ニコロは、屋敷の人たちもこのスキルのことを話すと聞いて、ほっと息を吐いた。ひとりで抱える秘密じゃないことに安心したようだ。

「それにしてもまさかの精霊の祝福、ですか……」
「確かに魔力の限界値を知らないと、使いすぎて倒れちゃうかもね」

 しみじみとそう言われて首を傾げる。魔法とスキルって別物じゃなかったっけ? ああ、でも精霊さんが関わっているから?

「ニコロ、ヒビキは治癒の精霊にも好かれている」
「へえ」
「……足を、治すことが出来るだろう」
「あ、これそういう流れだったんですね。なんで俺が誘われたのか、理解しました」

 おれが言い出す前にニコロを誘っていたけどね、ルードは。ニコロがサディアスさんを誘ったのはどうしてだかわからないけれど……。おれはニコロに顔を向ける。彼は迷っているように見えた。

「…………俺、今の仕事結構気に入っているんですけど、クビにしたりしません?」
「聖騎士団には戻らないの?」

 残念そうなサディアスさん。ニコロは「戻る気ありません」ときっぱり言った。

「三年も戦ってなかったんですよ? 腕鈍ってるって」
「……いや、そんなことを感じさせないナイフ捌きだったぞ」

 確かに、とうなずく。目には見えない信頼関係が築き上げられているんだなぁってしみじみ感じたもん。……そもそもニコロが戦っている姿を見るのは今日が初めてだしな、おれ。その場から動かずとも、ルードのことをしっかりと守っていた。

「いやだから戻りませんって。隊長、お願いですからクビにしないでくださいね!」
「あ、じゃあわたしの屋敷に来るとか!」
「断固拒否します!」

 サディアスさん、ニコロを屋敷に誘うの諦めたんじゃなかったのか……。隙があれば狙っていくスタイルなのかな、もしかして。そんな彼らのやり取りを、ルードは半ば呆れたように見ていた。

「それで、どうする? ニコロの決断に任せる」
「えええ、んなことを言われても……」

 困ったように眉を下げるニコロ。きっと今、色々葛藤しているんだと思う。そんな彼に近付いて、サディアスさんがニコロの肩を掴んだ。

「治してもらおう?」
「団長……」

 優しく微笑むサディアスさんに、ニコロは視線を逸らす。それから目を閉じて、ぶつぶつとなにかを呟き、一分もしないうちに目を開けておれへと視線を移す。サディアスさんの腕をポンポンと軽く叩くと、彼はニコロから手を離した。

「お願いしても良いですか?」
「もちろん。おれが言い出したことだし」
「では、ニコロ、そこに座って。ヒビキ、治癒魔法の使い方は知っているかい?」

 フルフルと首を横に振る。そう、と呟いてこの場に座ったニコロの傍で、彼の手を握るように言われて両手で彼の手を握った。

「基本的に生活魔法と変わらない。精霊に願うんだ」
「はい」

 うまくいきますように、と心の中で祈って、ニコロの手をぎゅっと握り目を閉じて数回深呼吸をしてから精霊さんにお願いした。
 ――治癒の精霊さん、お願いします。ニコロの怪我がすべて治りますように。そして、再び走れるようになりますように――……!
 温かいなにかが、ニコロに流れ込んでいくのがわかった。それはきっと一瞬のことだったけど、おれには数分くらいには感じた。温かさが消え、恐る恐る目を開けると、ニコロは信じられないものを見たような顔をしていた。

「……」

 ニコロから手を離すと、彼はすかさず立ち上がり屈伸を始める。それから近くを歩き回り、タンっと地面を蹴って軽く走り始めた。――これって、成功したってこと? ニコロがおれに向かって走ってきて、がしっとおれの手を取った。

「ありがとうございます!」
「ど、どういたしまして……?」

 ニコロがすごく嬉しそうに笑ったから、おれも笑う。そんなおれらの様子を、ルードとサディアスさんが微笑ましそうに見ていた。

「違和感とかないですか?」
「はい、むしろ元より調子が良いような気がします」

 ……そんな効果があるのかな?

「ニコロ、ちょっと失礼」

 サディアスさんがニコロの服を持ち上げる。わき腹を確認して、そっとそこに指を這わせた。驚いて硬直したニコロ。サディアスさんは、「消えてる」と言葉を発した。

「消えてる?」
「ここに傷跡があったんだけど……消えてるね。これも精霊の祝福の効果かもしれない」

 なんでサディアスさんがニコロのわき腹に傷跡があることを知っているんだろう、と野暮なことは聞かないようにしよう。ニコロは我に返るとバシッとサディアスさんの手を叩いて服装を戻した。

「過去の傷跡も治るとか、精霊の祝福って本当にすごいスキルですね……」
「いや、精霊の祝福でも治癒の精霊に好かれていないと出来ない気がする」
「スキルもでしょうか? 確か、倍増出来るんですよね」
「試してみようか?」

 こくりとうなずく。すると、ルードは手のひらを上にする。なにをするんだろうと手のひらをじっと見つめると、そこからなにかが出てきた!

「氷のツルギ――……、これが私のスキルだ」
「すごい、綺麗……」

 惚れ惚れするような氷の剣だった。ルードはそれを無造作に森に投げる。

「通常ならあのような剣が一本生まれるだけだ。ヒビキ、手を」
「はい」

 ルードの手をぎゅっと握る。そして、今度はルードのスキルがブーストしますようにって願った。すると――……。
 幾十もの、氷の剣が現れた!

「えっ、え!?」

 驚いて目を見開くおれに、ルードは器用に氷の剣をすべて森の中へと投げ入れた。氷の剣宙に浮いていたし! なんだこの効果! そしてよくわからないうめき声も聞こえた。

「あー、ナイスヒット? ちょっと行ってきます」
「気を付けて」
「わたしも行こうか?」
「いえ、大丈夫です」

 ニコロがそう言って足早にうめき声のしたほうへ向かった。視線で追うと、近くの茂みに入り淡い光が空へと吸い込まれていくのが見えた。さっき、ルードが同じことをしていたよな……スライム相手に。と言うことは、ルードは魔物を倒したってこと?

「あの光って?」
「……ルード、魔物のことを話していなかったのかい?」

 眉を下げて肩をすくめるサディアスさん。光が消えると、ニコロがおれらに駆け寄って来た。

「え、なんですかこの妙な雰囲気は……」

 漂うよくわからない雰囲気に、ニコロは眉間に皺を刻んだ。

「……魔物について、話すべきか否か」
「……そこは隊長の判断でお願いします」
「逆にヒビキさんは、どんなことを知っているの?」
「知っている……? えーと、聖騎士団にはある【力】がないと入れないってことくらいしか」

 前にニコロに聞いたことを思い出す。おれの言葉に、ルードはふむ、と顎に手を掛けて悩み始めた。どうしてそんなに悩んでいるんだろうと首を傾げると、ニコロとサディアスさんも少し考えているようだ。

「……聖騎士団員に必要な【力】、それは――……」
「【浄化の力】なんだ」

 ルードが口を開き、サディアスさんも言葉を継ぐように声を出す。ルードがとても言い辛そうにしていたからか、サディアスさんがぽんとルードの肩を叩いておれに顔を向けて淡々と口を開いた。

「魔物はね、狂った人間の果てなんだよ」
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