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第10話 兄
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今後どうしていくかは話し合っていこうということで、宰相との面会は終わった。
「またあそこへ行くつもりか?」
ライルは眉間に皺を寄せながら聞いた。
「うーん、いずれまた行くことにはなるだろうなぁ」
あのとき何かを感じた気がするんだよな……なんだったか……なにか……
「むぐっ」
そう考え込んでいたとき、いきなりライルに引っ張られたかと思うと唇を塞がれた。そして腰を抱かれ引き寄せられる。
「んん! ぷはっ! な、なんだよ! 急にこんなところで!」
ライルの胸に手を置き、なんとか身体を離そうとするがびくともしない。そして再び唇を押し当てられる。
「んん! だ、だからな、んぐっ!」
くちゅっと音を立てながら舌を挿入され、口内を刺激される。だ、ダメだ……このままじゃいつものようになし崩し的にあのエロいキスになっていってしまう……。こんなところで……誰に見られるか分からん場所で!
「んふっ、ん、はぁ……あ……ちょ! い、いい加減に……!」
舌を追われそうになる前にライルの胸倉を掴み、ちゅぽんと音を立てながら無理矢理唇を離すと、勢いに任せライルの首筋に噛み付いた!
「!?」
襟よりも上に噛み付いてしまったため、唇が直接ライルの肌に触れた。そのままの勢いで首元を舐めてしまい、ライルから色っぽい声が聞こえる。
「な、なにを!! ん……」
やったのは自分なのにその声に驚き思わず口を離す。
「へ、変な声出すな!!」
「なんのことだ。私はショーゴの気持ちよさげな声しか聞いていないが?」
「!! き、気持ちよくなんかなってない!」
「そうか?」
しれーっとしているライルが腹立つ!! なんで俺ばかりこんな振り回されてんだ!
「そもそもなんでこんなところでいきなりキ……」
思わず大声で叫んでしまい慌てて周りを見回し確認しようとした瞬間……
「ライル?」
ドキィィィィイイイッ!!
背後から男の声が聞こえ、心臓が止まるかと思った!!
み、見られてないよな?
恐る恐る振り向くと、明らかに貴族と思われる、身なりの整った優し気な男が立っていた。ライルの名を呼んだことからライルと知り合いなのだろうということは容易に想像はついたが、なんだろう、誰かに似ているような……。
「兄上……」
「兄上!?」
兄!? ライルの!? あ、それで誰かに似ていると思ったのか。ライルよりも少し長い黒髪に青い瞳。ライルは精悍な顔付だが、この人はライルに似てはいるがもっと優し気な顔だ。
「なぜ城に……」
「今日は少し用事があってね。それよりも……」
ライル兄は俺をチラリと見た。そしてにこりと微笑むと胸に手を当て挨拶をした。
「私はライルの兄、ルフィシス・ギルダンドルと申します。ギルダンドル侯爵家の当主をしております。弟が共にいるということはもしやショーゴ様でいらっしゃいますか?」
「え、あ、はい……」
「やはりそうでしたか。弟はちゃんと貴方様をお守り出来ておりますか?」
兄の顔で心配そうに聞いてくる。ハハ、優しそうな兄ちゃんだな。そう微笑ましく思い、チラリとライルの顔を見ると、ライルは冷たい表情となっていた。あのダウバの食堂での会話を思い出す。あのときもなぜかライルは兄の話題のときには冷たい表情となっていた。
そして俺が返事をする前にライルは俺の前へと一歩踏み出すと、なぜか背後に俺を庇った。
「私はちゃんと仕事はしておりますのでご心配なさらなくても大丈夫です……行くぞ」
それだけ言うとライルは俺の腕を掴みぐいっと引っ張った。
「えっ、あ、え? あ、あのすみません! ライルはしっかり守ってくれてますから!」
ぐいぐいと引っ張られ引きずられるように連れて行かれる。振り返るとルフィシスさんは一瞬驚いた顔をしたが、クスッと笑い少し寂しそうな笑顔で見送っていた。
ずりずりと引っ張られ歩きづらい。
「ちょっと! ライル、どうしたんだよ?」
「…………」
無言のまま手を引かれ、部屋へとたどり着くと、ライルはぎゅうっと俺を抱き締めた。俺の肩に顔を埋め、表情が見えない。
「ど、どうしたんだ?」
俺には兄弟がいないから分からないが、大人になると兄弟も疎遠になるもんなのか? しかしあんな表情になるって……お兄さんとなにか確執でもあるんだろうか……。
俺の肩に顔を埋めて抱き付いてくるライルがなんだか小さい子供のようで、思わず頭を撫でた。思っていたよりも柔らかい髪はふわふわとして気持ちがいい。
ライルはぴくりと反応したが、その手を拒むことはなかった。
いつもならば「魔力を送るためだ」とか言いやがって毎晩寝る前にもキスしてくるくせに、なぜかこの日はキスをすることもなく、ただ抱き締められて眠った。
い、いや、別にキスされたい訳じゃないが! いつもされているとなんで今日はないんだ? って思うだろ! 普通!
俺を抱き締め眠るライルの寝顔……端正な顔立ちは寝ていようが綺麗だ。まじまじと間近で見詰め、改めてとんでもない美形だな、と思う。
ライルの首元に顔を埋めると、ライルの匂いが心地好く感じる。慣れ親しんだ匂いに安心する……って、べ、別に慣れ親しんでない!
あぁ、くそっ。瘴気の森で倒れて、あの処置をしてもらってから、なんかやたらライルを意識するようになってしまっている! 男に!! しかもあれ以来なんだかやたらとライルの距離感が近くなった気がするんだよな……。
俺に他の人間が近付くのを極端に嫌がるし、なにかにつけ身体に触れてくる。さらにはキ、キスまでやたらとしようとしてくるし! かと思えば、さっきみたいに子供のように甘えてくる。
ライルって俺のこと、好きなのか……?
俺自身見た目は悪いほうではないと思う。しかしこの超絶イケメンの傍では雑草レベルだ。
日本にいたころは周りの人間にも好かれていたほうだとは思う。彼女もそれなりにはいた。しかし性格のせいなのか、いつも振られて終わる。彼女たちは「優しそう」と言って付き合い出すのに、しばらくすると必ず皆「優しいけれどつまらない」と言う。友達としては良いが彼氏としては刺激がなさすぎるらしい。いわゆる良い人止まり。
それゆえライルが俺を好きかも? とか思うのもおこがましい。想像するほうが失礼だろ、とは思うのだが、しかしそれだけで片付けられないほど、ライルの距離感がバグっている気がする。
俺もアホではない。と思う。普通の護衛対象や普通の同僚、同性、友達、の距離感とは明らかに違う。
それが何を意味するのか……自意識過剰かもしれないが……それを好意以外に考えることが出来なかった……。
しかしそれを確認するのも怖いのだ。ライルとは自然に話せるようになってからは友達のような気がしていた。それが嬉しかった。
だから確認するのが怖い。なにか大事なものを失いそうで。キスはともかく、今の心地よい関係性を壊しそうな、そんな怖さを感じ、確かめられずにいる。
ライルの寝顔を見詰め、薄い唇にそっと触れる。この唇が俺の唇に……思い出してしまい顔が一気に火照るのが分かった。
だ、ダメだ……寝よう……。額にライルの寝息を感じながらなかなか寝付けぬ夜を過ごした……。
「またあそこへ行くつもりか?」
ライルは眉間に皺を寄せながら聞いた。
「うーん、いずれまた行くことにはなるだろうなぁ」
あのとき何かを感じた気がするんだよな……なんだったか……なにか……
「むぐっ」
そう考え込んでいたとき、いきなりライルに引っ張られたかと思うと唇を塞がれた。そして腰を抱かれ引き寄せられる。
「んん! ぷはっ! な、なんだよ! 急にこんなところで!」
ライルの胸に手を置き、なんとか身体を離そうとするがびくともしない。そして再び唇を押し当てられる。
「んん! だ、だからな、んぐっ!」
くちゅっと音を立てながら舌を挿入され、口内を刺激される。だ、ダメだ……このままじゃいつものようになし崩し的にあのエロいキスになっていってしまう……。こんなところで……誰に見られるか分からん場所で!
「んふっ、ん、はぁ……あ……ちょ! い、いい加減に……!」
舌を追われそうになる前にライルの胸倉を掴み、ちゅぽんと音を立てながら無理矢理唇を離すと、勢いに任せライルの首筋に噛み付いた!
「!?」
襟よりも上に噛み付いてしまったため、唇が直接ライルの肌に触れた。そのままの勢いで首元を舐めてしまい、ライルから色っぽい声が聞こえる。
「な、なにを!! ん……」
やったのは自分なのにその声に驚き思わず口を離す。
「へ、変な声出すな!!」
「なんのことだ。私はショーゴの気持ちよさげな声しか聞いていないが?」
「!! き、気持ちよくなんかなってない!」
「そうか?」
しれーっとしているライルが腹立つ!! なんで俺ばかりこんな振り回されてんだ!
「そもそもなんでこんなところでいきなりキ……」
思わず大声で叫んでしまい慌てて周りを見回し確認しようとした瞬間……
「ライル?」
ドキィィィィイイイッ!!
背後から男の声が聞こえ、心臓が止まるかと思った!!
み、見られてないよな?
