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第18話 瘴気と聖女
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「まあ二人の想いが通じ合ったのなら良かったけど、所構わずイチャイチャするのはやめとけよ?」
そう言いながらニヤッとするルースに苦笑しているレオン。こ、これは俺を助けるために皆の前でキスしまくってたことを言っているのか!? レオンだな! ルースに喋ったな!
ぼふっと顔が熱くなったのが分かった。しかしライルは「フン」と相変わらずの仏頂面。
ルースは立ち上がるとライルの肩にポンと手を置き、意味深な笑顔を向けた。
「壊さない程度にな」
そう言って笑いながら手をひらひらとさせ去って行った。その言葉にレオンは真っ赤になり俺とライルをチラッと見た。そして目が泳ぎながらアハハと笑い、ルースと共に去った。
え、な、なに今の……それってまさか……あの日のことが……? バレ、てる?
「!!!!」
声にならない悲鳴が部屋中に響き渡ったのだった……。
俺の体調が落ち着いてからシナード宰相に報告のため面会をしに行った。もちろんライルも一緒に行ったのだが、終始ずっと不機嫌だ。それもそのはずルースが言っていたことが的中したからだ。
シナード宰相は俺を聖女として扱わない方向で行きたいということだった。
「今回は本当にショーゴ殿には感謝している。でもだからこそショーゴ殿を『聖女』としたくないのだよ」
「はあ」
なんとも間抜けな返事になってしまった。ライルは俺の横でイライラしてそうだ。しかし今回ライルには口は出さないで欲しいと頼んだ。聖女だろうが聖女じゃなかろうが、俺は俺の考えで動きたかったから、もし聖女として扱われて不便があるのならば聖女じゃなくていい。
それは宰相との意見が合致してしまった。ライルからしてみれば納得いかないだろうが、今さら聖女として崇められてもね。
「ショーゴ殿のおかげだ。しかし今回いつもの聖女のように『少女』ではなかった理由はなんなのだろうか」
俺に説明がしたいのか、ライルの怒りを鎮めるためなのか、シナード宰相は自分の見解を話し出す。
「元々私は『聖女』というものほど不確かなものはないと思っている。自然に現れるならともかく、わざわざ膨大な魔力と金を費やして行う召喚の儀式。それを行わねばならない、ということはそもそもなにか理由があり聖女が現れないのではないのか? しかも今回現れたのは『男』だった」
シナード宰相はさも愉快そうに笑った。
「これが笑わずにいられるかい? なんの冗談だと思ったよ。神の悪戯なのか」
クックックッと喉を鳴らす。
「確かになにか意味があって『男』の俺が召喚されたのかもしれない。それに……」
もう一つ気になることがある。シナード宰相は俺が言いたいことが分かったのか、真面目な表情に戻り俺を真っ直ぐに見据えた。
「瘴気の森のことかい?」
「えぇ……あの宝石が放つ瘴気には人々の悪意が集まっていた。その悪意が大量に集まり淀みを作り宝石となって瘴気を放っていた。今回それを浄化は出来たけど……人の悪意ってそんな簡単になくなるものですかね?」
シナード宰相は考え込み、ライルは驚愕の顔となった。
「そもそもなぜあそこに悪意が集まるようになったのか……その原因を突き止めそれを根絶しない限り、結局また同じことを繰り返すんじゃ……」
ぼんやりと思っていたことが、今回の浄化を終えて、はっきりと意識するようになった。どうしてあの場に悪意が集まるのか、人々の悪意はなくなるものなのか……聖女が浄化して解決ならば、なぜ再び瘴気が溢れるんだ……。それがずっと引っ掛かっていた。
「ふむ、確かにな……原因が根絶されないから瘴気は繰り返す……そのたびに聖女が現れるわけか……」
ライルは思い切り嫌そうな顔をした。
「それをお前が調べる必要はない!!」
「「…………」」
ライルの剣幕に俺もシナード宰相も茫然とライルを見たが、ライルはきっと俺の言葉が分かるからこそ余計に怒っているんだろうな。
「ライル……ありがと。でも俺は、俺自身が気になるんだ……なぜ『男』の俺が召喚されたのか。それはなにか理由があるんじゃないか、それは瘴気とも関係しているんじゃないかって……」
