75 / 222
2章:1週間、ルードと一緒です!
34
しおりを挟むおれが自身のスキルのことを説明すると、サディアスさんもニコロも驚いた顔をした。それから、サディアスさんはルードに顔を向けて「他に知っている者は?」と問う。
「現時点では、私たちと神父のみです」
「話す予定が?」
「屋敷の者たちには話すつもりです。ヒビキは隠し事が苦手のようなので」
そうだろうねぇ、とのんびりした返事がサディアスさんから聞こえた。ニコロは、屋敷の人たちもこのスキルのことを話すと聞いて、ほっと息を吐いた。ひとりで抱える秘密じゃないことに安心したようだ。
「それにしてもまさかの精霊の祝福、ですか……」
「確かに魔力の限界値を知らないと、使いすぎて倒れちゃうかもね」
しみじみとそう言われて首を傾げる。魔法とスキルって別物じゃなかったっけ? ああ、でも精霊さんが関わっているから?
「ニコロ、ヒビキは治癒の精霊にも好かれている」
「へえ」
「……足を、治すことが出来るだろう」
「あ、これそういう流れだったんですね。なんで俺が誘われたのか、理解しました」
おれが言い出す前にニコロを誘っていたけどね、ルードは。ニコロがサディアスさんを誘ったのはどうしてだかわからないけれど……。おれはニコロに顔を向ける。彼は迷っているように見えた。
「…………俺、今の仕事結構気に入っているんですけど、クビにしたりしません?」
「聖騎士団には戻らないの?」
残念そうなサディアスさん。ニコロは「戻る気ありません」ときっぱり言った。
「三年も戦ってなかったんですよ? 腕鈍ってるって」
「……いや、そんなことを感じさせないナイフ捌きだったぞ」
確かに、とうなずく。目には見えない信頼関係が築き上げられているんだなぁってしみじみ感じたもん。……そもそもニコロが戦っている姿を見るのは今日が初めてだしな、おれ。その場から動かずとも、ルードのことをしっかりと守っていた。
「いやだから戻りませんって。隊長、お願いですからクビにしないでくださいね!」
「あ、じゃあわたしの屋敷に来るとか!」
「断固拒否します!」
サディアスさん、ニコロを屋敷に誘うの諦めたんじゃなかったのか……。隙があれば狙っていくスタイルなのかな、もしかして。そんな彼らのやり取りを、ルードは半ば呆れたように見ていた。
「それで、どうする? ニコロの決断に任せる」
「えええ、んなことを言われても……」
困ったように眉を下げるニコロ。きっと今、色々葛藤しているんだと思う。そんな彼に近付いて、サディアスさんがニコロの肩を掴んだ。
「治してもらおう?」
「団長……」
優しく微笑むサディアスさんに、ニコロは視線を逸らす。それから目を閉じて、ぶつぶつとなにかを呟き、一分もしないうちに目を開けておれへと視線を移す。サディアスさんの腕をポンポンと軽く叩くと、彼はニコロから手を離した。
「お願いしても良いですか?」
「もちろん。おれが言い出したことだし」
「では、ニコロ、そこに座って。ヒビキ、治癒魔法の使い方は知っているかい?」
フルフルと首を横に振る。そう、と呟いてこの場に座ったニコロの傍で、彼の手を握るように言われて両手で彼の手を握った。
「基本的に生活魔法と変わらない。精霊に願うんだ」
「はい」
うまくいきますように、と心の中で祈って、ニコロの手をぎゅっと握り目を閉じて数回深呼吸をしてから精霊さんにお願いした。
――治癒の精霊さん、お願いします。ニコロの怪我がすべて治りますように。そして、再び走れるようになりますように――……!
