田中角栄氏に倣おう!

キタさん

文字の大きさ
2 / 18

超子、生徒会長選挙に立候補する

しおりを挟む
教え子の超子は私の生徒たちへの激励の言葉に奮い立ち、まずは生徒会長から始めたいと考え、次期会長選挙に立候補することになった。

そこで彼女は、立会演説会のスピーチ原稿を練りに練って書き上げたのだが、念のため、私に読んで欲しいと持ってきた。

私は、よっしゃと言って、得意の速読で読み終えると、笑顔で言った。

「よく書けてる!お前の稲妻サーブのように完璧だな、ただ…」

超子は長い髪を手でクルクル巻きながら、私を見つめた。

「いけませんか?」

「いやいや、問題無いよ。私が言いたいのはね、完璧過ぎるところだな。上出来過ぎて、聴衆は混乱してしまいそうになると思うんだよ。それでだな…」

私は超子にアドバイスした。

そして、帰りのホームルームの時、クラスの皆んなの前で予行演習することになった。

緊張の面持ちで教壇に立った超子は原稿用紙を見つめていたが、二つ折りして、制服のポケットにしまった。

超子は原稿の内容は全て頭に入っていたが、もしもの時のために用意していた。

しかし私は超子にあえて言った。

「まずは原稿のことは忘れて、自分の言葉で思い切り話しなさい。そうすれば君の話に周りの者はついてくる。同時に人を惹きつけるためには人の目を見て話すことだ。原稿を棒読みしていては人には響かないよ。君なら出来る。先生が請け負うよ」

超子は私の気持ちを察して、原稿用紙には触れないことを決めたのだ。

超子は堂々と1人1人皆んなの顔を見回しながら、話し始めた。

「2年1組の諸美澤(もろみざわ)超子です。今回、私が生徒会長に立候補したのは、まだ設立ほやほやの当学園を世間に知らしめるためであります。この学校の「「決断と実行」の出来る人間を養う」という理念に私は共感致しました。世間では決断を先延ばしし、結局、実行にまで至らないケースがあるように見えますが、私は怖がらず、決めるべき時はしっかりと決め、決めた以上、実行に移す所存であります。そこで、私は当学園を広く認知して貰うべく、社会奉仕活動に力を入れたいと思っていますが、皆さんはいかがですか?私と一緒にやろうじゃありませんか」

と、超子は悠然と語ると、急にくだけた調子になった。

「まぁ、社会奉仕と言っても、そんなに難しいことじゃなくて、歌の上手い人は福祉施設に行って歌うとか…あ、私、中森明菜さん、好きだけど、夕子は松田聖子さんだっけ?もちろんもっと古い歌でも新しい歌でもいいけど、元気良く歌えば、周りの人たちも元気になってくれると思います。私のおばあちゃんは浪曲をやってるからか、声にはハリがあるし、耳も全く遠くなくて、私も元気を貰ってます。もちろん、他にもやれることは沢山あるはずだし、皆んなの笑顔はきっと他の人を笑わせる力があるはず…だから、私に一票を入れて貰えれば、皆んなの力がどうしたら引き出せるか、考えます。私もそうですが、皆んなも家族や友だちから力を貰っていると思うので、その力を他の人のためにも使えば充実した日々を送れると思うし、勉強にも力が入り…」

私は超子の演説に惚れ惚れしていた。

超子の原稿には、中森明菜や松田聖子の名前は書かれていなかったのだが、難しい話を繰り返してばかりいては飽きられるから、たまにはくだけた場面を設けた方がいいよと助言した。

私も小難しい長話を聞かされるのは抵抗があるが、緩急をつければ、自然と話全体が頭に入ってくると感じたのだ。

だから私も授業は真面目に行う反面、授業に沿ったくだけた話を織り込むようにしている。

まぁ、入試を目指す学生であるからあまり脱線は出来ないが、うまく恋バナなども取り入れるようにしている。

入試が終わり、進学した大学では勉強のみならず、サークル活動や友人たちとの交流、そして恋などに花を咲かせるのも楽しいはずだから、超子たちには大学生活という人生のひと時を思う存分、エンジョイして欲しいのだ。

であるので、勉強だけで無く、広い視野で社会を見つめて欲しいと願っている。

そんなことを考えている間に超子の演説は終わり、クラスの皆んなは盛大な拍手をしていた。

私は超子の横に立ち、クラスの皆んなに言った。

「超子の演説の素晴らしいところの1つは自分だけで消化せず、君たちにも問いかけたり、一緒にやろうと声掛けをしている点だ。知らず知らずのうちに君たちを演説の中に引っ張り込んでいたんだよ」

超子に名前を出された、ショートヘアの夕子が頷いた。

「確かに彼女の話を聞いていたら、自分も当事者のように思えたわ。ま、超子のカリスマ性もあるけどね」

超子は顔を赤くして、私にウインクした。

「先生、もし生徒会長になったら、(私が飼っている犬の)ポワロを学校で飼って、皆んなに可愛がって貰えるようにするので、よろしくお願いします」

そう言って、超子は腕時計を見て、いけない!と言ったかと思うと、ホームルーム終了の挨拶をして、テニスコートに飛んで行った。


その夜、私のアパートに超子がやってきて、ため息をついた。

「先生、私の幼馴染みで2組の咲ちゃんも会長選挙に立候補するんだって…私、残念だわ。咲ちゃんは私の味方のはずなのにどうして…」

私は笑顔で言った。

「咲恵君だって君と同じように学校のためを思ってるんだよ。幼馴染み云々の前に彼女は君と同じく個人の人間だ。だから彼女を恨むのはお門違いだよ。君は君で全力を出し切れば自ずと結果はついてくるから安心しなさい」

すると超子は曇った顔から明るくなり、咲恵と話してみると言って、帰って行った。


その後、会長選挙は超子が制したが、咲恵は副会長に収まり、2人の力で学園は盛り上がっていくに違いないと私は確信し、歓喜の中、スコッチウイスキーを存分に味わった。


「分かったようなことを言うな。気の利いたことを言うな。そんなものは聞いている者は一発で見抜く。借り物でない自分の言葉で、全力で話せ。そうすれば、初めて人が聞く耳を持ってくれる」との田中氏の言葉を基にして、書かせて頂きました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...