瘴気を浄化するために現れる『聖女』。それが今回現れなかった。現れなかったというよりもこの世界にいなかったから。だから召喚の儀式を行った。しかしわざわざ召喚をしてまで連れてきたのが『男』だった。それはなにか理由があるとしか思えない。
「だから俺が調べたい」
「ショーゴ……」
ライルは悲痛な顔をする。心配をかけてばかりだな。ごめん、ライル……。
「ショーゴ殿はそれでいいのだな? 君が自由に動くというのなら、君を聖女として報告は出来ない。聖女としてしまってはクリストフ殿下の管轄となってしまうからね」
シナード宰相は苦笑しながら言った。
「はい。俺は縛られたくないです。自由に動きたい」
「ふむ、ではショーゴ殿の意見を尊重しよう。今回の浄化報告は私のほうから上手く言っておくよ」
満足そうなシナード宰相と、それに反してめちゃくちゃ不機嫌な顔のライル。あぁ、このあとめちゃくちゃ怒られるんだろうな……。
そう思っていたがライルは何も言わなかった。
シナード宰相との面会を終え、部屋へ戻る道中、ライルはずっと無言だった。
「ライル……怒ってる?」
おずおずと聞いてみると、ライルはピクリと身体を反応させ立ち止まった。そして振り向くと相変わらずの仏頂面だが、そこに怒りは感じなかった。
「お前は…………はぁぁあ」
なにかを言おうとしたライルは言葉を詰まらせ、盛大な溜め息を吐いた。
「私はお前が聖女だろうがそうでなかろうが、なんのために召喚されたのかとか、そんなことはどうでもいい。私が好きになったのは聖女ではない。ショーゴだ。お前だからだ。それだけは忘れるな」
「ライル……ありがとう」
ライルの言葉がこんなにも嬉しい。思わず涙が出そうだった。
俺自身の存在を肯定してくれて、聖女とか関係なく一人の人間として好きになってくれた。
この世界に連れて来られて、必要ないと言われて、どうしたらいいのか分からなかった日々。元の世界でも自分の存在意義など分からなかった。ただ毎日同じことを繰り返していた日々だった。
でも今ライルに求められ、自分の存在をこれほど必要としてくれている人がいる。それがどれほど嬉しいことなのか、こちらの世界に来て初めて知った。
ライルは俺の頬に手を伸ばし、そっと撫でると諦めたようにフッと笑った。
「無茶だけはするな」
「うん……ありがとう」
そう言ってライルは優しく唇を重ねた。
そう言いながらニヤッとするルースに苦笑しているレオン。こ、これは俺を助けるために皆の前でキスしまくってたことを言っているのか!? レオンだな! ルースに喋ったな!
ぼふっと顔が熱くなったのが分かった。しかしライルは「フン」と相変わらずの仏頂面。
ルースは立ち上がるとライルの肩にポンと手を置き、意味深な笑顔を向けた。
「壊さない程度にな」
そう言って笑いながら手をひらひらとさせ去って行った。その言葉にレオンは真っ赤になり俺とライルをチラッと見た。そして目が泳ぎながらアハハと笑い、ルースと共に去った。
え、な、なに今の……それってまさか……あの日のことが……? バレ、てる?
「!!!!」
声にならない悲鳴が部屋中に響き渡ったのだった……。
俺の体調が落ち着いてからシナード宰相に報告のため面会をしに行った。もちろんライルも一緒に行ったのだが、終始ずっと不機嫌だ。それもそのはずルースが言っていたことが的中したからだ。
シナード宰相は俺を聖女として扱わない方向で行きたいということだった。
「今回は本当にショーゴ殿には感謝している。でもだからこそショーゴ殿を『聖女』としたくないのだよ」
「はあ」
なんとも間抜けな返事になってしまった。ライルは俺の横でイライラしてそうだ。しかし今回ライルには口は出さないで欲しいと頼んだ。聖女だろうが聖女じゃなかろうが、俺は俺の考えで動きたかったから、もし聖女として扱われて不便があるのならば聖女じゃなくていい。
それは宰相との意見が合致してしまった。ライルからしてみれば納得いかないだろうが、今さら聖女として崇められてもね。
「ショーゴ殿のおかげだ。しかし今回いつもの聖女のように『少女』ではなかった理由はなんなのだろうか」
俺に説明がしたいのか、ライルの怒りを鎮めるためなのか、シナード宰相は自分の見解を話し出す。
「元々私は『聖女』というものほど不確かなものはないと思っている。自然に現れるならともかく、わざわざ膨大な魔力と金を費やして行う召喚の儀式。それを行わねばならない、ということはそもそもなにか理由があり聖女が現れないのではないのか? しかも今回現れたのは『男』だった」
