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第17話 甘い朝

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 ガヤガヤと外から物音が聞こえだし、薄っすらと目を開けると、窓からは眩しい光が差し込んでいた。すっかり朝のようだ。
 頭がボーッとしているが、温かい腕に抱き締められていることで、昨日のことを思い出し一気に顔が火照る。振り向くと顔がぶつかりそうな近さでライルの顔があった。
 超絶美形のライルの寝顔。身体をよじりライルのほうに向きなおす。

 綺麗な顔だな……こんな綺麗な男に俺は抱かれたのか……

 思い出すだけで恥ずかしさで死にそうになる。あれから何度も抱かれ、最後には気を失ってしまったようだ。どうやって眠ったのか覚えていない。あれだけ抱き合ったのにベッドは綺麗になっているようだし、俺もライルも下半身には服を着ている。ということはだ、ライルがおそらくベッドを綺麗にしてくれ、身体も清め服を着せてくれたという訳か……。

 出来すぎた男だな……。甲斐甲斐しく色々と後処理してくれたのかと想像するとおかしくてクスッと笑ってしまった。

 上半身裸のライル。その綺麗な胸板にそっと手を触れる。すべすべとしていて、しかし男らしい身体付きに、さらにはこの色気……男なのに……見ているだけで変な気分になりそうだ……。

「ん」

 さわさわと触っていたことでライルが反応してしまい、朝っぱらから色っぽい声が!

 慌てて手を離すと、ライルがむぎゅっと抱き締めてきた。

「もうおしまいか?」

「!!」

 耳元で色気のある声で囁かれビクッとなる。

「お、起きてたのか!?」

 焦った俺の反応を楽しむように、クスッと笑うライル。

「いや? ショーゴが誘うように触り出すから目が覚めた」

「誘ってないし!!」

 慌てて反論すると、ライルはハハと声を上げて笑った。

「笑った……」

「?」

 抱き締められながらライルの顔を見詰める。初めて見るライルの笑顔。軽く口先だけで笑うだけじゃない、本当の笑顔……。

「可愛いな」

「!?」

 本当に可愛く思ってしまったのだから仕方ない。ライルの笑顔は一瞬で終わってしまったが、驚いた顔になり、そして真っ赤な顔になったかと思うと「そうか」とだけ小さく呟き顔を逸らした。

 それがあまりに可愛く思ってしまい、愛おしくなった。

「ライル、好きだよ」

 ライルの顔を両手で包み込み、ちゅっと唇を合わせ微笑んだ。ライルは驚いた顔をしたが、すぐさま嬉しそうな顔になり、同じように唇を合わせ「私もお前が好きだ」と呟いた。



 そんな信じられないほど甘ったるい朝を迎え、さあ起きようかとなったが、俺の身体はベッドから起き上がることは出来なかった……。


「ライル、今日城へ戻る予定でいいか? ショーゴの様子はどうだ?」

 部屋がノックされ、レオンの声がした。
 本来なら浄化を終え、今日城へ帰還する予定だった。

「いや、ショーゴがまだ回復していない。今日もう一日だけ休んでいく。お前たちは先に戻っていい」

「え! ショーゴ、まだ回復していないのか!? 大丈夫か!? ちょっと様子を……」

「私がいるから大丈夫だ。城に戻れ」

「え、え、ちょ、ちょっと、ライル!」

 ライルはレオンをぐいぐいと扉の外に追い出した。

 回復していない……いや、回復はしたんだよ! 回復はしたんだけど……そのあとに……抱かれ過ぎて足腰立たなくなったとは言えない……しかも身体中キスマークだらけ……ひぃぃい。

 結局その日一日俺は身動き取れないほどだった。ライルは甲斐甲斐しく俺の世話をやいた。食事を運び身体を拭き、そしてキスを繰り返す……お互いそういう雰囲気にもなったが、さすがに昨晩あれだけ抱かれた後となると、ライルもやり過ぎたと反省したようで、必死に我慢をしてくれているようだった。
 それがまた可愛く思えてしまうから重症だな。

 結局俺は翌日になってようやく動けるようになった。それでも馬での長距離移動は色々キツかったのだが……。



 城へ戻ってからしばらくは穏やかな日々となった。レオンやルースが心配してくれ、部屋に面会しに来てくれたりしていた。
 そこで聞いた話だがレオンたち魔導騎士団の皆は城への帰還前に瘴気の森へ最終確認をしに行ってくれたそうだ。
 森は完全になくなり更地となり、辺り一面なにもない状態。瘴気らしきものも見当たらず、魔物の気配もない。浄化は完了したと宣言して問題ないだろう、とのことだった。