温かいなにかが、ニコロに流れ込んでいくのがわかった。それはきっと一瞬のことだったけど、おれには数分くらいには感じた。温かさが消え、恐る恐る目を開けると、ニコロは信じられないものを見たような顔をしていた。
「……」
ニコロから手を離すと、彼はすかさず立ち上がり屈伸を始める。それから近くを歩き回り、タンっと地面を蹴って軽く走り始めた。――これって、成功したってこと? ニコロがおれに向かって走ってきて、がしっとおれの手を取った。
「ありがとうございます!」
「ど、どういたしまして……?」
ニコロがすごく嬉しそうに笑ったから、おれも笑う。そんなおれらの様子を、ルードとサディアスさんが微笑ましそうに見ていた。
「違和感とかないですか?」
「はい、むしろ元より調子が良いような気がします」
……そんな効果があるのかな?
「ニコロ、ちょっと失礼」
サディアスさんがニコロの服を持ち上げる。わき腹を確認して、そっとそこに指を這わせた。驚いて硬直したニコロ。サディアスさんは、「消えてる」と言葉を発した。
「消えてる?」
「ここに傷跡があったんだけど……消えてるね。これも精霊の祝福の効果かもしれない」
なんでサディアスさんがニコロのわき腹に傷跡があることを知っているんだろう、と野暮なことは聞かないようにしよう。ニコロは我に返るとバシッとサディアスさんの手を叩いて服装を戻した。
「過去の傷跡も治るとか、精霊の祝福って本当にすごいスキルですね……」
「いや、精霊の祝福でも治癒の精霊に好かれていないと出来ない気がする」
「スキルもでしょうか? 確か、倍増出来るんですよね」
「試してみようか?」
こくりとうなずく。すると、ルードは手のひらを上にする。なにをするんだろうと手のひらをじっと見つめると、そこからなにかが出てきた!
「氷の剣――……、これが私のスキルだ」
「すごい、綺麗……」
惚れ惚れするような氷の剣だった。ルードはそれを無造作に森に投げる。
「通常ならあのような剣が一本生まれるだけだ。ヒビキ、手を」
「はい」
ルードの手をぎゅっと握る。そして、今度はルードのスキルがブーストしますようにって願った。すると――……。
幾十もの、氷の剣が現れた!
「えっ、え!?」
驚いて目を見開くおれに、ルードは器用に氷の剣をすべて森の中へと投げ入れた。氷の剣宙に浮いていたし! なんだこの効果! そしてよくわからないうめき声も聞こえた。
「あー、ナイスヒット? ちょっと行ってきます」
「気を付けて」
「わたしも行こうか?」
「いえ、大丈夫です」
ニコロがそう言って足早にうめき声のしたほうへ向かった。視線で追うと、近くの茂みに入り淡い光が空へと吸い込まれていくのが見えた。さっき、ルードが同じことをしていたよな……スライム相手に。と言うことは、ルードは魔物を倒したってこと?
「あの光って?」
「……ルード、魔物のことを話していなかったのかい?」
眉を下げて肩をすくめるサディアスさん。光が消えると、ニコロがおれらに駆け寄って来た。
「え、なんですかこの妙な雰囲気は……」
漂うよくわからない雰囲気に、ニコロは眉間に皺を刻んだ。
「……魔物について、話すべきか否か」
「……そこは隊長の判断でお願いします」
「逆にヒビキさんは、どんなことを知っているの?」
「知っている……? えーと、聖騎士団にはある【力】がないと入れないってことくらいしか」
前にニコロに聞いたことを思い出す。おれの言葉に、ルードはふむ、と顎に手を掛けて悩み始めた。どうしてそんなに悩んでいるんだろうと首を傾げると、ニコロとサディアスさんも少し考えているようだ。
「……聖騎士団員に必要な【力】、それは――……」
「【浄化の力】なんだ」
ルードが口を開き、サディアスさんも言葉を継ぐように声を出す。ルードがとても言い辛そうにしていたからか、サディアスさんがぽんとルードの肩を叩いておれに顔を向けて淡々と口を開いた。
「魔物はね、狂った人間の果てなんだよ」
22
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる