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情けは人の為ならず
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ある日、超子は少し暗い顔をして、職員室に現れた。
私は何事かと思い、超子を面談室へとうながした。
椅子に座った超子は重い口を開けた。
「先生、私、以前、数人のグループにいじめられてたの…小学校の時だけどね。その時のリーダー格の女の子がつい先日、近所に引っ越してきたんだけどね。そうしたら、彼女のお母さんが事故で亡くなったの…」
私はウルウルとした眼を見せた超子に不思議な眼差しを向けた。
自分をいじめていた人間の親が亡くなったことをそんなに悲しむのかと思ったのだが、超子は真顔だった。
私は言葉に気を付けながら、超子に尋ねた。
「そうか、気の毒だな。で、その子に会ったのか?」
超子は首を横に振った。
「以前のことがあるから、会いにくくて…私、彼女のその後のことを知って、何だか複雑な思いをしてね」
私は涙目の超子の顔を見つめながら、ティッシュを渡そうとすると、超子が話し始めた。
「私、お父さんの仕事の関係で、引越ししてね。小学校も中学校も良い友だちに恵まれて、毎日が楽しかったんだけど、ある日、前の学校で仲良かった子から電話が掛かってきて、今度は例の彼女がいじめられるようになったことを知らされたの。私の比にならないくらい、酷かったらしくて、学校の屋上から飛び降りようとしたところを先生に見つかって、助かったらしいんだけど、それから人と口をきかなくなり、学校にも来なくなって、引きこもるようになってしまったんだって。それでその後、自殺未遂を繰り返して、精神病院に入院して、あげくの果てには逃げ出して、死のうとしたところをまた見つかって…そんな彼女もお父さんの仕事の関係で引っ越すことになって、偶然、町内の私の親戚のクリニックに来たらしいのよ。かなりやつれていたみたいで…そしたら、彼女のお母さんが…」
超子は優しい子だ…自分をいじめた子がすさんだ人生を送っていることに涙したのだから。
私は超子にティッシュを渡すと、ゆっくりと言った。
「先日、たまたま超子の幼馴染みの夕子君とばったり会って、話したんだけどね。生徒会の話になって、超子って凄いんだって言ってたよ…夕子君の誕生日会の時は塾があって来なかったけど、夕子君が家族同様に可愛がっていた愛犬が病気でたいへんな思いをしているのを知って、大事なテニスの試合を欠場して、動物病院に駆け付けてくれたって…他の子は誰も来なかったけど、超子だけは心配して来てくれたって、嬉しそうに話していたよ。犬も治ったそうじゃないか。でもテニスの試合を諦めてまでとは、夕子君も驚いていたよ」
超子はティッシュで涙を拭くと、少し照れ臭そうに言った。
「大事な夕子が溺愛していたワンちゃんが苦しんでるんだから、行かなくちゃって思って…引っ越して来た時、小学校で同じクラスになった夕子が一番初めに話し掛けてくれてね。しかも、私の飼っていた猫が死んじゃった時に凄く寄り添ってくれたんだ。私、悲しかったけど、夕子のおかげで立ち直れたの。それで、人間って、悲しい時ほど人の有難みを感じるんだなって思ってね。その後、彼女の誕生日会の時はどうしても塾の模試を受けなくちゃならなくて、他の皆んなと楽しんでると思ったから、後で祝ってあげようと思って行かなかったの」
私は超子の顔を見て、笑った。
「人間てさ、楽しい時よりも悲しい時に寄り添ってくれる存在の方が心に響くと思うんだよ。楽しい時はウキウキしていて、喜びいっぱいなはずだから、あまり周りのことに気が回らないかも知れないけど、悲しい時は打ちひしがれて、何にも手に付かなくてどうしていいか分からないかも知れない。そんな苦しい時、誰かがそばに居てくれると心強いもんだよ。そんな優しい超子だから、皆んなが寄ってくるのさ。これが「情けは人の為ならず」ってことだよ。人に心をかけると、自分に返ってくるんだ」
超子はますます照れている様子だったが、おもむろに立ち上がって、私に礼を言い、帰って行った。
そして、どうやらかつてのいじめっ子の母親の葬儀に参列したらしく、物凄く感謝されたらしかった。
その後、たまに会い、話をするそうだが、元気になってきたので、秀才の超子は勉強を教えてあげているそうだ。
超子は言った。
「先生、私、将来はお父さんの経営する会社に入ってバリバリ働こうと思ってたんだけど、先生みたいな教師を目指してもいいし、政治家や官僚になって、国のため、国民のために働くのもいいなって考えてるの。私ね、お父さんと一緒にお父さんの知り合いの国会議員さんに会いに行ったことがあるんだけど、議員さんが来るまで秘書の人と話してたら、凄く気さくなんだなって感じたの。小難しくなかったわよ。だからね、私、まずは秘書になってもみたくなったわ」
私はキラキラした面持ちで行く末を語る超子を見て、自分のことのように嬉しくなった。
よし、頑張れ、超子!応援するぞ!
「結婚式は欠席しても後でいくらでもおつきあいができるが、葬式は長いあいだお世話になった人との最後のお別れなんだ。人の道がわからなければ、ろくな政治家になれない」や、「人の喜び事はとくに励ましてやる必要はない、本人が幸せなんだから。むしろ苦境、悲しみのさなかにあるとき、力になってやるべき」との田中氏の言葉を基にして、書かせて頂きました。
私は何事かと思い、超子を面談室へとうながした。
椅子に座った超子は重い口を開けた。
「先生、私、以前、数人のグループにいじめられてたの…小学校の時だけどね。その時のリーダー格の女の子がつい先日、近所に引っ越してきたんだけどね。そうしたら、彼女のお母さんが事故で亡くなったの…」
私はウルウルとした眼を見せた超子に不思議な眼差しを向けた。
自分をいじめていた人間の親が亡くなったことをそんなに悲しむのかと思ったのだが、超子は真顔だった。
私は言葉に気を付けながら、超子に尋ねた。
「そうか、気の毒だな。で、その子に会ったのか?」
超子は首を横に振った。
「以前のことがあるから、会いにくくて…私、彼女のその後のことを知って、何だか複雑な思いをしてね」
私は涙目の超子の顔を見つめながら、ティッシュを渡そうとすると、超子が話し始めた。
「私、お父さんの仕事の関係で、引越ししてね。小学校も中学校も良い友だちに恵まれて、毎日が楽しかったんだけど、ある日、前の学校で仲良かった子から電話が掛かってきて、今度は例の彼女がいじめられるようになったことを知らされたの。私の比にならないくらい、酷かったらしくて、学校の屋上から飛び降りようとしたところを先生に見つかって、助かったらしいんだけど、それから人と口をきかなくなり、学校にも来なくなって、引きこもるようになってしまったんだって。それでその後、自殺未遂を繰り返して、精神病院に入院して、あげくの果てには逃げ出して、死のうとしたところをまた見つかって…そんな彼女もお父さんの仕事の関係で引っ越すことになって、偶然、町内の私の親戚のクリニックに来たらしいのよ。かなりやつれていたみたいで…そしたら、彼女のお母さんが…」
超子は優しい子だ…自分をいじめた子がすさんだ人生を送っていることに涙したのだから。
私は超子にティッシュを渡すと、ゆっくりと言った。
「先日、たまたま超子の幼馴染みの夕子君とばったり会って、話したんだけどね。生徒会の話になって、超子って凄いんだって言ってたよ…夕子君の誕生日会の時は塾があって来なかったけど、夕子君が家族同様に可愛がっていた愛犬が病気でたいへんな思いをしているのを知って、大事なテニスの試合を欠場して、動物病院に駆け付けてくれたって…他の子は誰も来なかったけど、超子だけは心配して来てくれたって、嬉しそうに話していたよ。犬も治ったそうじゃないか。でもテニスの試合を諦めてまでとは、夕子君も驚いていたよ」
超子はティッシュで涙を拭くと、少し照れ臭そうに言った。
「大事な夕子が溺愛していたワンちゃんが苦しんでるんだから、行かなくちゃって思って…引っ越して来た時、小学校で同じクラスになった夕子が一番初めに話し掛けてくれてね。しかも、私の飼っていた猫が死んじゃった時に凄く寄り添ってくれたんだ。私、悲しかったけど、夕子のおかげで立ち直れたの。それで、人間って、悲しい時ほど人の有難みを感じるんだなって思ってね。その後、彼女の誕生日会の時はどうしても塾の模試を受けなくちゃならなくて、他の皆んなと楽しんでると思ったから、後で祝ってあげようと思って行かなかったの」
私は超子の顔を見て、笑った。
「人間てさ、楽しい時よりも悲しい時に寄り添ってくれる存在の方が心に響くと思うんだよ。楽しい時はウキウキしていて、喜びいっぱいなはずだから、あまり周りのことに気が回らないかも知れないけど、悲しい時は打ちひしがれて、何にも手に付かなくてどうしていいか分からないかも知れない。そんな苦しい時、誰かがそばに居てくれると心強いもんだよ。そんな優しい超子だから、皆んなが寄ってくるのさ。これが「情けは人の為ならず」ってことだよ。人に心をかけると、自分に返ってくるんだ」
超子はますます照れている様子だったが、おもむろに立ち上がって、私に礼を言い、帰って行った。
そして、どうやらかつてのいじめっ子の母親の葬儀に参列したらしく、物凄く感謝されたらしかった。
その後、たまに会い、話をするそうだが、元気になってきたので、秀才の超子は勉強を教えてあげているそうだ。
超子は言った。
「先生、私、将来はお父さんの経営する会社に入ってバリバリ働こうと思ってたんだけど、先生みたいな教師を目指してもいいし、政治家や官僚になって、国のため、国民のために働くのもいいなって考えてるの。私ね、お父さんと一緒にお父さんの知り合いの国会議員さんに会いに行ったことがあるんだけど、議員さんが来るまで秘書の人と話してたら、凄く気さくなんだなって感じたの。小難しくなかったわよ。だからね、私、まずは秘書になってもみたくなったわ」
私はキラキラした面持ちで行く末を語る超子を見て、自分のことのように嬉しくなった。
よし、頑張れ、超子!応援するぞ!
「結婚式は欠席しても後でいくらでもおつきあいができるが、葬式は長いあいだお世話になった人との最後のお別れなんだ。人の道がわからなければ、ろくな政治家になれない」や、「人の喜び事はとくに励ましてやる必要はない、本人が幸せなんだから。むしろ苦境、悲しみのさなかにあるとき、力になってやるべき」との田中氏の言葉を基にして、書かせて頂きました。
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