「そうなんだ、良かった」

「あぁ、本当に良かったよ。浄化もだが、ショーゴが無事で本当に良かった」

 レオンはおそらく心から俺の回復を心配してくれていたのだろう。なんだか申し訳なく……チラリとライルを見ると平然な顔をしている……こいつ、本当に顔色変わらないな。俺なんか気まずくて仕方ないってのに。

 そんな俺の心境がバレたのかルースはなんだかニヤニヤとしている。

「体調が落ち着いたらシナード宰相に報告だけは行ってもらいたい」

 レオンは申し訳なさそうにそう言ったが、まあそれは当然だろう。しかしライルはめちゃくちゃ不機嫌な顔になった。

「ライル、大丈夫だよ。元々城に戻ったら行くつもりにしていたし」

 安心させるつもりでそう言うと、ライルは心配そうな顔で、俺の頬に手を伸ばし優しく撫でたかと思うと熱い眼差しを向けた。

「あ、あー、その、ショーゴのこれからなんだが……」

 ハッ! ライルがあまりに自然と甘い雰囲気を出すものだから危うく流されるところだった! レオンとルースが目の前にいるのに!

「なんだ」

 ライルが邪魔するなとばかりにレオンを睨んでいる。いやいやいや、今はちょっと!

「ショーゴが今後聖女として扱われるのかどうかの話だよ」

 ルースが笑いを堪えながらレオンの代わりに答えた。その言葉にライルはピクリと反応した。そしてさらに不機嫌な顔に。

「どういうことだ。ショーゴは聖女ではないのだろう」

 怒りが滲み出るかのような低い声でライルは言う。

「そんな怒るな。あのときは確かに聖女ではないと判断した。それは間違いでないと思うし、あのときはそうとしか判断出来なかったんだよ」

 この国の人々と違う魔力を持っていて『女』であったなら、おそらくきっとすぐさま『聖女』として扱われていたのだろう。しかし俺は『男』だった。
 だからルースの言う、「判断出来なかった」というのは正しいと思うし、仕方ない話だと思う。だから俺自身はもうそのことについては怒りもない。

 でもライルはきっと怒ってくれているんだよな。俺が国の都合でいいように使われていることに怒ってくれているんだ。国にいいように扱われようが、ライルが傍にいてくれたら俺はそれでいい。大丈夫だ。きっとどんなことでも耐えられる。そう思えた。

「私はショーゴを聖女として国に認めさせたほうがいいと思う。しかしシナード宰相はおそらく反対のことを言うのではないかと思う」

 先程までニヤニヤとしていたのに、急に真面目な顔になってルースは言う。

「どういうことだ」

「私はショーゴの立場を上げるためにも聖女としたほうが良いと思う。国から保証や保護をしてもらえるしな。しかしシナード宰相は元々『聖女』に関しては懐疑的だ。だから今回もショーゴが聖女ではないと判断されても特に気にすることはなかった。逆にショーゴを自分が使いやすいように『ただの異世界人』にしていたかったと思うんだ」

「…………」

「シナード宰相は聖女ではないただの異世界人に瘴気の調査をさせ、たまたま浄化の力を持った異世界人がたまたま瘴気を浄化出来た。そういう判断だ。だから国にもまだ報告はしていないみたいだし。ショーゴの名は伏せ、新たな浄化魔法が発見されたから浄化出来た、とでもするんじゃないかな」

「なんだと!!」

 ライルはガタッと立ち上がる。レオンが「落ち着け」とライルを宥めてくれる。

「ショーゴはあまり怒ってないね?」

 ライルが怒ることは想定内だったのだろう、しかし俺が大して怒っていないことは想定外だったのか、ルースは俺を不思議そうな顔で見た。

「うーん、まあそうなるだろうな、と」

 俺が宰相の立場でもそうするんじゃないかな、と思ったし。聖女にしてしまい、自由に扱えないよりは、聖女ではないただの異世界人のほうが使い勝手がいいのは当然だよな、とも納得する。まあだからといって不愉快にならないということはないが。

「お前は! もっと怒れ!!」

 ライルは怒りのままに俺に対しても怒鳴った。俺が宰相からの要求をなんでも受け入れているからもどかしいんだろうなぁ。

「ハハ、ライルが怒ってくれるから俺は大丈夫だよ」

「ショーゴ……」

 ライルは複雑そうな表情で俺を見詰め、俺の頬を撫でると、耳たぶをそっと掴みさわさわと撫でた。

「おーい、そこ、イチャイチャしないでくれる?」

 レオンは赤い顔で顔を背け、ルースはシラーッとした顔でこちらを見詰め、めんどくさそうに呟いた……。
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