恐る恐る振り向くと、明らかに貴族と思われる、身なりの整った優し気な男が立っていた。ライルの名を呼んだことからライルと知り合いなのだろうということは容易に想像はついたが、なんだろう、誰かに似ているような……。
「兄上……」
「兄上!?」
兄!? ライルの!? あ、それで誰かに似ていると思ったのか。ライルよりも少し長い黒髪に青い瞳。ライルは精悍な顔付だが、この人はライルに似てはいるがもっと優し気な顔だ。
「なぜ城に……」
「今日は少し用事があってね。それよりも……」
ライル兄は俺をチラリと見た。そしてにこりと微笑むと胸に手を当て挨拶をした。
「私はライルの兄、ルフィシス・ギルダンドルと申します。ギルダンドル侯爵家の当主をしております。弟が共にいるということはもしやショーゴ様でいらっしゃいますか?」
「え、あ、はい……」
「やはりそうでしたか。弟はちゃんと貴方様をお守り出来ておりますか?」
兄の顔で心配そうに聞いてくる。ハハ、優しそうな兄ちゃんだな。そう微笑ましく思い、チラリとライルの顔を見ると、ライルは冷たい表情となっていた。あのダウバの食堂での会話を思い出す。あのときもなぜかライルは兄の話題のときには冷たい表情となっていた。
そして俺が返事をする前にライルは俺の前へと一歩踏み出すと、なぜか背後に俺を庇った。
「私はちゃんと仕事はしておりますのでご心配なさらなくても大丈夫です……行くぞ」
それだけ言うとライルは俺の腕を掴みぐいっと引っ張った。
「えっ、あ、え? あ、あのすみません! ライルはしっかり守ってくれてますから!」
ぐいぐいと引っ張られ引きずられるように連れて行かれる。振り返るとルフィシスさんは一瞬驚いた顔をしたが、クスッと笑い少し寂しそうな笑顔で見送っていた。
ずりずりと引っ張られ歩きづらい。
「ちょっと! ライル、どうしたんだよ?」
「…………」
無言のまま手を引かれ、部屋へとたどり着くと、ライルはぎゅうっと俺を抱き締めた。俺の肩に顔を埋め、表情が見えない。
「ど、どうしたんだ?」
俺には兄弟がいないから分からないが、大人になると兄弟も疎遠になるもんなのか? しかしあんな表情になるって……お兄さんとなにか確執でもあるんだろうか……。
俺の肩に顔を埋めて抱き付いてくるライルがなんだか小さい子供のようで、思わず頭を撫でた。思っていたよりも柔らかい髪はふわふわとして気持ちがいい。
ライルはぴくりと反応したが、その手を拒むことはなかった。
いつもならば「魔力を送るためだ」とか言いやがって毎晩寝る前にもキスしてくるくせに、なぜかこの日はキスをすることもなく、ただ抱き締められて眠った。
い、いや、別にキスされたい訳じゃないが! いつもされているとなんで今日はないんだ? って思うだろ! 普通!
俺を抱き締め眠るライルの寝顔……端正な顔立ちは寝ていようが綺麗だ。まじまじと間近で見詰め、改めてとんでもない美形だな、と思う。
ライルの首元に顔を埋めると、ライルの匂いが心地好く感じる。慣れ親しんだ匂いに安心する……って、べ、別に慣れ親しんでない!
あぁ、くそっ。瘴気の森で倒れて、あの処置をしてもらってから、なんかやたらライルを意識するようになってしまっている! 男に!! しかもあれ以来なんだかやたらとライルの距離感が近くなった気がするんだよな……。
俺に他の人間が近付くのを極端に嫌がるし、なにかにつけ身体に触れてくる。さらにはキ、キスまでやたらとしようとしてくるし! かと思えば、さっきみたいに子供のように甘えてくる。
ライルって俺のこと、好きなのか……?
俺自身見た目は悪いほうではないと思う。しかしこの超絶イケメンの傍では雑草レベルだ。
日本にいたころは周りの人間にも好かれていたほうだとは思う。彼女もそれなりにはいた。しかし性格のせいなのか、いつも振られて終わる。彼女たちは「優しそう」と言って付き合い出すのに、しばらくすると必ず皆「優しいけれどつまらない」と言う。友達としては良いが彼氏としては刺激がなさすぎるらしい。いわゆる良い人止まり。
それゆえライルが俺を好きかも? とか思うのもおこがましい。想像するほうが失礼だろ、とは思うのだが、しかしそれだけで片付けられないほど、ライルの距離感がバグっている気がする。
俺もアホではない。と思う。普通の護衛対象や普通の同僚、同性、友達、の距離感とは明らかに違う。
それが何を意味するのか……自意識過剰かもしれないが……それを好意以外に考えることが出来なかった……。
しかしそれを確認するのも怖いのだ。ライルとは自然に話せるようになってからは友達のような気がしていた。それが嬉しかった。
だから確認するのが怖い。なにか大事なものを失いそうで。キスはともかく、今の心地よい関係性を壊しそうな、そんな怖さを感じ、確かめられずにいる。
ライルの寝顔を見詰め、薄い唇にそっと触れる。この唇が俺の唇に……思い出してしまい顔が一気に火照るのが分かった。
だ、ダメだ……寝よう……。額にライルの寝息を感じながらなかなか寝付けぬ夜を過ごした……。
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