シナード宰相はさも愉快そうに笑った。
「これが笑わずにいられるかい? なんの冗談だと思ったよ。神の悪戯なのか」
クックックッと喉を鳴らす。
「確かになにか意味があって『男』の俺が召喚されたのかもしれない。それに……」
もう一つ気になることがある。シナード宰相は俺が言いたいことが分かったのか、真面目な表情に戻り俺を真っ直ぐに見据えた。
「瘴気の森のことかい?」
「えぇ……あの宝石が放つ瘴気には人々の悪意が集まっていた。その悪意が大量に集まり淀みを作り宝石となって瘴気を放っていた。今回それを浄化は出来たけど……人の悪意ってそんな簡単になくなるものですかね?」
シナード宰相は考え込み、ライルは驚愕の顔となった。
「そもそもなぜあそこに悪意が集まるようになったのか……その原因を突き止めそれを根絶しない限り、結局また同じことを繰り返すんじゃ……」
ぼんやりと思っていたことが、今回の浄化を終えて、はっきりと意識するようになった。どうしてあの場に悪意が集まるのか、人々の悪意はなくなるものなのか……聖女が浄化して解決ならば、なぜ再び瘴気が溢れるんだ……。それがずっと引っ掛かっていた。
「ふむ、確かにな……原因が根絶されないから瘴気は繰り返す……そのたびに聖女が現れるわけか……」
ライルは思い切り嫌そうな顔をした。
「それをお前が調べる必要はない!!」
「「…………」」
ライルの剣幕に俺もシナード宰相も茫然とライルを見たが、ライルはきっと俺の言葉が分かるからこそ余計に怒っているんだろうな。
「ライル……ありがと。でも俺は、俺自身が気になるんだ……なぜ『男』の俺が召喚されたのか。それはなにか理由があるんじゃないか、それは瘴気とも関係しているんじゃないかって……」
瘴気を浄化するために現れる『聖女』。それが今回現れなかった。現れなかったというよりもこの世界にいなかったから。だから召喚の儀式を行った。しかしわざわざ召喚をしてまで連れてきたのが『男』だった。それはなにか理由があるとしか思えない。
「だから俺が調べたい」
「ショーゴ……」
ライルは悲痛な顔をする。心配をかけてばかりだな。ごめん、ライル……。
「ショーゴ殿はそれでいいのだな? 君が自由に動くというのなら、君を聖女として報告は出来ない。聖女としてしまってはクリストフ殿下の管轄となってしまうからね」
シナード宰相は苦笑しながら言った。
「はい。俺は縛られたくないです。自由に動きたい」
「ふむ、ではショーゴ殿の意見を尊重しよう。今回の浄化報告は私のほうから上手く言っておくよ」
満足そうなシナード宰相と、それに反してめちゃくちゃ不機嫌な顔のライル。あぁ、このあとめちゃくちゃ怒られるんだろうな……。
そう思っていたがライルは何も言わなかった。
シナード宰相との面会を終え、部屋へ戻る道中、ライルはずっと無言だった。
「ライル……怒ってる?」
おずおずと聞いてみると、ライルはピクリと身体を反応させ立ち止まった。そして振り向くと相変わらずの仏頂面だが、そこに怒りは感じなかった。
「お前は…………はぁぁあ」
なにかを言おうとしたライルは言葉を詰まらせ、盛大な溜め息を吐いた。
「私はお前が聖女だろうがそうでなかろうが、なんのために召喚されたのかとか、そんなことはどうでもいい。私が好きになったのは聖女ではない。ショーゴだ。お前だからだ。それだけは忘れるな」
「ライル……ありがとう」
ライルの言葉がこんなにも嬉しい。思わず涙が出そうだった。
俺自身の存在を肯定してくれて、聖女とか関係なく一人の人間として好きになってくれた。
この世界に連れて来られて、必要ないと言われて、どうしたらいいのか分からなかった日々。元の世界でも自分の存在意義など分からなかった。ただ毎日同じことを繰り返していた日々だった。
でも今ライルに求められ、自分の存在をこれほど必要としてくれている人がいる。それがどれほど嬉しいことなのか、こちらの世界に来て初めて知った。
ライルは俺の頬に手を伸ばし、そっと撫でると諦めたようにフッと笑った。
「無茶だけはするな」
「うん……ありがとう」
そう言ってライルは優しく唇を重ねた。
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